真・総裁転生映画『二十歳に還りたい。』感想文

《推定睡眠時間:60分》

ちょっと泣けてしまう映画である。幸福の科学の新作ということで言うまでもなく製作総指揮と原作は大川隆法、おそらく今年2023年3月の大川総裁死去に伴う後継者争いなどのゴタゴタが影響しているのだろう、通例企画とか脚本とか製作周りのどこかに大川ファミリーの名前が入っていたが今回はクレジットがなく脚本は「『二十歳に還りたい。』シナリオチーム」とかいう匿名でいろいろもやもやしているが、もやもやしているからこそここにはファミリーの誰かのカラー(その映画に関わったファミリーのカラーが結構強く出るのが幸福映画である)ではなく、大川総裁その人のカラーが出ている作品と考えてもまぁまぁ差し支えないように思える。

大川総裁のカラーが出ている大川総裁遺作のタイトルが『二十歳に還りたい。』。還りたかったんだろうな…大川総裁二十歳の頃といえば東大文一の冴えない学生。過去の総裁伝記映画『さらば青春、されど青春』とそのセルフリメイク『夜明けを信じて。』で繰り返し描かれた学生時代の総裁は惚れた女子学生にラブレターを書いてフラれ友達はうまく作れず司法試験は不合格になりそれは自分の頭が悪いのではなく逆に試験官の知識不足のせいだと考える、ハンナ・アーレントについての論文を教授に見せたら「マチュア(早熟)ですね」と褒められたというエピソードを後生大事に抱える人だった。あの頃に還りたい…だからこそ還りたい! 還ってこんなみじめな青春をやり直したい…!!! 韓国映画の傑作『ペパーミント・キャンディー』がそういう話だったのだが映画好きと思われる総裁は観ていただろうか。

映画は金持ち老人の孤独な目覚めから始まる。現在はケアホームに入っているこの人(津嘉山正種がまさかの名演)、貧乏家庭出身ながら不動産会社を立ち上げ一大で大企業にまで育て上げたのだが、どうして今はこんな寂しい日々を送っているのかというと最初の妻とは死別し二人目の妻とも上手くいかず二人の息子と一人の娘はいずれもこの人のやり方に反発してそれぞれの道を往ってしまい、手元に残ったのは空虚な名声とお金のみ。言うまでもなくこれは老境の総裁自身を反映したキャラクター設定だろう。この時点でもう泣きそうである。

俺の人生いったいなんだったのか。いったいどこで間違ってしまったのか。だがそこで奇跡が起きる。都合良く老総裁を慕ってボランティアで話し相手になってくれているどっかの学生みたいな若い女が沈み往く夕陽に向かって手を合わせ「神様にお願いをするんです、きっと願いは叶います」とか言うので総裁が手を合わせるとこれはどうしたことでしょう、次の瞬間、総裁はサッカー部のユニフォームを着た二十歳のヤング学生に転生してどこかの大学にいるではありませんか。過去に戻ったのかなと思ったらそういうことではないらしく時代は現代のまま、知識も人生経験も総裁のままである。

どうやらサッカー部のエースらしい転生総裁はさっそく宗教団体を立ち上げ世界各国に小さい支部を作り大学設立認可を二度も出すも二回とも却下されるまでに育て上げた大人の老獪経営手腕を駆使してサッカー部の抱えるトラブルを解決する。だが運動の方はいくら身体が若くなったからといってからきしらしく、サッカーの試合となるとチームメイトの期待を裏切るばかり。どうせ異世界転生ものなのだからサッカーも超うまい設定にしてもいいはずなのだがそうはしなかったところに逆に総裁の本気が見えるようだ。

ここからは寝ながら観ていたので詳しいことはわからないがその後大学を卒業した総裁は演技の道に進み若くしてトップ役者にまで上り詰めるのだが名前を売りたい若手女優のハニートラップに引っかかり女性スキャンダルで失脚。はぁ、たらればの人生も上手くいかないもんじゃなぁ…気付けば総裁は夕陽の沈むあの丘にいた。姿はもちろん若総裁ではなく老総裁、ということはすべて夢だったのか? そうかもしれない、しかし、そんなことはどうでもいいことだ。死ぬ前に楽しい思いをさせてくれてありがとう。これでよい、私の人生はこれでよかったのだ。老総裁はどこか満足げな表情を浮かべて落日を眺めるのであった。

