『劇場霊』全然おもしろくなかった。
俺はこの映画を見ることで人生の時間を99分も無駄に使ってしまった。だが、映画を責めるつもりはない。悪いのは俺だ。
この映画を見に行った俺が悪いのだ。
ごめんなさい。
あらすじ。
女優として売れたいと思っている沙羅(島崎遥香)たちが、公演を控えた演劇の練習をしていたら人形(巨乳、乳首付き)がガチで殺しにくる。
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簡単に言えば、この映画は子供向けで、俺は大人だったということだ。
大人も楽しめる子供向け映画というものは沢山ある。しかし、それらはアクションやコメディなんかのはずだ。
この映画はホラーだ。ホラーは良くない。大人と子供とで大きな違いがある。
残酷描写だ。
ホラー映画の見せ場とはもちろん死だ。死が様々な姿で迫り、死に捕まり、死ぬ。
その中でも死ぬところが一番盛り上がる。どんな手段でどのように死ぬか、死に様はどんなか。悲鳴、血、内臓、肉片! 現実ではまず見れないものだ。
映画なら見せてくれる。そこに金を払う価値がある。
しかし、『劇場霊』はお子様向けだ。上記のものはほぼNG。それどころか人が死ぬ瞬間もほぼ見せてくれない。
迫る殺人人形を見る登場人物の表情で場面は終わり、次にその人が映ったときは死んでいる。
どんな悲鳴をあげたのか、どんな表情だったのか、どう殺されたのか。この映画は見せてくれない。
子供を怖がらせすぎない配慮だ。自粛レベルはきっとテレビ基準だろう。そうしておけばテレビ放映のときにカットしなくて済む。これぞプロの仕事というものだ。
ホラー映画としての見せ場が充分でないならば、代わりの見せ場なんだろうか。
たぶん主人公の顔だろう。カメラ目線の主人公の顔を何回も見た。ファンには嬉しいことだ。大好きなアイドルの顔を大きなスクリーンでじっくり見れる上に、目が合うのだから。
あれ、こんなに何度も目が合うなんて、もしかして俺のこと好きなのかな? と勘違いしてしまうかもしれない。
こんなわくわくが得られるのだ。金を払う価値がある。
『劇場霊』は子供向けのホラー映画であり、アイドル映画だった。
なので真面目に話してもしょうがないのだ。映画として不充分であることの理由が多すぎる。
俺が譲歩して、子供やアイドルファン目線で見ればいいのかもしれないけど、実際そんなことできるか?
できたつもりでも、結局は俺の価値基準から外れる事なんてできるはずがない。
自分にはない価値観への理解なんて所詮表層的なものだ。退屈な一般論にすぎない。
俺は言いた事を勝手に言い、それを聞いた君は思いたい事を勝手に思うだけなのだ。
でもそれでいい。理解や納得はどうでもいい。大切なのは受け入れるという事。
だから俺もこの映画を受け入れてみよう。

良いところ。
デートに使える。
地方の映画館だと客がほとんどいないので、端の席に座ればいちゃいちゃし放題だ。他の映画でもそれは可能かもしれないが『劇場霊』が飛び抜けて向いている理由は、映画の内容を全く気にしなくていいということだ。
つい映画に気を取られてパートナーを怒らせてしまう心配がない。
良いところ。
警察が主人公の味方である。
邦画ではときどき警察を傲慢な権力組織として描くことがあるが、本作ではそうではなかった。子供向けであることを考えれば当然の措置かもしれないが、やはり正しいことが普通に行われるのは気持ちが良い。
人形が動いて人を殺す。そんなことを誰かに言ったって信じてもらえるはずがない。本作でもそうで、主人公は色んな人に逃げるよう言うが誰も相手にしてもらえない。
だが、警察は違った。速攻で人形がある劇場に来た。
全然疑ってなかった。警察ってのはこうでなきゃね。
良いところ。
主人公は女優で、売れてないが演技の実力はあるという設定なのだが、この映画内での演技の上手い下手の基準は台詞を覚えているかどうかである。
主人公と敵対する売れてる女優は台詞を覚えていない。一方の主人公は自分のみならず他の人の台詞も全部覚えている。だから主人公は女優として成功する資質がある。
子供にとってわかりやすい表現だ。ドラゴンボールでの強さの基準が概ね「動きが速い」というところに集約されていたのと同じだ。
このわかりやすさは好きです。
良いところ。
ホラー映画らしく、本物の地獄を味わえる。
99分の映画だが、3時間分の苦痛を感じるのだ。
きっと生前に仕事も遊びも恋愛もせず、毎日を映画を見たりゲームをしたり、ただ受身の娯楽で時間を浪費してきた者が堕ちる地獄だろう。
『アダムスファミリー2』(1993)サマーキャンプの場面で、ファミリーの子供達がしつけのためにディズニーの映画を延々見せられることになって恐怖で絶叫するというギャグを思い出した。
もし俺が密室に閉じ込められ、拘束された状態で24時間この映画を見せられたらどうなってしまうんだろう。考えるだけで恐ろしい!
言葉とか、忘れてしまってるかもしれん。でも悲しいことも一緒に忘れられるなら、それもいいかな!
(文・宮本亮)
【ママー!これ買ってー!】
身近に『劇場霊』を二回以上見たという人がいたら、クリスマスには是非これをプレゼントしてください。
(宮本)