【ネッフリ】『この世に私の居場所なんてない』を見る(ネタバレあり)

《視聴中断回数:1回》

退屈せずに見続けることができたが、見終えたときの満足感はさほどではなかった。減点式で見るならば高得点だが、加点式ならば得点は伸びない、そういう作品だ。
ネタバレするよ! 満載だよ!

Netflixによるあらすじ。
気弱でおとなしい看護助手の家に空き巣が入るが、警察は何もしてくれない。彼女は仕方なく、変わり者の隣人と手を組んで、自分で犯人探しを始めるが…。

冒頭、庭で夜空を見上げる女性の姿から始まる。この女性が主人公に違いない。
空は曇り、そればかりでなく乱雑に生い茂った樹木で半分覆われている。そんな空を睨みつけるように見つめる女性の表情。瓶ビールを一口飲む。近隣からは盛り上がった談笑の声が聞こえる。女性は一人。安物の平屋から漏れる光だけの庭で、着古したスウェットにジーパン、髪は大雑把にひっつめて小太りの中年女がひとり。
やがて女性は平屋に入る。そしてタイトル。『I Don’t Feel at Home in This World Anymore.』

よくできたオープニングだ。映画のオープニングはイメージからはじめるというセオリーがあるが、真面目で忠実だ。
1分程度のこのくだりで主人公と彼女の置かれている環境は充分説明できている。そのあとしばらくは主人公の日常、仕事や性格描写、恋人の有無など。
このあたりは各シーンワンカット程度でテンポよく進行する。シュールなユーモアで味付けしてあるので、この映画の方向性がだんだん見えてくる。
とても丁寧な序盤で見やすくおもしろい。すっかりこの作品に興味を持つことができた。

ここまでがあらすじの「気弱でおとなしい看護助手」の部分に当たる。ではいよいよ「空き巣が入る」に差し掛かる。本筋のはじまりである。
ここまでで大体5分。基本に忠実な良いペースである。

空き巣のアレコレがあってから、主人公はようやく落ち着く時間を持つ。友人に会い、主人公が何に不満を持っているのかを吐露する。観客がこの主人公を愛せるかどうかが決まる重要な場面だ。ここまでで観客は順調に主人公への同情心を育んでいるだろう。それらは彼女が置かれている状況によるものだ。しかし、それだけでは足りない。彼女が主人公として認められるには、彼女自身の内から発した言動で主人公の資格を持っていることを証明しなくてはならない。観客に一目置かせるなにか。

監督に気に入られて主人公と扱われているこの人物が、果たして本当に主人公であるのかを観客が審査する重要な瞬間である。
彼女は言う。「みんな自分勝手で、意地悪すぎる」と。彼女は人間への絶望すら感じているようだ。
なるほど、ではこれが本作のテーマだろう。彼女はきっとこれから「自分勝手で意地悪な」アレコレに立ち向かうのだろう。展開によっては彼女は無力のまま終わるかもしれない。なにしろ相手がでかすぎる。それでも、彼女自身は何かを得ることができる。誇りを取り戻し、愛を得るのかもしれない。
良さそうだ。OK合格。この女性が主人公だ。

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この女性、主人公の名前はルース。そんなルースに男性との出会いがある。奇抜な格好の割に消極的な性格のトニーである。出会い方は最悪だけど、のパターンで20分経過したあたり。
何やかやの縁で空き巣の犯人探しをトニーと一緒にすることになる。とりあえず盗まれたもののひとつ(あまり大事ではないほう)は取り戻した。ここで30分経過。

ふと、疑問が生じる。この時間配分。型通りすぎないだろうか。いや、決して悪いことではないはずだ。むしろ俺は映画の時間配分は作り手の自覚の表れと受け取り、重要視する価値観なのだ。
だが……そうか、。型通りなのは時間配分だけではなかった。
トニーのキャラクター。変人。友人がいなくてアジアに傾倒している。独学で東洋の武具を扱い、戦うときはブルース・リーのように振る舞う。繊細で内気だが、怒ると感情を抑えられなくなる側面も持つ。
なんか見たことある。独立系映画で定番の変人キャラ。

そう気づくと、映画の展開も同じように思えてくる。ゆるいトーンなのに暴力描写は容赦ない。そしてどんどん過激なほうへ…。
そういう映画か。この監督(脚本も同じ)は、好きな映画をよく研究し自分で作ってみているのだ。そしてうまくいっている。ならば悪いことではない。創造性こそ感じられないが、映画はそれだけではない。うまく作られているのは技術であり、高い技術は創造性に匹敵する。
それにストーリーへの期待はある。このようにうまくまとめる力があるなら、ストーリーもまとめてくれるだろう。

映画中盤、ルースは自分たちはこの世界で何をしているのかという問いかけを再度口にする。やはりこの映画のテーマはこれなのだ。ルースは答えを見つけるだろう。どのような答えで、いかにして見つけるか。楽しみだ。
しかし後半、雲行きは怪しくなる。事件を通してルースは変化する。主人公だから当然だが、その変化の方向が自分勝手で意地悪な方向なのだ。

まだわからない。一度逆に振ってから主人公に気づかせ戻すというのがあるだろう。元々正しい場所に居たのを一旦悪い方に行かせてまた戻してもテーマが消化できるようには思えんが、脚本家を信じよう。それにどうだ、トニーがそんなルースを悲しげに批判している。大丈夫さ。ルースが自分の味方をしてくれないトニーに失望し、まったく反省のきっかけにならなかったように見えるが、まだわからん。人の心ってのは表面には現れないもんさ。主人公が間違った方に進むには映画の構成上遅すぎる気もするが、まだわからん。手遅れってぼどじゃない。信じよう。この監督は基本に忠実でまとめる力があるはずだ。
ここで65分経過。残り25分。さあ第三幕でどうなるか。

第三幕は、血とかゲロとか命がけのドタバタで、それが終わったら映画も終わった。なんかルースとトニーも付き合うことになったみたいでハッピーエンド。
でもたぶんあのふたり、すぐ別れると思うよ。だってそんなに気が合ってなかったもの。

そういや字幕でモーニングスターのことを朝星棒と訳してて、マジかよと思って調べたら正しい日本語だった。へー。

【ママー!これ買ってー!】


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やっぱりストーリー上の課題を解決せず、アクションで誤魔化した映画。でもおかげでヒットしたので、制作者は正しかったのだ。
『危険な情事』も単純なアクション方向に撮り直しさせられたけど、それがウケてやっぱりヒットした。映像特典で撮り直し前のエンディングが見れるので、是非見比べて欲しい。

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