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おもしろかった。とても好きな映画だ。
俺はまだ老いの範疇に入っていないが、そう遠くもない年齢だ。年をとるごとに心の中で少しずつ大きくなる感情がある。言葉にするのが難しい、複雑な思いだ。そういった色々なことを、本作はラブストーリーの体裁の中で丁寧に描いている。
Netflixによるあらすじ。
それぞれの伴侶に先立たれた男と女が、互いの孤独を埋めるため、話をしながら一緒に眠る。ただそれだけでも、新しい愛が始まるには十分だった。
映画は、ある夜に老婦人(ジェーン・フォンダ)が老人(ロバート・レッドフォード)の家を訪問するところから始まる。
老婦人は家の前で一旦は引き返すが、やっぱり老人宅のドアをノックする。
犯罪とは無縁らしい田舎町とはいえ、夜に女性がひとりで訪問するのは余程のなにかがあるに違いない。
ふたりはドア越しに名乗り合う。老人はルイスで老婦人はアディーだ。お互いに顔と名前は知っているものも、親しい関係ではなさそうだ。
ルイス家のテレビはブラウン管で、玄関ドアの立て付けは悪い。貧乏というのではなく、ただ変化に対応していくつもりがないのだろう。居間に通されたアディーは要件を言おうとするが、テレビの音声を気にする。ルイスはそれをすぐ察し、一言謝ってテレビを消す。
アディーの服装は派手ではないが、老人が普段着るものとも違うように見える。肌の露出も多く、スボンもタイトで体のラインがわかりやすい。彼女が若い頃に着ていた服のように見える。
アディーはルイスに「夜、一緒に寝ないか(sleep with me)」と提案する。英語でも日本語と同じように、この言い回しにはセックスの誘いの意味もある。
しかし、ルイスは浮かれたり照れたり、早合点したりはしない。慎重に相手の真意がわかるまでは待つ。そういう人物なのだ。
アディーはセックスのことではないと言う。セックスにはとっくに興味をなくした。互いの孤独についてと、そして夜を乗り切るための提案だとアディーは話す。誰かがそばにいれば、安眠できるんじゃないかと。
ルイスは曖昧に笑う。同意なのか否定なのか、わからない。返事は結局保留にする。
ルイスは玄関まで見送り、アディーは不器用そうに鉄門を閉めて帰っていく。
始まってすぐのこの5分程度のシーケンスで、すっかりこの映画を好きになった。この監督を信用するに足る細部がいくつもあった。丁寧に映画のトーンを作っている。きっかけとなる場面を冒頭にもってきて、提案のインパクトに頼らず必要な情報をコツコツ積み重ねることでこちらの興味をかきたててくれた。嬉しい。
この映画は単純な恋愛ものというわけではない。わざわざ老人を主人公にしているのだからわかるだろう。
孤独についての物語だ。
一時的な孤独ではない。生きていることで積もりゆくもののことだ。それを後悔と呼ぶこともあれば、罪悪感と呼ぶ人もいる。失望や達観も同じだろう。劇中では「魂」と呼んでいた。本作の原題は『Our Souls at Night』だ。
また、本作では彼らは過去と向き合う義務について描くことも忘れない。生きてきたことの結果は、いつだって良いことばかりとは限らない。選択が悪い結果を生むこともある。
ルイスもアディーも、過去の行いによって彼らの子供たちを苦しめていた。この親子間の会話が良かった。親も子も大人で、お互いのあいだで何度も話し合った話題であることが伝わってくる会話だった。過ごした時間や関係が理解できる。ああ、親子というのはこういうものだと、身に覚えがある。
だから直接的な言葉では言わない。それでも溢れてしまう感情や思いは、外的な要因の力を借りる。そういうのもリアリティがあっていい。年を取ると親子喧嘩をするエネルギーもなくなるもんなのだ。
なんてことを書いていると、陰気な映画のように想像するかもしれないが、そうではない。本作の陰気さは根底にあるもので、表面には暖かさがある。作り手の視線の暖かさだろう。清濁あわせて人間を愛し、面白がっている視線だ。
この視線は、老人を主人公にした映画には特に大切だ。なぜなら、輝いていた若い頃を取り戻そうというのが老人映画の主題となりがちだからだ。しかし、それでは老いを否定することになってしまう。現状を頭から否定して「老いても素敵な人生を送りましょう」では辻褄が合わない。年齢なりのことをして輝くことを結論とすべきなのだ。
取り戻すべきは輝きであって若さではない。全てひっくるめて人間は輝くことができると信じられる人だけが、老人を題材に扱うべきなのだ。
本作の欠点としては、ルイスに甘すぎるかなと少し思う。過去の過ちをあまり反省していないように思える。
しかしそんなふうに人に報いを求める外野の正義感が、人々から楽しむ心を奪ってしまっているのかもしれない。
それに、親子のことは彼らにしかわからないことなので、全部を知らない他人が正論だけで口を挟むべきではないと思わせるリアリティがあった。だから気にしないこともできる。
第一、きっと男は根っからのプレイボーイなのだ。表に出ている以外にも色々あるに違いない。アディーは若い頃そんなルイスに憧れを抱いていたが、自分に自身が持てずに声をかけられなかった。そんな設定があるのだろう。と、強引に好意的な妄想でフォローするくらいに、この映画を気に入った。
【ママー!これ買ってー!】
なんとなく、ロバート・レッドフォードといえばポール・ニューマンみたいな安易な発想で選んでみた。内容は…まったく覚えていない。20年くらい前に深夜のテレビ放送で見て、おもしろかったという感想は記憶しているんだけど、内容は…まったく…。見直したいな、という意味でピックアップ。
ああ、そうだ! このときに見てた映画が三本続けて音楽がハワード・ショアで、彼を名前を覚えたという思い出が!
他二本は『エド・ウッド』と『ルームメイト』だったかと思う。こんな些細な記憶を思い出すことがあるのか!