映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』感想(付・ライター展の感想)

この人は全然知らない。むしろ字幕を担当された柴田元幸の方を知ってる。現代アメリカ文学に詳しい翻訳の人。ポール・オースターはこの人の訳でよく読んだ。
誰なんだ、ソール・ライター。知らないが、別に気張って観る映画じゃないから誰でもいいか。

※だいぶあとになってソール・ライターの写真展見に行ったので追記してます。

はてソール・ライター、映画にはこの人がNYのストリートを撮った写真がたくさん出てくるんで、なるほどそっち系の写真家かと思ったら違うらしい。
分からないんで公式サイト見てみると、元々は偶然やってみたファッション写真で名を上げ、その後、突然一線から身を引く。ところが後年になって半ば趣味で撮ってたストリート写真が発掘され、こりゃすげぇと大評判、なんやそーゆー人らしい。

そして衝撃の事実。ポスターとかには何も書いてなかった気がするが、ソール・ライター、2013年にナント亡くなっていた! えー。
まぁ人の死を売りもんにすんのはあんま品のイイ商売じゃないから、ソコ打ち出した宣伝になってなくて良かったかもしんない。
「あのソール・ライターが生前に残した最後の映画…」みたいなコト言われても、どうせ日本人の九割はソール・ライター知んないだろうからなんの感慨も湧かんしな。

しかしそう考えると確かに、なのだ。
映画はニューヨーク在住(だった)のソール・ライターの日常を淡々とスケッチしてくが、そん中でソール・ライター、なにやらゴミゴミと物に溢れた狭い汚い部屋を「大切なのは何を得るかじゃなくて何を残すかさ」とか言いながら整理してる。

色んなモノが出てくる。スッカリ忘れてた昔撮った写真、先に逝ったカミさんの思い出の品、アレコレ。そーゆーの「あぁ、こんなのあったなぁ」とかなんとか言いながら整理してく。生前の遺品整理ってトコか(寝てたから詳細不明)。
この映画、2012年の作。2013年ソール・ライター死去。なんだか遺言のよーな映画だなぁと思ったりすんである。

遺言ゆーたが、しかしそんな堅苦しいもんじゃなかったりする。
コーヒー飲みながら「大した人間じゃないよ俺は」とうそぶき、「こんなの映画にならないと思うよ」と笑うソール・ライター。
愛猫とダラダラした時間を過ごし、フラっと散歩に出てはふと街で見かけたイイ風景やらちょっと面白い人を軽い感じで写真に撮る、ダルで枯れた最後の日々。

とにかくこう、色んなモノに対する欲を感じない。今や高名な写真家のハズなのにきったねぇ狭いアパート住んでるし、金目のモノが全然無い。
「ま、どうせもうじき死ぬっしょ。別にそれでイイんじゃないの」ぐらいの感じでゆるーい時間を過ごす、そんなソール・ライター、そんな映画なんである。

こーゆー老後、こーゆー身の処し方、悪くないなぁ。

映画は原題を『NO GREAT HURRY: 13 LESSONS IN LIFE WITH SAUL LEITER』という。
レッスン、といったところで教訓じみたもんは別に無い。軽いジョークを交えながらソール・ライターが適当につぶやいた言葉を章立てした、だけ。
たぶんこの人ツイッターとか出来ないと思うが、ソール・ライター@SAUL-LEITERのタイムラインを眺めてるみたいな、そんな感じの作り。
映画もソール・ライターもなんも押し付けないしなんもエラそうなコト言わない。ま、見てるヤツがイイなと思ったら勝手にリツイートでもすれば、ってヤツ。

そんな具合でこの映画、全然身構えない。カメラと被写体の距離が無いんで、監督とソール・ライターが普通におしゃべりしてたりする。
決定的瞬間を! 被写体の本質を! なんてもんは求めない。そらもう極めてダラーっとダラーっとした、撮る方も撮られる方も幸せな感じの映画なのだ。

つってもそんだけじゃ映画もたねーよってんで(かどうかは知らないが)、ダラダラの合間合間にソール・ライターの主にストリート写真が入ってくる。その写真世界をイメージした風景ショットも入ってくる。
コレが良いアクセントって感じ。章立てもそうだが、基本なんも起きないダラダラ映画だから観てる人が飽きないよーにと配慮されてんのだ。

