【ネッフリ】『ジム&アンディ』を見る

ジム&アンディ[Netflix]

《視聴中断回数:1回》

1999年の映画『マン・オン・ザ・ムーン』(監督:ミロス・フォアマン)を撮影中の映像と現在のジム・キャリーへのインタビュー映像とで構成されたドキュメンタリー映画である。
2017年の今頃になってどうして1999年の映画のドキュメンタリーが作られたのか。というよりどうして今でこの映像が公開されなかったのかというと、ジム・キャリーが「クソ野郎に見えてしまう」と映画会社が判断したからだという。
当のジム・キャリーは公開して欲しがっていたし、なんなら映画本編にこの映像を取り入れて欲しいという狙いがあったようだ。

Netflixによるあらすじ。
演技と現実の区別がつかなくなるほど役にのめり込んだ経験が、人生を変えた。喜劇役者ジム・キャリーが今語る、衝撃的な体験とは。

『マン・オン・ザ・ムーン』は若くして亡くなったアンディ・カウフマンというコメディアン(パフォーマンスアーティスト)の伝記映画だ。
ジムはもちろん主役のアンディ役を演じたのだが、彼は映画の撮影期間中ずっと、カメラが回っていないところでもアンディ(そしてアンディの作ったキャラクターであるトニー・クリフトン)を演じ続けた。

と書くと、ものすごい役者魂! すごい! となりがちだが、そんな単純な話ではなさそう。幾つかの疑問と問題点が浮かぶ。
ジム・キャリーはアンディ・カウフマンと実際に接したことはない。ジムの演じるアンディは直接本人を知る人からの入念なリサーチの結果ではない。
もちろんアンディの遺族や友人から情報は得ているが、ジムはそこに縛られず自分の自由な想像で作り上げたアンディ像を演じている。それはつまり、パフォーマンス中のアンディ・カウフマンということだ。

言い換えると、みんなが知っているアンディ・カウフマンということになる。伝記映画『マン・オン・ザ・ムーン』はそのようなアンディ・カウフマンを描くことを目的としていたのだろうか? それともみんなの知らないアンディだったのか?

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『マン・オン・ザ・ムーン』監督のミロス・フォアマンはジムが常にアンディであり続けることに困惑していた。つまりジムの行為は監督の了承を得てのことではないということだ。監督と主演俳優が同じ方向を向いていなかったのだ。
そしてその困惑は監督だけでなく、他のスタッフや出演者にも広がっていた。実際に生前のアンディと親交があり、本人役で出演していたプロレスラーのジェリー・ローラーはこう言う。「アンディはとても行儀が良かった。彼はいつも俺のことを『ローラーさん』と呼んでいた」。

ジム・キャリーはそうはしない。ジムがするのは、カメラの前でアンディがしていた傍若無人な振る舞いの模倣だ。それをジムはカメラが回っていないところでもする。
そのズレは作品に対する方針の違い? それだけだろうか?

カメラが回っていないところ、と書いたが実際はそうではない。メイキングのカメラがある。メイキングのカメラは常にジムを撮影している。
ジムは役と自分がわからなくなっていた? 純粋な役者魂? 狂気? そうだろうか?
ジムがジェリー・ローラーを挑発し続け、ついに乱闘となってニュースになったとき、喜んでいたのはジムかアンディか。

ジム・キャリーには『バットマン・フォーエヴァー』出演時に、トミー・リー・ジョーンズから俳優として扱われなかったという過去がある。

メイキングカメラの前でジム・キャリーがアンディ・カウフマンが過去にしたことを再現し続けることで、スタッフや共演者は自分たちの仕事がやりづらくなっていた。
ミロス・フォアマンは状況をましにするため、ジムに電話をする。ジムはミロスに言う。「では二人を降板させて、僕が物まねで演じましょうか」二人、とはジムが四六時中演じ続けていたアンディ・カウフマンとトニー・クリフトンのことだ。そしてミロスは諦める。映画を完成させることを選んだのだ。

『マン・オン・ザ・ムーン』は監督のコントロールを外れた状況で制作を続けることを余儀なくされた。ジム・キャリーは心ゆくまでアンディ・カウフマンをやり、満足できただろう。しかし他のスタッフはどうか。共演者はどうか。
生前のアンディ・カウフマンを知り、『マン・オン・ザ・ムーン』のプロデューサーであった共演者のダニー・デヴィートは撮影の初めの方こそジムを上機嫌で褒める様子が映っていたが、途中からはただただ疲れた様子でジムの振る舞いに無関心な態度だった。

『マン・オン・ザ・ムーン』の主役はジム・キャリーだが、映画制作の現場においての主役が俳優であるのはあまり好ましくはない。俳優が映画制作に関わるのは撮影現場だけで、最初から最後まで責任をもって関われることは稀だからだ。
出演者が絶対的な主役として振る舞うことが良い結果につながるのはドキュメンタリーの場合だ。そして、『マン・オン・ザ・ムーン』の撮影現場には2つのカメラがあった。映画本編を撮るカメラと、メイキングドキュメンタリーを撮るカメラ。
ジム・キャリーは、はたしてどちらのカメラを見ていたのか。

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アンディ・カウフマンという人物のおもしろさと魅力は充分に描かれているが、しかしそれだけだという印象を持っていた。『ジム&アンディ』を見て、その理由がわかった。

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