ジャッキー北へ往く映画『ザ・フォーリナー 復讐者』感想文(多少ネタバレあり)

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , , , , ,

原作小説は読んだことがないのですが1996年刊行だそうでIRAをはじめとした北アイルランドのナショナリスト(カトリック系)準軍事組織による武力闘争がひとまず沈静化したベルファスト合意前のもの、各種テロの傷跡が生々しく刻まれてるんだろうというのは想像に難くない。
映画の中には旅客機を標的にした爆弾テロが出てくるが、これはパンナム機が飛行中に爆破され約270人もの犠牲を出した1988年のロッカビー事件をイメージしたものだろう。ベルファスト合意後の1998年には和平路線を良しとしないIRAの分派が北アイルランドのオマーで(映画の中でジャッキーが巻き込まれたような)大規模な無差別テロを実行してもいる。

以上、知っていたかのように書いていますが映画に見るブレグジット:北アイルランド脆弱な和平(JBpress)を参考テキストにした一夜漬け知識。結構ボリュームありますがタメになりますから是非どうぞ。

そのある種時代の生んだ小説がなぜ今頃掘り起こされて映画になったんだろうと思えば制作2017年、ということはたぶんブレグジットの影響とかあるんだろうな。ブレグジットで北アイルランドの国境・帰属問題が再燃する一方、それとどの程度関係するかは知らないが北アイルランド自治政府も2017年に統一議会が作れず崩壊、目下のところナショナリストとユニオニスト(イギリスに帰属意識を持つプロテスタント系)が分裂・拮抗する権力の空白状態にあるらしい。

そうした背景を持つ映画なのでなんだかややこしい事この上なかったが、ようするにベルファスト合意で一度は達成されたかに見えた北アイルランドの和平が今になって崩れてきていて、北アイルランド自治政府というのはベルファスト合意によってユニオニスト・ナショナリスト両派の最大政党からそれぞれ首席大臣と副首席大臣を任命する仕組みになっているのでそういう面倒なことになっているらしいのですが、ともかくジャッキーの娘を巻き添え死させた過激派一派と党内のどこかで繋がるナショナリスト政党の副主席大臣(ピアース・ブロスナン)は北アイルランド領内のギリギリの統一状態を維持するために過激派との関係を(その気になればおそらく探し出せるとしても)否定しないといけない。過激派には優柔不断な裏切り行為に見えるその和平路線・中立スタンスが皮肉にも彼らに火を点けて、テロは加速していく。

ジャッキーの娘が巻き込まれた爆弾テロはロンドンで起きたからイギリス政府の側はとりあえずお前が犯人の首持ってくれば副主席大臣ポジションは守ってやるからと副主席大臣に要求、そこにまた同志を売るのか自分のポジションを守るか的な葛藤もあり(仮に売った場合はしかしイギリス政府には守られても党内の反発と分裂は避けられないだろう)、これこれの事情で副主席大臣ハイパー板挟み。

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名称を忘れてしまったが副主席大臣の所属するナショナリスト政党の内部ゴタゴタ、副主席大臣とスコットランド・ヤードの駆け引き、さっさと犯人を挙げるようスコットランド・ヤードの担当官をせっつきながら過激派の要求する同志の釈放でちょい揺れするイギリス政府、これらを尻目に着々とテロ計画を進めていく末端の過激派、の暗闘を描いたかなり渋めなポリティカル・サスペンスだったわけだ、『ザ・フォーリナー』は。

…いやジャッキーどこだよ。ジャッキーいねぇじゃねぇかよ。おいジャッキー…というのがしかし映画のミソ。こういう複雑に入り組んだ政治闘争劇の中でテロ被害者のジャッキーはスコットランド・ヤードにもイギリス政府にも北アイルランド副主席大臣にも相手にされず救済もされない。
ふざけんじゃねぇよこっちは娘を失ってんだぞ! っていうんで、実は元ベトコンの先鋭にして捕虜となった後は米国陸軍の特殊部隊に引き抜かれた(!)壮絶過去を持つ戦闘マシーンだったジャッキーは単身ナショナリスト政党を相手取った爆弾闘争に着手するのであった。なんだか凄い話だ。

北アイルランド問題というかなり特殊な問題を題材にしているとはいえ置き去りにされたテロ被害者が怒りの反撃に出るという点ではシュワの『コラテラル・ダメージ』のジャッキー版の観もある。
『コラテラル・ダメージ』と違うのはあっちのシュワは最初から強そうっていうか強いのであ~あ怒らせちゃった、こりゃテロ実行犯皆殺しだ、残念だが諦めろ。みたいな感じで悲壮感とか予想外の展開とか基本的にない恒例のシュワ殺し映画だったのに対して、『ザ・フォーリナー』はそのへんがもっとダイナミック。