ちょっとハンカチを借りていいかな。なんですかこれは。感動作じゃないですか。幸福の科学の映画なのに…感動作じゃないですか!!! もちろん劇場では誰一人泣いてなどいなかった。以前の感想記事にも書いたことだが最近の幸福信者たちは幸福映画を完全に惰性で観ているので映画に対する反応はかなりクールである。こんなどう考えても長男を筆頭に次々子供が離れていき教団も90年代の勢いをすっかり失って衰退していき二番目の妻とももしかしたら溝が出来ていたのかもしれない老いたる大川総裁が、まだ自分に様々な可能性があったあの頃を振り返って現実には全然だったスポーツをやってしかも部員たちから頼られてこれだけ幸福映画を量産するということは映画が好きに違いないので宗教者ではなく役者として映画や芸能の世界を生きしかもトップスターに上り詰めてみんなから熱い視線を浴びるという夢を見る、なんて泣ける内容にも関わらずである。そのことがまた一層涙を誘う。

ゆーてシナリオは匿名ですからどこまで大川総裁の最期の心境が入っているのかはわかりません。大川総裁原作といっても原作本のクレジットはないので本当に原作もしくは原案に当たるものがあるのどうかもわからない。でもなぁ、うーん、大川総裁を最高神エル・カンターレと同一視する教団の人が総裁に無断でこんな映画を勝手に作ることはないと思うんだよなぁ。しかもこの映画、老総裁の身に起きた二十歳転生とかいう奇跡を一時の夢であったかのようなオチを付けることで、神秘色のきわめて薄い現実的な内容になっている。この異例とも言える、見方によっては今の幸福の科学が呼び物にしている様々な神秘体験を否定して「祈り」と「悟り」という仏教の本来的な要素に回帰するかのような宗教に対するスタンスは、大川総裁の意向なしには映画化不可能だったのではないだろうか?

長男・宏洋の教団離脱後、長女・咲也加が指揮を執るようになった幸福映画には、マーベル映画のスタン・リーの如く大川総裁がカメオ出演しているものが数作ある。その明らかに客を笑わせにかかっているコミカルな芝居を俺はキャッキャと喜んだが信者と思われる他の観客の反応はやはりゼロだった。これは完全に俺の妄想なのだが、大川総裁、大きくなりすぎてもう自分にはコントロールできなくなった教団の運営に疲れ果てちゃって、偶像化されすぎて誰も自分の素顔に興味を持ってくれないことに孤独を感じていたんじゃないだろうか。

よくある権力者の末路といえばそうかもしれないが…でもそれが歴史上の人物ではなくよく知った現代の人物のもので、しかも本人によって映画化されたとなれば、不覚にもという感じなのだが、揺さぶられずにはいられない。R.I.P.大川総裁。天国でマルクスと喧嘩でもしたまえ。あ、マルクスは地獄か。

※教団の公式サイトやパンフレットには未だ総裁プロフィールに享年が書かれておらず、訃報記事も載っていない。

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「あの頃に帰りたあああい!」の絶叫と共にオッサンが列車に突っ込んでいくオープニングがあまりにも鮮烈にして切ない、20世紀韓国映画のクラシック。

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2023年10月26日 1:03 AM

津嘉山正種てナルニア国物語のアスラン(キリストの化身ライオン)の吹き替えや、オトナ帝国のケンの声やってた人ですね。
私が気に入っていたTVアニメキャラの声優でもあったので個人的にわりと思い入れがあり、幸福科学映画で主演か〜と不思議な感情が湧きました。
(まあ本人の信仰がどれ程かは分かりませんが。)
あと私はさわださんの幸福映画感想シリーズの愛好家なので、無駄に大川家の家庭事情に思いを馳せることが多くなって自分でもまあまあ怖いです。

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Reply to  鮮度抜群
2023年10月26日 1:21 AM

今思い出したのですが津嘉山氏は前になにかのインタビューで「仕事はやりたいものをちゃんと選んでます」と言ってたので普通に信仰ゆえの出演でしょうかね。
なんかこう、感慨深いな…。

鮮度抜群
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Reply to  さわだ
2023年10月26日 10:27 AM

>>宗教で出演するかしないかを選ぶのも差別的なんじゃないかとか、単純に好奇心で

言われてみれば確かにそういう理由での出演も普通にありえますね。

完全に楽して金がもらえるからという理由だけで宗教映画に出る人、というのもなんとも逞しい 笑
アマチュア感溢れる幸福映画ならそりゃ比較的楽して稼げそうですもんね。