【ネッフリ】『最後の追跡』を見る

《視聴中断回数:2回》

おもしろかった。
俳優の演技は皆良くて、なかでもクリス・パインのパフォーマンスは素晴らしかった。これまでクリス・パインは『スタートレック』シリーズでしか見たことがなく、清潔感があってキリッとしていて、甘い微笑みのできる口元を持っただけの、つまり顔が良いだけの男かと思っていたが、決してそうではなかったのだ。本作で彼は俳優としての本質的な力を持っていることを証明したと言えるだろう!!

そしてベン・フォスターも良かった。時折見せる不器用な優しさ、ユーモアは、役柄の表面に出ている粗暴さを損なわずに深みを与えることに成功している。本作で彼は「この人どこかで何度か見たことあるけど、どこで見たのか思い出せない」という俺の記憶の壁をぶち破ったと言えるだろう!!
ジェフ・ブリッジスはまあまあ良かった。しかし、それはそういう役柄だったからだと言えるだろう!!

また、撮影も素晴らしい。撮影監督はジャイルズ・ナットジェンズ(Giles Nuttgens)。自然光が最高の瞬間を狙った屋外の場面は美しいし、その美しさをそのまま再現した屋内のライティングも見応えがあった。
この撮影監督を目当てに作品を選んでみようという気にさせてくれる仕事だった。
また、車が走る場面の撮影も、これまで見たことがないカメラワークでおもしろかった。

しかし、作品全体についてはもっとこうであれば良かったのに、という引っかかりが大きく、残念という気持ちがあった。
いつも映画のレビューなどで「もっとこんな展開であるべきだ」などという内容を目にするたび、「上から目線で何様だ、ハゲ」と思っているが、俺も年をとってハゲてきたのでそのような内容の感想を書く資格を得たということだ。
剃り込みの辺りがじわじわ後退しているね。対策努力色々をしてみたけれど、止められないね、ハゲは。ハゲは運命だからね。運命は変えられないよ。

あらすじは以下の感じ。

舞台はテキサス州。連続銀行強盗をする兄弟がいる。兄は刑務所帰りで貧相な顔立ちの男。プライドが高くて疑い深くて怒りっぽく、自分より調子に乗っている奴を見ると喧嘩を売らずにはいられない、もはや犯罪の螺旋からは逃れられない無法者だ。

一方の弟(これがクリス・パインの役)は精悍な顔つきの好青年。座っているだけでモテるタイプ。強盗中にもできるだけ暴力を避けようとする優しさと、その強盗計画も弟が立てているという知性とを持ち合わせている。顔が良いだけの男ではない。きっとスポーツをやってもうまくこなせるに違いない神の傑作と言っても過言ではない生まれながらの主人公だ。

兄はともかく、弟はどうして銀行強盗などするのか?
そして彼らを追うのは老いた保安官コンビ。ひとりは退職を控えた白人、もうひとりはネイティブ・アメリカン。白人保安官はツンデレで、相棒を好いているのだけれどつい憎まれ口を叩いて露骨に迷惑顔をされてしまう。ネイティブ・アメリカン保安官のほうは……特にキャラ付けはなかった。見た目と中身が一緒って感じ。あ、でも、そう書くとみんなそうか。人物背景の説明は特になかったということだね。

兄弟には銀行を襲わねばならない情状酌量的な理由があるのだったが、捜査の手は淡々と彼らに迫っていくのだった…と書くとタイトルと相まって追跡劇のような印象になるが、そこはこの映画にとって重要な点ではないのだった…。

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原題は『Hell or High Water』。なにがなんでも、どんなことがあろうと、という強い意志を表すときに使われる言い回しらしい。まさにハゲゆく状況を言い表すのにピッタリの言葉だが、先に進まなくなるのでハゲネタはこれくらいでもういいだろう。
原題の意味を知ってみると、邦題の『最後の追跡』は、原題の意味を汲んでつけられたものであることがわかる。ありきたりで印象に残りづらくはあるが、悪くはない。ついでに『最後の追跡』というタイトルの映画がこれまでなかったことに驚きがある。気づいた配給会社の人、すげえよ。

残念と感じた理由は、この映画が「Hell or High Water」がしっくりくる内容であったかというと、どうもそんな印象ではなかった点だ。映画はいつもタイトルと内容が一致していなければならないかと言えば、もちろんそんなことはない。
例えばジャッキー・チェンの『プロジェクトA』は撮影が始まった時点ではタイトルは決まっていなかったが、制作するのに呼び名が必要なのでとりあえず「A計画」と呼んでいたのが定着したのでそのまま決定タイトルにしたいい加減なものらしい。でも『プロジェクトA』は良い映画だし、良いタイトルだと思う。覚えやすく、ターゲットである小中学生男子の「映画ってかっこいい心」を掴んでくれた。プロジェクト!

つまりタイトルなどは基本的にはなんでも良いということが言いたかったのだが『プロジェクトA』はクライマックスの海賊掃討作戦を「A計画」と呼んでいたので内容からかけ離れてはいなかったことを今思い出した。でもせっかくここまで書いたものを消すのはもったいないので残しておくよ。「適当な気持ちで文章書いてんじゃねえぞ! ハゲ!」と思ってくれて結構。俺はハゲを怖れない。運命に抵抗するのではなく、運命を愛し、上手に踊ることを選ぶ!

というわけで話を戻すと、ネタバレになるので詳しくは書けないが、本作のストーリー、設定ならば「Hell or High Water」のニュアンスがまさにぴったり当てはまる作品になっていたほうが絶対に良かったのだ。現状でもおもしろいが、その方向で作品をまとめてくれていたらもっと良くなっていたと断言できる。だってそういうタイトルなんだから。脚本家はそういうつもりで書いたってことなんだから。

主人公の兄弟が銀行強盗をする理由がミッドポイントで明かされる。であればこのことをきっかけに観客のこの兄弟に対する見方が180度変わるように前半を演出して欲しかった。兄弟が銀行強盗をすることへの疑問をもっと煽って欲しかった。保安官サイドはそのために活用するべきだろう。そうすればミッドポイントはもっと劇的になり、後半へのさらなる期待と展開への驚きをもたらすことができたはずだ。
もちろん、そんな劇的さは不要と感じる人もいるだろう。劇的さを排したことが本作の魅力であり、特別たらしめる理由であると。それはそうだ。

でも、映画の「もし」について批判的ではなくあーだこーだ語りあうのは楽しいものだ。そうしてその「もし」を満たしてくれる作品を求めて、人々は新しい映画を見るし、作るのだ。そうやって世界は広がっていくのだ。

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本作の脚本家、テイラー・シェリダン(Taylor Sheridan)は『ボーダーライン』の脚本を書いている。『ボーダーライン』はおもしろいという噂を聞いているので、俄然見たくなった。これ書き終えたら見よう。

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