『バグダッド・スキャンダル』面白かった感想

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , ,

《推定睡眠時間:0分》

いやぁ面白かったなぁ! 見応えあった! 骨太硬派! と朗らかな気分でパンフレットまで買っちゃって劇場を後にしたものの題材になっている“石油・食料交換プログラム(Oil For Food Program:OFFP、またはOFF)”を検索しているうちに段々と朗らか気分が曇ってきてしまった。

というのもまず、検索上位に上がってくる検索結果が俺の主張を聞け系の政治マニアの個人ブログや泡沫オピニオン系のニュースサイト(相当言葉を選んでいるからな)ばかりで、とりあえずの基礎知識として使えそうな日本語記事がウィキ以外になかなかヒットしない。

こういう報道の隙間ではネットでもリアルでも客観的事実より個人的見解が幅をきかせるものであるから、その基礎知識としては使えなさそうな記事を開くと“石油・食料交換プログラム”の検索ワードはもっぱら国連不要論とか国連の形骸化の証左という扱い。

各々の記事の是非は置いておくとしても、一つの政治的出来事を取り巻くこういうイデオロギッシュな情報環境はなんかすげぇ嫌な感じである。
こらネット情報は使えんな、と思ってパンフレットを開くと日高義樹という人が寄稿、OFFPと国連の「真実」を解説してくれていた。

この人はガチ共和党寄りの保守系論客らしいので論調はまぁそういう感じでそれはいいが、「中東が(ISISを含む現在の)とめどもない混乱に陥っているのは、このオイル・フォー・フード・プログラムOFFPに端を発していると言って良い」とまで言い切っているのであまりネットと変わらなかった。
誰ですかネットの情報より紙媒体の情報の方が優れていると言ったのは。これがネットより優れた信憑性のある記述ですか…。

国連がサダム・フセインの大量破壊兵器を見つけられなかったのは、OFFPを介して始まった国連とイラクのサダム・フセインとの、いかがわしい関係が原因であったと、友人のアメリカ人ジャーナリストは指摘している。

あんなに面白かった映画なのにどんどんテンションが下がってくる。いや、ネット情報とかネット評価に失望してとかならまだ救いもあるが、パンフレット読んで気落ちするってなんなんだよ。
少なくとも“石油・食料交換プログラム”の詳細に関して言えば日本語ネットでは結局ウィキが一番頼りになったが、どうもそれはパンフレット制作者も同じであったようなので、暇な人は各自確認していただきたいがこのパンフ所々でウィキの当該ページ(https://ja.wikipedia.org/wiki/石油食料交換プログラム)の文章をリライトしたりコピペしている。

俺は陰湿なのでウィキの編集履歴もちゃんと確認した上で書いてるからな。文責が配給の誰にあるのか知らないが知らぬ存ぜぬは通じんぞ。
具体例を挙げるとパンフレット1ページ目「国連は調査協力を拒否したため現在も全容が明らかになっていない事件である」はウィキ当該ページの2015年3月22日 (日) 15:18の版から2018年7月30日時点の最新版まで変わっていない「国連は調査協力を拒否した為に全容不明である」という部分のリライトっぽい感じである。
(後に外部調査委員会を設立しているので間違いではないが適切でもない)

なぁんだそんなことかと思ったか。バカめそれは罠だ! 次は直でコピペしてるんで大いに見物。
パンフレット12ページ上段、ウィキは2009年6月7日 (日) 12:27投稿の最初の版から今まで変わらないのが下の引用部で、句読点の位置までちゃーんと同じだからパンフレットを買ってその杜撰な仕事っぷりを確かめてみよう。600円とお求めやすい価格で叩き材料が買えるのなら安いものだ(歪んでいる)

このプログラムは、イラクが軍隊を再構築することなく、食品・医薬品その他のイラク市民にとって人道的に必要な物資と交換に、イラクが石油を輸出できるようにすることが目的であった。

広告

という次第でもう、もう、おもしろい映画が映画の核心部分を取り巻く駄情報のせいでどんどんつまらくなっていくっていう最悪の鑑賞(後)体験をしたわけですが映画はおもしろかったのでそういう駄情報には背を向けて! どんなおもしろい映画か、あらすじから書いていこう。

時はイラク戦争直前の2002年10月、主人公マイケル・サリバン(テオ・ジェームズ)は理想に燃えるヤングマン。有能な外交官だった親父の背中に憧れて国連に仕事探しに行くと超あっさり迎え入れられ超あっさりやりがい爆発の重量級任務を与えられる。

その任務こそ件の“石油・食料交換プログラム”、クリントン政権の提案を受けて96年より国連が開始した救済プログラムの維持であった。
これは湾岸戦争後の経済制裁により大窮乏状態にあったイラク国民を救うべく、国連が間に入る形でのみ石油の輸出を許可するというもので、その売上金でイラク政府は食料品や医薬品などの特定品目を購入することができた。

それ超いいじゃん。理想主義でエリートな俺にぴったり。でもなんで俺が抜擢されたんだろう。
そんなサリバンの疑問は即氷解、サリバンを引っこ抜いた国連事務次長コスタ・パサリス(ベン・キングズレー)は亡くなった父サリバンをよく知る男。

