【ネッフリ】『ビースト・オブ・ノー・ネーション』を見る

《視聴中断回数:30回以上》

まったく地獄である。
俺はこの映画を見終えるのにおよそ一週間かかった。俺に合わない映画だった。内容が過激であるということではない。映画としてのつくりが合わなかった。集中力を維持し続けるのが困難で、何度も視聴を中断した。
しかしながら、きっとこの映画を好きだと言う人はいるだろうと思う。心打たれた人、涙を流した人、はっとさせられた人、いるだろう。なのであまり悪いことは書きたくない。誰かの感動を台無しにしてまで主張したいことなど俺にはない。

Netflixによるあらすじ。
西アフリカのとある国で内戦が勃発。家族を引き裂かれた少年は、武装集団に入ることを強要され、少年兵へと変貌していくのだった。

つまり「少年兵の悲惨な現実」というものを描いた映画なのだ。そして、本作で描かれているのはただそれだけである。
ただそれだけなんて言っちゃえばなんでもそうじゃないかと反発されそうなので、もう少し詳しく書こう。

本作の主人公はアグーという名の少年である。そして、それ以外のことはよくわからない。
冒頭は平和な日常生活が描かれる。陽気な少年たちが日々を賑やかに生きている。金はないけどみんな楽しそうで、家族もいた。

ただ、そういうものはアグーでなくても同じだ。これらは状況であり、キャラクターではない。
知りたいのはアグーの好きなもの、嫌いなもの、欲しいもの、失いたくないもの、誇りと屈辱、秘密と嘘、なにに見とれてなにから目をそらすのか。
すなわち、アグーがどういう人間であるのか。序盤ですべてを伝えきる必要はないが、ヒントは欲しい。少なくとも俺がアグーに興味を持てるくらいには。

もしかしたら作り手にはどこにでもいる平凡な少年が悪魔の化身になってしまうことで戦争の悲惨さを表現したい狙いがあったのかもしれない。だからといって、本当に個性を描かないというのは困る。
いや、作風によってはそれならそれでもいい場合もある。しかし本作の内容はアグーに注目することでテーマを浮き立たせるつくりのように思えた。撮り方も、場に演者を置いて、彼の動く様子をフリーなカメラで追うといったものだ。であれば確実に、俺はアグーがどういう人間であるかを知っておいたほうが良いのだ。

特殊な個性が欲しいというのではない。
駅前に座って、道行く人をひとりひとり観察してみると良い。漠然と見ていたときは群衆、サラリーマン、男、中年、程度にしか認識できないだろう。
しかし、細部を見るのだ。髪型(短髪? 固めてる? 分け目の位置?)身につけている物(ネクタイの柄はスーツに合っているか。眼鏡の形状)。手荷物(ちょっとした物を運ぶときに専用の鞄を用意するか、スーパーのビニール袋ですませるか)。歩く速度。姿勢。視線。信号で立ち止まる位置。人とぶつかりそうになったときの対応の仕方。

さらに何かが起こったときの反応もそれぞれ違うだろう。例えばクラクションが鳴ったら、ある人は即座に音の出処を見るかもしれないし、別の者は無関心かもしれない。視線は送るが単に見てみたという人や、見ないけども眉間にしわをよせる人もいるだろう。
外から見ただけでも彼らの人物像に思いを巡らせることができる。映画であれば、会話や出来事、撮影や照明、音楽を用いてより多くの情報を得ることができる。

ところがこの映画で得られるアグーの情報は「子供」「アフリカのどこかの国」「両親と兄」くらいだと思う。
つまりこれはストーリーがないということを意味している。道行く人を見るだけでもそこにストーリーは見いだせるというのに! この映画にはそれがないのだ!
「少年兵の現実」という言葉から想像できる以上の情報がないのだ。

家族の死、初めての殺人、ドラッグ、強姦、集団リンチ、仲間割れ、同性への性的奉仕?(たぶん)などをこの子供は体験する。これらは言葉だけ見ても衝撃的で不快な気持ちになる。
映画はこれらを直接的、間接的に描写する。それなのに俺の感情は動かないのだ。退屈なのだ。なぜならば、この文字情報以上のことがないからだ。

初めての殺人。
字で読めば1秒かからない。これを映像で数分かけて見る。無限の時間だ。演技は平凡だ。まあそういう反応だろうなというもの。下手な演技ではないし、よくやっていると言っても良い。でも監督の要求を忠実にやってるだけで、本人の内から出た感情ではない。
子役だからそこまでは望まなくてもとも思うが、本作の撮影の仕方はそういう、役者の内から溢れ出た、その瞬間しか見ることのできない表情を捉えるための方法だと思っている。このちぐはぐさも俺の苦痛の原因のひとつだ。

以上を持ちまして、この内容がない文章を終わります。自分に合わないと感じた映画は見るべきじゃないね。ごめんなさい。

あ、そうだ、忘れるところだった。武装集団にちんこ丸出しの男がいます。無修正です。Netflixは性行為以外でのちんこ露出は修正入れない方針ぽいね。

【ママー!これ買ってー!】


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『ビースト・オブ・ノー・ネーション』に囚われている期間中に見た映画。
POVの低予算ホラーかと思いきや、老人の出演場面関連だけ通常の劇映画らしい撮り方になる。しかもそれが結構うまい。
通常撮影の映画に一部POVはよくあるが、基本がPOVの映画に普通の撮影が混ざるというのは新鮮な気がしたし、脚本との相乗効果でPOVだけでは出せなかった良い感情を引き出せていた。

『ビースト・オブ・ノー・ネーション』の撮り方はいわばPOVのようなもので、うまくいけば抜群の臨場感を生み出し、観客も物語の参加者であるかのような、生々しい感情を持たせることができる。きっとその効果を狙ったんだろうけど、たぶん普通に撮ったほうが良かった。『グッド・ネイバー』のように!
もしかしたら『グッド・ネイバー』は、老人役がジェームズ・カーンだったのでネームバリューに日和っただけかもしれないけれど。

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