娘を失いすっかり萎れたジャッキーが副主席大臣に「名前を…犯人の名前を…」と亡霊のように呟いてシッシと追い返された帰り道に昼飯を作る感覚で即席爆弾を設置、決してザルなセキュリティではないはずの党本部ビルのトイレを爆破して何事も無かったかのように帰って行く場面にはマジびっくりしてしまった。
こいつもしかしてやべぇやつなんじゃねぇか…実際やばいやつであるというのは上でもう書いてしまったが、そのやばさの段階的な見せ方が良かったですね。北アイルランドの仮宿を襲撃した副主席大臣の手下をそれまでしおしおしていた老ジャッキーが急にイスとかテーブルとかフル活用してぶっ倒していくところとか。

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手下が部屋に入ってこれないようにドアノブの下にイスを置いた時には(そうそう、それが普通のイスの使い方だよな)と思ったが入ってきたらイスでボコスカ殴り始めて(こいつやっぱりジャッキーだ!!)のサプライズ。
その後、山地の別荘に避難した副主席大臣を追ってジャッキーもそこにやってきて(どんな情報収集能力なんだよ!)とりあえず威嚇の一発として重武装の警備の目を掻い潜り納屋を爆破、周囲の森を隠れ家としながらその後さらに車も爆破と加速度的にやばさがエスカレート、副主席大臣の手下軍団が山狩りを始めると(さすがに爆弾以外の武器なしでこの状況は…)と5秒ぐらい思ったものの手下の一人がブービートラップに引っかかって戦闘不能、ベトコンの豊富な経験を生かして森全体をデストラップにしていたので不安は木っ端微塵に爆破された。

もうランボーですよ。内容は『コラテラル・ダメージ』ですけどジャッキーの顔はスタローンでしたね。悲壮感溢れるルックスも死んだ目もあれスタローンです。一人エクスペンダブルズ(『大脱出』か?)の如し今回のジャッキーだ。超最高。
そのエクスペンダ・ジャッキーの標的となる副主席大臣ピアース・ブロスナン、実は見ている間は全くピアース・ブロスナンと気付かない役のなりきりっぷりで…かつての優男の残り香が微塵もない。これも重厚な芝居がすばらしかった。

面白いものでピアース・ブロスナンこのあいだも『ファイナル・スコア』で平和を望む萎れた元テロリスト(北アイルランドのではなく東欧の)を演じていて、でまた今回こういう役。
なんか思い入れあるのかなぁと思ったらこの人アイルランド出身だった。ジェームズ・ボンドやったぐらいだからイギリス出身だろうとざっくり認識してたんですが、そうすると年齢的にはナショナリストのテロが最も激しかった時代を経験してるわけだから、イングランドでもなく北アイルランドでもなくアイルランドの人間として心中色々あるんだろうなぁって想像してしまうし、想像に過ぎないとしてもやっぱそれが演技に厚みを生んでいたように思いますね。

ジャッキーのアクションは当然往年のキレなんか無いわけだ。でもそれがジャッキーのしおしお芝居とピアース・ブロスナンの重厚芝居、そして現実にリンクする硬質のポリティカル・サスペンスの物語に乗るとアラ不思議、大変キレたアクションに見える。これはちょっとした発明じゃないすかね。
北アイルランド問題を扱った映画として大変面白かったし、ジャッキー映画としても面白いんだからよくできた映画だ。政治に翻弄され結局は政治の駒でしかない人々の悲哀も正面から描いて、苦い苦い後味を残すあたりも作り手の本気を感じて大変よかったです。

【ママー!これ買ってー!】


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シナリオは真面目なのに主演シュワだから悲壮感とか緊張感とか皆無な筋肉映画になってしまいこれはこれで面白いがその反省から後年『アフターマス』が作られた説。

↓原作


チャイナマン (新潮文庫)

500
ジェイムス

最近このサイトを知って、時々覗かせてもらっています。
たくさんの映画観てらっしゃるんですね。
詳しくコメントしてあり、参考になったり、感心したりです。

この映画、面白かったですね。
ジャッキーもんはオチャラケで好きではないのですが、ジャッキーが一度も笑わない。
ストーリーもアクションも良かった。
ピアース・ブロスナムも老けたが、彼女つくったりして、やはり色男ぶりは健在でした。
エンドソングもよく、Youtubeから録って聴いてます。

これからも拝見させて頂きます。
がんばってくださいね。