《推定睡眠時間:20分》
前作『二十歳に還りたい。』からおよそ一年半、待ちに待ったわけではないとは言い切れないこの幸福の科学映画最新作のポスターか予告編を見た多くの人は「原作・制作総指揮 大川隆法」の文字に心の中でツッコミを入れたことだろう。なぜなら大川総裁、2023年3月2日に死去。原作はともかく死体(骨)がどうやって2025年の映画の製作総指揮をするんじゃい背後霊になって指示したのか? と『異端者の家』のヒュー・グラントのように教団幹部に問いただしてみたくもなるが、さきほど教団関連サイトをひさしぶりとざっと見たら総裁死去後とあまり変わらず総裁のプロフィールにも変化なし、要するに教団の公式見解としては大川総裁は死んでいないことになっているというか、死んだとも生きているとも言っていないのだが、わざわざ製作総指揮・大川隆法と今度の映画に銘打たれているということは、意志決定の場の外にいる一般信者たちには総裁存命と思わせたいのだろう。
というのも大川総裁には子どもが四人ぐらいおり、死ぬ前には後継者として長女の大川咲也加が内定していたので、幸福映画も咲也加が取り仕切って(父娘でカメオ出演したこともある)教団の外にも広告塔的に露出していたのだが、総裁の死後に大川総裁の後妻である大川紫央が権力を奪取、教団公式サイトから咲也加の名前が抹消されると共に大川紫央のプロフィールが新たに掲載されたのであった。
このようなゴタゴタもあって現在の幸福の科学は正式な総裁後継者がどうも決まっていないようで、まぁ後妻の紫央が仮に実権を握っていたとしても正式な後継者として発表されれば古くからの信者は納得せず大きな波紋を呼ぶことは間違いなく、かといって紫央の側からすれば莫大な遺産もあるので総裁の実子たちを後継者として立てたくもない…内実は不明だが、想像するにおそらくはそんな感じで、教団の意志決定部的には総裁をまだ生きている風に信者たちに思わせておいた方が都合がよいということなのではないだろうか。これ本当に映画の感想か?
そんなわけで『ドラゴン・ハート ―霊界探訪記―』である。エンドロールを見ると総裁の半伝記映画だった前作『二十歳に還りたい。』にはあった大川紫央がクレジットされていないことから、察するに教団を脱退し現在は反幸福の科学系ユーチューバーとして活動する大川宏洋との裁判を含む総裁死後のゴタゴタがひとまず収まり、どういう形で話がまとまったかは知らないが、ともあれ現教団理事長・石川悦男体制の下で総裁生前の幸福の科学を復活させようというのがこの映画なんだろう。
総裁生前はドキュメンタリー(プロパガンダ)映画が一本、アニメ映画が一本、実写映画が一本という感じで年に3本ぐらい幸福映画が公開されており、これは教団外部に向けた宣伝というよりは教団の信者たちが一同に介して結束を深めつつ教団意志決定部の方針やメッセージを受け取る場として機能していたので、それが一本もなかった2024年というのはやはり異常である。今回再び総裁生前の幸福に戻ったように感じられて信者としては少しホッとしたんじゃないだろうか。製作総指揮・大川隆法のクレジットもそのために必要とされたのだろうし、舞台が総裁生誕の地・徳島であることもその効果を狙ってのことのように思われる。
内容的にはまぁ幸福映画なのでという感じで徳島の田舎で河童を追いかけてたら溺死した少年少女(なんだそれは!)が声の出演・千葉繁の導きで川から現れた龍の背に乗って霊界へ。このときに流れる曲は「ラブ・イズ・エキサイティング。エキサイティング・ラブ。上になったり~下になったり~」といういつにも増してひどい歌詞なのでいろいろと大丈夫なのか不安になるがエンドロールの記載を信じれば作詞は従来の幸福映画と同じく総裁本人らしかった(これが生前書き残しておいたものだとすれば、たしかに末期を感じさせる)
さて霊界へ来たはいいがその風景はやや赤茶けた昭和の銀座といったところの治安の悪い小汚い街で背景の建物を見ると「BARゆすり」とか書いてある危険ゾーンである。これはもちろん地獄なわけだが地獄といっても一丁目、その後少年少女はチェーンソーで人体を切断する医師が追いかけてくる「病院地獄」、川尻善昭の『バンパイアハンターD』を思わせる娼館住まいの吸血鬼が群れを成して襲いかかってくる「色情地獄」などを経て閻魔大王と謁見、いろいろあって幸福の科学を信じれば救われますという展開になり主人公は「この教えを広めたい!」と布教を決意するのであった。
俺の見立て通りこれがあくまでも教団を以前の形に軌道修正するための内向けの映画であるとすれば、教団が考えるさまざまな地獄をビジュアライズして順番に見せていくという幸福の科学ダイジェスト版的な絵解きの構成は合理的なものだろう。そのためストーリー的な面白さや映像的なインパクトは従来の幸福の科学アニメに比べて薄かった。一部だが明らかにAI出力と思われる映像が平然と使われていた点と少しとはいえ血は飛ぶし吸血鬼も出てくるしでホラー映画要素がやや強めだった点は意外の観だが、西洋医学に否定的な教団なので病院が地獄になるとか、気候変動に否定的な教団なので環境破壊対策を訴える科学者らしき人が閻魔様によって地獄送りにされるとか、そのへん想定の範囲内のいつものアレという感じである。ちなみに閻魔様によって地獄送りにされる人々の中にはなんとなく顔が宏洋っぽい人も「地獄を信じずウソばかり言う人」として混ざってました。
終盤はいつものように長い長い説法コーナーなので就寝。予告編からはもう少しアクションアドベンチャーっぽいものを想像したがまぁそんなものを幸福映画に期待する方が悪いというのが定説なので文句は言えない。あくまでも教団の教えを広めるための幸福映画であるし、逆に教団の教えこそ信者たちの観たいものだろう。ここはひとつ、非信者のみなさんにおかれましてもこの映画はアニメで観る幸福の科学ガイドブック~世界観編~として受け止めていただきたい。さもなくば…お前も地獄送りだああああああああ!!!(退屈により)
宏洋が当初「隆法が引退した方が、赤字事業の縮小撤退がすんなり進んでこじんまりとするのでは?」と言ってたけど、(政治団体・映画制作その他 見栄だけで続けてた事業に対して)
今の様子から見て「露骨に赤字事業打ち切りしてもかえって信者のモチベが下がる」と判断した?
それは宏洋らしい面白い発想ですけど笑
まぁ映画に関しては信者に金出させて作って信者に金出させて見に来させてる一種のお祭りなので、たぶんさほど赤字にならないのでは。
ただ今回、宣伝は例年に比べて明らかに少なかったので、宣伝費は大幅にカットしてると思います。たしかに、どうせ信者しか見に来ないから宣伝費は無駄で、赤字になるとしたらそこで赤字になるんでしょうね。ははは