映画『旅猫リポート』の全編を見ておれは泣いた(反語とネタバレ注意)

《推定睡眠時間:0分》

記事タイトルが小川太郎Aに対する高橋源一郎のアンサーエッセイのパロディなのは特に意味とかないのですが見ていて泣きそうには何度もなりました。
あぁ、喋っている。高畑充希の声を借りて猫が喋っている。最初の台詞はこうでした。我輩は猫である。名前はまだない。と、昔の偉い猫は言った。フィリップ・K・ディックかハーラン・エリスンの小説のタイトルみたいですね。もう泣きそうになる。

でもまだまだ泣くには早かったのです。高畑充希は福士蒼汰を指して言います。彼がボクの飼い主だ。このヤロ猫様に福士蒼汰とはいえ人間ごときを飼い主とか言わせやがっ…ゲフッ! ゴボァ! 風邪をひいたみたいなので感情が不安定です。これからどんどん文章が乱れますが許してください。すいません。

本猫曰く、高畑キャットはそのむかし野良キャットでした。その頃、名前のまだなかった高畑キャットにカリカリ系の貢ぎ物をよく駐車場に勝手にまいて与えていたのが福士蒼汰。
うん、泣きそうになる。ぼくがコンビニ夜勤のバイトをしていた頃にもこういう常連のお客様がいらっしゃいました。懐かしいなぁ。

日に何度も何度も店を訪れては焼酎だけを買っていくそのご高齢のお客様は深夜に限って焼酎と一緒にカリカリを買うこともありました。
猫を飼っているんだ。でもカリカリが一日に一度だけなんてスパルタだなぁ。そう思っていた俺ですがあるとき店の裏手にカリカリの痕跡を発見、そうか、野良キャットかもしくは人の家キャットとコンビニの裏手で密会していたのか!

孤独な老人の人目を憚る深夜の逢瀬。カリカリ跡を眺めながらその光景を想像するとなんだか鼻がツンとしてきた気がしましたが気のせいとかじゃなくてあれ野良キャットがウンコしてたからリアルに臭かったんだよね。
ガハァッ! ブフォ! 風邪です! 風邪で変な記憶が蘇っただけです! 映画は悪くありません!

そのご高齢のお客様もいつも焼酎飲んでるので顔色が非常によろしくありませんでしたが福士蒼汰も顔色がよろしくありません。
実は福士蒼汰、何らかの癌らしき病に冒されもう余命いくばくもありませんでした。話が前後しますが車に轢かれて息も絶え絶えの野良キャット充希の命を救ったのは福士蒼汰。こうして野良高畑は福士キャットとなってナナの名をもらってやったのでした。

だったら今度はボクがキャッツ福士を救ってやる! ナナ充希としては大いにそう言ってやりたい気分ではあったかもしれませんが猫の治癒効果にも限度というものがありますし大体人間と猫は言葉が違うので言いたくても言えません。

というわけで自分が死んだ後も充希ナナが楽しく暮らせるようにと飼い主探しのプチ旅行に出る福士蒼汰でしたが充希ナナは蒼汰福士から離れる気なんて毛頭ありませんからさてどうしたことか。
というお話が『旅猫リポート』です。長い。長いよあらすじに辿り着くまでが。感想が迷子。

あぁ、それにしても泣きそうになる。福士蒼汰が最初に訪ねたのは暴力オヤジの跡を継いで写真館を営む小学校時代の親友でした。
回想シーン。捨て猫を拾って家に持ち帰るも暴力オヤジに怒鳴られだったら家出してやると宣言し捨て猫を持ったまま昭和な町並みを駆け抜ける親友と小学生時代の福士蒼汰を保護者と町の人と教員たちが『ロッキー2』の全員ジョギングか「狭い路地を突然大勢の人間が走ってくる」系の昭和ドッキリばりに追いかけるの図。

涙が。涙が。そのクラシカルな画作りには涙を禁じ得ないがヤング福士蒼汰の両親が事故で死んだことを知らない親友が元気に家に帰ってきたら「はしゃいでんじゃねぇバカ! 葬式だぁ!」みたいな感じで怒鳴りつける暴力オヤジも酷すぎてダブルで泣きそうになります。

その後の葬儀シーンでも親友がヤング福士蒼汰を慮ってヤング福士蒼汰がお母さん(木村多江)にプレゼントするつもりだった京都よーじやの油とり紙をそっと渡すとショック状態だったヤング福士蒼汰急に感情が戻って号泣、良い場面なのかもしれませんが俺はまたあの暴力オヤジが恥かかせんじゃねぇテメェ! って感じで親友を言葉でボコるんじゃないかと思ってそれどころじゃなかったです。

暴力オヤジの恐怖に泣きそうになるのをグっと堪えて映画を見続けていると場面は現在へ、福士蒼汰メール受信。画面に映ったのはガラケーのキャリアメールでした。
わりとその前から薄々思ってはいたのですがいつの時代の話なんでしょうか。よーじやの油とり紙、その後の福士蒼汰高校時代回想編でも女子にプレゼントしたらその女子の周りに女子だかりができるほどの絶大なプレゼント効果を発揮していたのですが、プラスマイナス20年くらいの誤差を考慮に入れても現代女子高生よーじやの油とり紙でそんなめちゃくちゃ盛り上がるのでしょうか。

