『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』で脳みそジェイク!(ネタバレ注意)

《推定睡眠時間:0分》

交通事故で妻を失ったその日、病院の自販機で買おうとしたM&Mのチョコレートは中で詰まりを起こして出てこなかった。これが物語の出発点なのですがなんだかもうあまりにもジェイク・ギレンホール。
家に帰ると冷蔵庫が水漏れしている。ハイウェイの路肩に横たわる倒木はなにかの予兆のよう。電波塔の点滅も意味深だ。それに最近よく見かけるあの古びたステーション・ワゴン、どうもおれを監視しているらしい…空港を訪れたジェイク・ギレンホールはテロを妄想してこう思う。そうだ、解体しよう。

こうして行く先々で気にかかった何かを解体して回るバットマンに出てくる怪人みたいな人になってしまったジェイク・ギレンホールだったのですがこの壊れ方。パラノイア。自己破壊願望。
とにかくすべてがジェイク・ギレンホールすぎると思うし「その時から目に映る全てがメタファーになった」なんて台詞がナチュラルに感じられるぐらいジェイク・ギレンホールの映画だ。

あまねく存在にジェイク・ギレンホールを投影するジェイク・ギレンホール。決してジェイク・ギレンホール的な映画なのではない。ジェイク・ギレンホールが映画をジェイク・ギレンホールにしてしまうのだ。雨の日はジェイク、晴れた君がギレンホール!

そういうわけでほとんどジェイクのソロ・パフォーマンスのようだった『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』は『ナイトクローラー』もかくやのダークジェイクが、いやむしろ、あのLAパパラッチは独善的で倫理感の欠如したサイコ野郎だとしても金が欲しいとか人からリスペクトされたいとか分かりやすい動機があったので恐ろしい反面で妙な親しみすら覚えないでもなかったがそれに比べればこちらのジェイクは責任能力が問えそうにないレベルに崩壊してしまっているので…これはとにかく怪演というものでその過剰崩壊っぷりに胃痙攣を起こしそうになるジャイクジェイクしいジェイク塗れの『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』だったのだ。もうジェイクしてまともな文章が書けない。

これはネタバレになるんだろうかと一瞬迷ったが、でもまぁそんなストーリーだと思って見る人もいないと思うので書いてしまうと途中まで全部ジェイクの妄想なのかとおもってました。
自販機の件で長文かつ弔文のクレームレターをメーカーに送り付けたところカスタマーセンターからお悔やみの電話が。その日から女性担当者とジェイクの電話越しの交流が始まるのですが掛かってくるのが深夜2時の不思議。そんなことがあるだろうか。

メーカーの営業所に押し掛けてみてもそこに彼女の姿はない。ついに深夜のダイナーで会う約束を取り付けたがやっぱり彼女は見当たらない。その代わり例の電話が。「窓の外を見てみて…いま車の中でマリファナ吸ってるんだけど…」。
ジェイクが窓の外に目をやると確かにそれっぽい車は停まっていた。だが暗がりの中で運転者の姿が判然としないまま車はすげなく走り去ってしまうのだった…妄想だとおもうだろうこんなもの。

もちろん例の担当の人はちゃんと実在したのでそこから心身ボロボロ人間たちの痛々毒々しかしほんのりあたたかい再生のドラマに移行するのですがしかしよくよく考えてみればすわ妄想サイコホラーかと思わせるほど凶悪に強固な主観を感じさせるジェイクの妄執芝居なのでこれは笑い話と思わせてまったく笑えない談志の粗忽長屋のようなものかもしれないしジェイクの場合は更に通行人を長屋に引っ張り込んで自らのコピーにするボディ・スナッチャーの如しであるから、表面的に人間再生ドラマと見えたとしても実際のところは定かではない。

それに例の担当者を演じるのは出世作の『マルホランド・ドライブ』において夢と現実の狭間で二重化されていたナオミ・ワッツなので彼女が『ドニー・ダーコ』たるジェイクの妄想の産物だとしても一向におかしいところはないっていうかあぁなるほどねってなりませんかむしろ…とイイ話すら見てる側に妄想で歪曲させるのがジェイク・ギレンホール力なのだ!

ポエムな邦題は死んだ妻の残した「If it’s rainy, you won’t see me. If it’s sunny, you’ll think of me」とのメッセージの意訳のようですがこの哀惜にも以上踏まえた上では不穏な含意を感じざるを得ないし段々デヴィッド・リンチが書きそうな台詞にも見えてきたのでこっそり『マルホランド・ドライブ』の脚本に移植しても誰も気付かないのでは…二人のハリウッド夢追い人、ナオミ・ワッツとローラ・エレナ・ハリングが結ばれたその夜にブルーライトの下でこんな台詞が囁かれたのではないか…いや確かに言ってたような気がするな…危うく記憶の中の過去を改変しそうになってしまったが妄想で過去を改変といえばほらやっぱり『ドニー・ダーコ』だから…すべてのジェイクはジェイクに通ずよ…もう、そういうのはいい。

とにかくジェイク濃度が高い。愛する人の喪失、交通事故、実存不安と自己破壊と…プロットの時点でジェイクなのに映像面では断片的なモンタージュを施したり鏡を多用したりするからジェイクしか残らない。ジェイクといえば鏡、鏡といえばジェイク。鏡の中のジェイクがジェイクを食らわんとするのはジェイク・ムービーの基本形でしたが…。
映画の後半はナオミ・ワッツの息子(超チャーミングなジュダ・ルイス)とジェイクの不器用な交流が描かれたりしてこれが、このアイデンティティの揺らぎから問題行動を繰り返す男の子と彼を破壊と解放に導くジェイクという関係性がこれは、…『ドニー・ダーコ』での銀色ウサギと若き日のジェイクそのままではないですか…。

頑張ってちゃんとした感想を書こうとはした。でも通勤電車のシーンを見ればジェイクと電車と事故の三題噺『ミッション:8ミニッツ』に繋がってしまうしジェイクと同性愛とくれば『ブロークバック・マウンテン』に繋がってしまうしそういえばワッツの息子は中東の駐留米軍の話をするのだったがジェイクと駐留米軍すよ…『ジャーヘッド』あるじゃん! すっかりジェイク網に絡めとられてもう映画の感想どころではない。
網と言えば分身ジェイク『複製された男』には巨大な蜘蛛が街を闊歩する不思議な光景が…『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』、あのこれ弱った心には実に沁みるとても良い映画だったと思います本当に本当に…。

【ママー!これ買ってー!】


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