『ダゲレオタイプの女』から最終的にジャック・タチと『サイレントヒル2』を連想する感想(ネタバレないよ?)

《推定睡眠時間:10分》

再開発の進む閑静な住宅地域にカメラ助手の男が迷い込むところから映画が始まるのですが、ちょっとしたサプライズだったのは無貌の街並みに日本を感じてしまったことで、というより、黒沢清の映画に出てくる日本ぽいけれども日本なんだけども国籍不明のどこか、あの廃墟じみた無名都市が国は違えどそっくりそのままそこにあったのでした。

このことの意味をどう考えたらいいのかわからないのですがなんか面白くはあった黒沢清のフランス映画『ダゲレオタイプの女』です。つまり生産元が変わっても変わらないきよし味です。

あと驚いたといえばこれは別にオバケ? 罪悪感が見せる幻影? それもなんだかわからないのですがとにかくオバケ的なやつがぴゅーと空を飛んだりはしないが『叫』(2006)のセルフリメイクみたいな映画なのでした。オバケ表現であるとか再開発の背景であるとか共通項多数。
いいのですけれど『叫』ってあれなんじゃこりゃ怪作だった気がするのでまたこのネタでやるのかみたいな驚。『叫』より、しかし情感のあるやわらかい映画なので観やすかった気はしますけれども。

っていうことでなんの映画かと言えば『叫』ベースのホラー・ミステリー。職を求めてカメラ助手が辿り着いたのはダゲレオタイプに憑りつかれた写真家のお屋敷。彼は愛娘を銀板に収めることに異様な執念を燃やしており、カメラ助手もそれに付き合わされるはめになる。
ダゲレオタイプは露光時間が長く被写体を長時間固定する必要があるので写る方はたいへん。毎日毎日モデルにさせられていい加減うんざりの娘とカメラ助手はやがて恋仲になるが…とそのようなお話。

被写体を固定するための固定器具(木人みたいなやつ)というものが出てくるがなによりとにかくそれが良かったですねエロくてねエロくて。これは背徳的。娘を固定して撮影するところ、SMか公開処刑をみているようでギョっとしてしまうよ。
そういえば乳首の映る(ここ重要)ベッドシーンがあるのは黒沢清としては例外的に思えたのですが、いつにも増して感情を表に出さない淡白人間ばかり出てくるくせにいつもより生臭い映画だった気がする。
世界の崩壊に呆然としつつも黙って向き合う役所広司の図式というのがいや別にそればかりじゃないとしても黒沢清的なものなんだろうとなぁと思っていたのですが、こちらは世界の終わりを受け入れられない人のお話というわけで、生臭いということはつまり人間的な、意外にも泣きの映画なのでした。

用途不明の謎器械がガチャガチャ置かれた写真家のアトリエ、とか。重機が穴ぼこだらけにした住宅地域の荒涼、とか。美術いいですロケーションいいです好き。

そうだ『叫』の時点で好きなもん全部入れてまえみたいなゴッタ煮映画だった気もするのですがゴッタ煮はたぶんこれも同じなんじゃないすかね。
なにやらゴシックホラー然として始まり金がらみのフレンチ泥くさ犯罪劇になり錯乱と倒錯のノワールっぽくなり涙々の悲恋ものになり…という感じでつまりマニアならTSUTAYAとかの特設コーナーで関連作品の並べがいありそう系のあれ。
窓の外にオバケが見える場面は『回転』(1961)してたが、そういえばその前日譚『妖精たちの森』(1971)はお屋敷SMのお話だったよなとか思う。シャブロル、ブレッソン、『雨月物語』(1953)と『太陽がいっぱい』(1960)などなど…。

あとボヤボヤ考えておりましたのは新建築で崩壊する世界のイメージ(ノイバウテン!)がジャック・タチ『ぼくの伯父さん』(1958)におけるモダニズムに打ち壊された伝統的なフランスの町並みと通底するんじゃないかとかそういうことでした。
『ぼくの伯父さん』も『ダゲレオタイプの女』と同じように町中で建築工事ばかりしている工事音映画なわけですが(いやそれは本当は『プレイタイム』(1967)の方ですが)、工事に追い立てられた屋台のパン売りが野原で商売をしているのを見ると作っているのか壊しているのかわからなくなってしまう。なにかその境界線上で遊ぶようなところとか技術に対する考え方とか似てんじゃないでしょうかね。

作ってるのか壊してるのかわからない、と言えばゲームの方の『サイレントヒル2』でそんなのあったなと思う。防塵シートに覆われた病院に主人公が迷い込むシーンがあるのですが、果たしてあの病院は解体中だったのかそれとも改装中だったのかということ。
『サイレントヒル2』に言及するということは実は『ダゲレオタイプの女』のネタバレなのだと言ってしまうことがネタバレになるので言わないがいや言っちゃったが、町の新しい顔と古い顔が交錯するときに生と死が二重化されるという着眼点、そのアンビバレント。
そういえば黒沢清はゲーム好きとしても有名なのでちょっとぐらい知ってたりすんだろかと思ったりするなど、あぁだこうだ連想的に遊べる懐の広い映画が『ダゲレオタイプの女』なのでした。

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黒沢清がエッセイ『映画はおそろしい』で取り上げた映画五本をDVD化したもので『回転』『生血を吸う女』『顔のない殺人鬼』とか入ってるのですがぶっちゃけこれだけで『ダゲレオタイプの女』っていうか黒沢清映画の60%ぐらい構成してるだろみたいな黒沢清解体新DVDBOX。
持っていたことがオタク的じまんだったのですが職にあぶれた時に売ってしまったので映画より貧乏がおそろしいとおもいました。

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