いけない、理由はよくわかりませんがなんだかまた泣きそうになってしまいました。泣かないぞ。俺は泣かない。泣いたら充希ナナにいくじなしだの弱虫だのと暴力オヤジに今でも怯える親友に猫の無配慮でもって言ってたみたいに怒られてしまう。
俺としてはそう言われても全然構いませんが…しかし腕時計を見るとその時点でまだ映画は1時間30分以上も残っていてまたまた泣きそうになってしまうのでした。

都合5回も上映中に腕時計をチェックしましたがこれは稀なことでなんにせよ鑑賞者に稀な行為をさせる映画というのは尊いものです。
終わらない。全然終わらない。これ以上見ていると泣いてしまうから早く終わって欲しいと心から願いましたが上映時間はたっぷり118分。寝よう寝ようと何度も頑張ったのですが寝ることもできず、ずっと泣きそうな118分でした。そんな風に映画を見た記憶はないので尊い118分です。

充希ナナの引き取り手候補として今度は福士蒼汰の中学だかの同級生・前野朋哉が画面に登場。今は東北で酪農をやっているようなので服装はツナギに麦わら帽子ですって嘘だろそのファッション! なんだよそれふざけんなよ安直すぎるだろ! 酷すぎるだろあのズーズー弁も!
鎮まれ、鎮まれ、そうだ鎮まれ。怒るな。泣くな。風邪のせいだ。風邪のせいなんです文章が急に意図に反して攻撃的な方向に乱れるのは…。

しかし俺映画鑑賞史において前野朋哉は『桐島、部活やめるってよ』で高校内辺境の映画部に追いやられていた人、準主役の『エキストランド』では映画誘致に躍起になる長野らへんの役場職員だった人、今回は東北の最奥地のようなところに生息していたわけだから左遷役者のイメージが画面を見ながら固まってしまい、またぞろ、泣きそうに。

上の二つの映画では素晴らしい左遷人っぷりを見せた前野朋哉ですが今回の映画ではキャラクター自体がストーリーの本筋から左遷されていたので福士蒼汰関係者の中で唯一充希ナナに名前を覚えてもらえませんでした。ある意味左遷役者の本領発揮かもしれませんが…。

ところでその前野朋哉、実は二役でもう片方の役はペンションの犬でした。そうなのです俺はてっきり喋るのは充希ナナだけでこれはあれだろ実は猫の心情ボイスじゃなくて福士蒼汰には病気か事故かなんかで死んだ恋人がいてそれが高畑充希で高畑充希の猫声はつまり福士蒼汰の心情の婉曲表現で福士蒼汰は高畑充希が忘れられないから後を追って死のうとしててそれでナナの飼い主を探してるんだつまり猫は心の声で喋ってないんだ本当は、とかそういうストーリーの捻りがあるのかと思っていたのですが捻りは一切ないので犬が出てきたら犬と猫が前野朋哉と高畑充希の声で喧嘩します。別の猫が出てきたら高畑充希とその猫が会話します。わかりやすくていいですね。

だめだもうなんとか耐えたはずなのにいい加減に泣くぞ。俺は辛かった。見ている間も辛かったし見た後も辛かった。なんなら10回くらいは映画館で観た予告編の段階で辛かった。泣いてしまう。
旅する映画であるから観光映画的な趣もありますが出てくるの富士山と菜の花畑とフェリーとペンションと城×2です。いつまでも若者面するつもりもありませんがちょっと俺には、ちょっと今の俺には老人趣味すぎたため…俺も歳とったらこういうの喜んで見るようになるのかなぁと思って泣きそうになる。

誰がこんなの作ってるのかと思えば原作と脚本がまだまだ若手小説家に属する有川浩で、監督も行っててせいぜい50代ぐらいの三木康一郎ですよ、あの女子高生映画とかよく撮ってる、と知ってやはり泣きそうになる。
泣きそうになる。とにかく泣きそうになる。すべてに泣きそうになる。些細なナメたナメ系ショットにさえその古色蒼然たる絵面に泣きそうになる。

小川太郎Aの全著作に目を通すのも辛かろうが、おれだってこの映画を一睡もしないで全編見るのが辛かったんだ。それだけはわかってほしいあと最後福士蒼汰死にます(ちゃんと充希ナナも臨終に立ち会うからご安心下さい。ていうかご安心しかない映画でした。脳のシワがよく伸びます)

【ママー!これ買ってー!】


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動物が喋る映画だから拒絶反応が出てるわけじゃないんだよこれなんて犬猫しかむしろ出てこないから犬猫喋りまくるしアクションもしまくるけど全然大好きな映画だよそこじゃねぇんだよ俺が『旅猫リポート』を見て泣きそうになったポイントは…。

↓原作だそうですが…


旅猫リポート (講談社文庫)

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さるこ
さるこ
2018年11月7日 12:53 PM

こんにちは。こんなに平板でカタログみたいな表層の映画でもいい、猫がいるならば。こんな事に悲しんだり喜んだり、日本って平和だなあ、と、揶揄でなく、有難いな、と思う。若くても老いても終活、人間っていつ、こんな風になっちゃったのかな…