さてその、肝心のソール・ライターの写真。いったいどんな写真か?
なんや知らんが、抽象画みたいな写真であった。ソール・ライター、窓が好きらしく、室内から曇った窓なんかを通して往来を撮った写真がやたらある。結露なんかで外の風景がボヤけるんで、風景が抽象画みたいになっちゃうと、そんなん多い。

他にもなんとなくクレーの絵みたいだったり水墨画みたいだったりと色々あったが、どの写真もソール・ライター本人の自然体路線に反してキメッキメのキレッキレ写真で、とてーもシャープでカッチョよい。
そのギャップがタマランところでもあり、こんな適当そうなゆるふわジジィからこんな写真が出てくるか、と多いに驚かされてまったのだった。

ま、とにかくそういう映画。
気取らず飾らず適当に、欲を出さずに漂うよーに、それで別にイイじゃない、ってな具合の映画。
オモロかったすよ、コレ(しかしいつもこんなコト言ってんなオレは)


【2017/05/29 追記】

でそのソール・ライターですが渋谷のbunkamuraミュージアムで展覧会やってたので見てきました。そうかこれがソール・ライターの写真かー。代表的なものは映画の方でも見ているはずではありますが1年以上前のことなので覚えておらず。なんか新鮮に見れて良かったですね却って。

ほんでソール・ライターの大規模な展覧会というのは日本ではたぶんこれが初めてだと思うので(ちがうかもしれない)、ファッション写真時代から始まって趣味で撮ってたストリート写真、再評価のキッカケになった絵画的なカラー写真、意外やアブノーマルを感じる窃視症的なヌード写真に実は写真と平行してずっと描き続けていた抽象画とこうソール・ライターのあれもこれも全部集めちゃいましたみたいな網羅的な展示になっていた。

あのなんていうか。感想を一言で言うと。疲れたもう本当疲れましたよ。なんか↑でも書いてましたけどキレッキレなんですよソール・ライター。面白いだろっ!!!! ほらよく見ろこの構図超面白いだろっ!!!! ていう主張の激しすぎる写真ばかりで。
なんかブライアン・デ・パルマの映画みたいですよねちょっと。デ・パルマの映画も「俺のセンスはこうだ!!!!」みたいな画の連続じゃないすか。色彩感覚も共通するものを感じるし、あと窃視趣味っていうのもそうだし。ガラスの反射を利用して構図を二重化させた入れ子構造とか、デ・パルマもあぁいうのやったりするじゃないすかスプリット・スクリーとかで。

後年発掘されてソール・ライターの代名詞になったカラー写真とかは趣味で撮ってたわけで、趣味だったら誰に気兼ねする必要もないわけで。だからもうやりたい放題で。やりたい放題やった1枚でもすげーやべー超かっけーってなるやつがズラ――っと100枚とか並ぶわけですよ。
『ミッドナイト・クロス』ぐらいの頃のデ・パルマに100億与えて完全フリーハンドで映画撮ってもらったらどんなん出来上がるか想像してみてくださいよ。疲れるよねそれは超疲れるよ。嫌な疲労じゃなくて脳がとろける心地よい疲労なんですけど。

ちなみに一番好きだったのはあれだな『フラワー・マン』という作品。ガラス越しに男を撮って、そのガラスに微かにカメラを手にしたソール・ライターが映り込んでいるというなんだかもう非常に回りくどい、でもソール・ライターらしいセルフ・ポートレートなのでした。

【ママー!これ買ってー!】


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観てない。観てないけど気になる写真家ドキュメンタリー映画。
なんせマグナム・フォトだ。ブレッソンだ。報道写真だ(必ずしもそうでないのかもしんないけど)
こりゃもう、たぶん『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』みたいなユルユル映画じゃないだろう、たぶん。
写真家ゆーても色々いるなぁ、人生色々だなぁと、見比べてみるとオモロイかもしんない。

↓その他のヤツ
Early Color(ソール・ライターの評価を決定づけたカラー写真集)
All about Saul Leiter ソール・ライターのすべて(ライター展に合わせて出版された写真集)

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