あいつの息子なら俺の息子も同然だぜ、親父の代わりに俺が立派な外交屋に育て上げてやるさ…ということで子サリバンは権謀術数渦巻くワイルドなOFFPワールドに突き落とされる。
なるほど崖から突き落として生き残った虎を的なスパルタ育成術か。とサリバンが思ったかどうかは知らないが、時にパサリスの強権的なやり方に反発を覚えながらもその背中に学んで彼は立派な国連闘士に成長していく。

ありがとうパサリスさん! なぁにお礼はいらねぇさ子サリバン! お礼はいらないけど代わりにあいつ邪魔だから騙して失脚させてくれ。あれっ!?
子サリバンが異変に気付いた時にはもう遅かった。そこは国連の甘い管理のせいで汚職と殺しに塗れた食うか食われるかのOFFP地獄。

果たして国連闘士サリバンは地獄を生き延びることができるのだろうか…そして地獄王パサリスを打ち倒してイラク庶民と国連の理想を救うことはできるのだろうか…サリバンの地獄旅が今、はじまる!

広告

とノリで書いてしまうぐらいには面白かったが映画自体は別にこんなワクワクなノリではない。
俺は心理描写とかムード醸成的なイメージ映像を排して出来事と出来事だけを繋いでいくハードボイルド的な乾いた作劇っていうのが好きなんですが、この映画そのへんの俺好み直撃してた。

もう余白というのが全然ない。主人公がどっか行ったらなにかが起きるし、起きたなにかが連鎖的に次のなにかを引き連れてきたり、それとは全然関係ないなにかが突然主人公を襲ったりする。
なにかって別に殺しとかじゃないんですよ、いやそういうのもあるんですけど基本は地味な圧力とか騙し合いとか、外交バトル的なやつで。

そういう硬派な映画だからラブシーンだってすごいっすよ、じーっと男女が立ったまま見つめ合っていて、それから躊躇いがちにキスをして、ベッド入って…みたいな一連の流れに台詞がほとんど入ってこないから。
この素っ気なさ。かっこいいなぁ。こういうのが色気ってもんですよ。そうよ題材固い感じですけどハードボイルドな色気に満ち満ちてんですよこれは、この映画は。

そのハードボイルド感の屋台骨がパサリス役のベン・キングズレーで、この人は絶対に悪い顔をしてるしパサリスというのは仮名というか映画(原作)名で、モデルになってるのはOFFPスキャンダルの中心人物だったベノン・セバン事務次長だから実際に悪いんですが、悪さの裏にそれだけではない何かがあるようなニュアンスがたいへん絶妙。

物言うバグダッドの国連事務所長デュプレ(ジャクリーン・ビセット)にOFFPの失敗を指摘されて(汚職とはまた別に、イラク政府がOFFP経由で購入した食料や医薬品が適切に国民に配分されていなかったり、そもそも粗悪品で使えなかったりした)パサリス言うんですよ、0か100じゃないんだと、俺は0でも100でもなく可能な限りの人を救いたいんだと。

それはサリバンを味方に付けるための戦略的な言葉のようでもあるし、汚職に噛んだ自分を守るための保身の言葉にも思えるし、でもその0か100の間で30ぐらいは本心からの善意の言葉だったんじゃないかっていうのがあって…そのちょっとした芝居の綾っていうのたまらんかったですね。

0か100じゃないんだ派のパサリスと0か100しかないんだ派のジャクリーン・ビセット(この人も毅然とした佇まいがたいへん魅力的であった)の間で、更にはあんなこんな信頼できない人たちやら単純に悲惨な状況に置かれた市民たちの間で、その圧倒的な現実の前でサリバンは自分が求めていた理想と、その理想を体現していたはずの父親の姿を見失っていく。

そうこうしているうちに国連安保理ガン無視でイラク戦争勃発、サダム・フセインは倒れてOFFPも終了に、そして汚職も明るみに。OFFPが経済制裁下でのフセインの資金源になっていた本末転倒っぷりもわかってしまった。
映画は回想形式で(それもまたハードボイルド的だ)、俺たちがやってきたことは一体なんだったんだろうと諸々失ったポスト国連闘士サリバンが当時を振り返る。

なんだったんでしょうね。検索しても検索してもOFFPの語が各々にとって都合の良い政争の具としてぐらいしか出てこない日本語ネット空間を漂いながら、俺はそもそも知らなかったがこのヒットしなさ加減からすると世間的にも忘れられたOFFPスキャンダルとはなんだったのかとちょっと考えてしまったが、『バグダッド・スキャンダル』はそれに分かりやすい答えを出すでもなく正面から批判するでもなく、その頃イラクであった(かもしれない)出来事や景色をハードボイルドに背中で語るんであった。

【ママー!これ買ってー!】


スーパー・チューズデー 正義を売った日 (字幕版)[Amazonビデオ]

米中間選挙記念も兼ねて0と100の間でライアン・ゴズリングが疲弊していくジョージ・クルーニーの辛口選挙サスペンスを。

↓原作


Backstabbing for Beginners: My Crash Course in International Diplomacy

1000
さるこ

こんばんは。フラリと見に行ったのですが、コレとても面白かった。読後感が良いって感じ…国連は決して途上国のためにあるわけではないとも、知りましたけど。悪役上司が、良すぎる!