【ネッフリ】『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』を見る

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本作の監督であるノア・バームバックの映画は二本見たことがある。『イカとクジラ』はおもしろかった。これで名前を覚えた。『ベン・スティラーの人生は最悪だ!』は途中で見るのをやめた。会話がしっくり来ていないように感じたからだ。ということは22本じゃないな。1.3本くらいだ。結構序盤でやめたので。
いまのところ、バームバックの映画は一勝一敗である。今作はどうだろうか。バームバックの映画は好きになれそうな予感があるので、おもしろくあって欲しい。
お気に入りはひとつでも多いほうが人生豊かな感じがするでしょ。俺は豊かに生きたいのだ。意識高い系だから。
ときどきNetflixをアルファベットで書いているのも意識高いからなんやで。

Netflixによるあらすじ。
積年の恨みや競争心を抱えたまま、NYで顔を合わせた3人の兄妹。大人になった今、過去の栄光にしがみつき、老いてなお気難しい芸術家の父に振り回される…。

この映画を見るにあたっての大きな不安は、ネットフリックスオリジナル映画だということだ。これまで10本程度のネットフリックスオリジナル映画を見てきたが、多くは「映画っぽさ」に留まる習作のようなつまらないものだった。そして、そういうものはどうしてだかバームバックの映画を思い出させる。だからネットフリックスとバームバックの組み合わせは結構不安なのだ。

でも杞憂だった。おもしろかった。俺はバームバックを好きかもしれない。コメディのセンスは全く合わんが、人間の受け止め方が好きだ。批判的な様子がない。しかし、全部を許容するような愛とも違う。
彼は映画を作ることで人間を知ろうとし、知ったことを俺たちに伝えてくれているのかもしれない。それとも単におもしろがっているだけなのかもしれない。

全編しゃべりっぱなしと言って良いくらい会話ばかりの映画だ。雑談のように思える会話は、登場人物たちの人物像、関係、これまでの人生を教えてくれる。映画とともに始まり映画と一緒に終わるのではない人生だ。映画で描かれているものは過去の結果であり未来のはじまりだ。そういうことがちゃんと伝わる。丁寧に書かれた脚本だ。心を任せられる。

ダスティン・ホフマン演じる父親・ハロルドが良い。
成功しなかった芸術家。
報いを受なくてはならないような人間ではない。だが、彼は家族を傷つける。なぜなら自分の人生を生きている真っ最中だからだ。親であることは彼にとって「子供が生まれた」という以上のものではない。愛情がないのではない。他者に無関心でもない。親としての常識が欠けているのだ。あくまで自分として振る舞うことから外れないだけなのだ。

良い親ではないが、悪い親かというと難しい。だから子供たちはハロルドを憎めない。悪意を向けられたわけではないからだ。
おもしろいキャラクターだ。精神科医に聞けばなにか病名がありそうだが、一般的な価値観では異常者ではない。もしハロルドが芸術家として売れていたら、彼の個性は成功の理由として持ち上げられただろう。

アダム・サンドラー演じるマシューは「むしろ憎むようなことをされたかった」と言う。そうだろう。彼らの悲しみや苦しみは望んだものが与えられなかったというものだからだ。特別なものではない。誰もが普通に手に入っているものだ。親と子の普通の関係。
いまや自分たちは大人になり、親には親の人生があることを理解できるようになってしまった。それに、過ぎた時間は戻らない。責めたところでしょうがない。車を壊そうが病院に火をつけようが気が晴れることはないのだ。

過去をなかったことにはできない。決着をつけなきゃならない。しかし、相手はそういったことには無関心だ。相手の協力なしに相手との関係に決着をつけなきゃならないのだ。
時間が解決してくれるなんてこともない。なにしろ親のほうが先に死ぬのだ。本作のミッドポイントもそんな感じだ。そこから子供たちは結末を迎える準備に入る。それと意識するわけではないが、状況がそうさせる。子供たちは父親のみでなく、自分たちとも互いに向き合う状況になる。
そして最後の決断は、ちゃんと自分の意志で下す。偶然や錠剤は助けだ。だが本当に歩き出すときは自分の意志でなきゃならない。

アダム・サンドラーの演技は素晴らしかった。
シンプルに見える演技だ。この映画に求められるベストな表現だ。なんて普通なんだろうと感心する。普通だからこそ複雑な感情に現実味がある。
しかしこの普通という芝居はなかなか難しい。最近では「普通の芝居」というパターンも確立されてしまっているので、塩梅を間違えるとむしろ嘘臭く格好悪くなってしまう。主役で、且つこの台詞の多さで普通を演じられたというのは驚くべきことだ。

ダスティン・ホフマンの演技はいつものように作り込み過ぎだが、本作ではベン・スティラーの演技もそれに近く、家族間での関係性の違いとしてうまく作用していたとも取れた。狙ったキャスティングかもしれない。

豆知識。異母(異父)兄弟は英語でhalf brother、親の再婚相手の連れ子はstepbrother、自分の結婚相手の兄弟はbrother-in-lawという。そしてstepbrotherで動画検索するとアダルト動画がたくさん出て来るが、これは俺のPCだけだろうか。

バームバックの映画をあと2本くらい見ておもしろかったら、ファンになるかもしれない。

【ママー!これ買ってー!】


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バームバックの出世作かな。実は内容をほぼ忘れてしまった。でもおもしろかったという感想は覚えている。見直したい。

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