『ローマに消えた男』とは、それってなんだかミステリーな感じのする邦題だ。
一体誰が何故どのようにいなくなり、そのことによっていかなる影響が出るのか。
気になるじゃないか。
原題は『VIVA LA LIBERTA』。日本では2014年のイタリア映画祭にて上映されたことがあったらしい。
そのときの邦題は『自由に乾杯』だった。直訳と言ってもいい妥当な邦題である。それを今回の劇場公開にあたってわざわざ変更したのだ。
そこには配給・宣伝会社の並ならぬメッセージがあるに違いない。
だから、見た。早起きして。
あらすじ。
イタリアのある政党の党首であるエンリコ(トニ・セルヴィッロ)は、党の支持率低迷に疲れ果て、失踪する。
側近のアンドレアは失踪をひた隠しにし、エンリコの双子の兄弟である、ジョヴァンニを代役に立てるのだった。

早速タイトルの意味がわかった。イタリアの男性政治家が失踪したので「ローマに消えた男」である。最後の方でもう一回消えるので、正しいタイトルと言える。
邦題の印象通り重厚なミステリーのように始まる本作だけど、実際は軽いユーモアものだった。
代役のジョヴァンニはエンリコとは対照的な性格であり、かつ心の病気の治療を終えて退院したばかり。
遠慮しない大胆な発言が受け、支持率は上昇していくという、この設定ならそうなるだろうねという展開がちゃんとある。
ジョヴァンニの人柄に触れて変わる人もいる。ヒューマンユーモアだ。そうすると『自由に乾杯』の方がふさわしい。まあ、ふさわしいもなにも、ほぼ原題だ。
失踪したエンリコ側の話も同時進行で描かれる。フランスに住む、かつて(今も)好きだった女ダニエル(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)のところへ逃げていたのだ。ダニエルは結婚しており、5歳くらいの娘がいる。
当然のようにエンリコはダニエルに欲情し、ダニエルもキスしたりいちゃいちゃしたりする。
その描写に罪悪感や切なさは微塵もない。とはいえ夫の目を一応気にしているようなとこはあったので、バレなきゃ問題ないという価値観なんだろう。
さらにエンリコは、ダニエルの職場である映画の撮影現場に行ったらそこの若い女性にアピールされてセックスする。
第1話しか読んだことはないが、『島耕作』シリーズはきっとこんな感じなのだろうと思っている。

身分を隠しているエンリコがどうして若い女にモテたのかはわからない。
たまたま女の好みが年配の男性だったのかもしれないし、フランス女はイタリア男に弱いという言い伝えがあるのかもしれない。
そろそろ言うが、俺はこの映画、楽しめなかった。
エンリコがゆとりのある生活をして心癒されたり、型にはまらないジョヴァンニは周囲に新しい価値観をもたらしたりしてるんだろうけど、登場人物たちの内的な問題を教えてもらえないので、何がどのように影響を与えて変わったのかというのが全く分からず、論理的な爽快感が得られないのだ。
起こったことはわかるし、それによって引き起こされた結果も分かる、でも感情が届いてこない。
途中からだんだんエンリコとジョヴァンニが似てきて、最後は「さて、どっちでしょう?」みたいになる。
どっちでもええ。
なんかもしかしたら「すべからく人間とは」みたいなメッセージがあるのかもしれないが、あるかもしれないと考えたということはもうあったのと同じことだから、実際にあるのかどうかはどうでもいい。
心が物語から外れてそういうことを考えてしまうのを俺は好まないのだ。
なんとなくまとまりのないことを書いてしまっている。実は今、この文章は『アドレナリン2 ハイ・ボルテージ』(2009)を見ながら書いている。
悪ノリとステイサムの相性は素晴らしい。ステイサムにはふざけてる感がまったくない。これは他の誰にもできない、彼の特性かもしれない。
ブルース・ウィリスにもヴィン・ディーゼルにもドウェイン・ジョンソンにも、つまり他のハゲにはない個性だ。
よく見ればステイサムにはちょっと毛が生えている。そういうところかもしれない。
余談ついでにもひとつ余談だが、ドウェイン・ジョンソンのキャリアを見ていると、彼は本気でシュワルツェネッガーの後釜を狙っているように思える。
作品選びが実にクレバーだ。シュワもそうだった。必ず新しいことにチャレンジできる役柄を選んでいた。
俺はドウェイン・ジョンソンを応援している。出演映画のほとんどを見ていないけれど、応援している気持ちだけは本物だ。
『ローマに消えた男』。
エンドクレジットでは劇中で印象的に使われていたトニ・セルヴィッロによる鼻歌がフルバージョンで流れる。
俺はこの映画を見るために電車を二本乗り継ぎ、片道三十分のところにある映画館まで行かなくてはならなかった。
朝と夜の二回しか上映されず、都合により朝の回を選んだ。睡眠時間は四時間しか取れなかった。朝食もコンビニのパンをかじるくらいしか余裕がなかった。
そして暗闇でおっさんの鼻歌を聞いている。
今後どこかであの曲を聴くたび、反射的に両耳塞いで「やめろーッ!!」みたいになるんじゃなかろうかと心配だ。
(文・宮本亮)
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全部見終える前に書き終えてしまったが、お勧めして問題ないはず。まだ前半しか見てなくて、もし後半から全然面白くなくなったとしても、悪いのは俺じゃなくて作った奴だからな。憎む相手を間違えるべからず。
聡明たれ、諸君!
今のイタリア政界の現状を軽いユーモアで皮肉っているのでしょう。出口はありません。