《推定睡眠時間:70分》
現在公開中の『28○○後…』シリーズ最新作『28年後…』は前作『28週後…』ラストでゾンビ感染がイギリス国内だけではなくドーバー海峡を越えてフランスにも広まり世界の終末を暗示させた展開を冒頭テロップで「イギリス以外の国ではゾンビウイルスは封じ込めに成功した」と無慈悲にも無かったことにしていたのでその時点でもうダメな気がしたが、この『ジュラシック・ワールド/復活の大地』も前作前々作で蘇った恐竜が世界中に拡散していたのでさぁて今度はどんな恐竜終末世界が描かれるのかなと思いきや冒頭のテロップであっさり「蘇った恐竜は現代の気候に適応できず今は赤道直下の地域のみに生息している」と宣言、前作までの恐竜終末世界をすっかり無かったことにして普通に街とか元に戻ってしまっていたのでそういうのはいい加減にしてください。
いやいいけど、別に恐竜終末世界じゃない恐竜パニック映画でもいいけど、それだったら続編じゃなくて完全新作にするとか、完全新作には大人の都合でできないというならせめてストーリーをリセットしてまた一から新しく始めるべきじゃない…! だってこれ一応前作の数年後の設定だけどキャストと登場人物は一新されてるわけだし…! こういうところは本当にハリウッド映画ダメである。そういえば『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』も恒例の冒頭テロップでそれまで登場してなかったキャラが急に黒幕として出てきてそんなの許されるのかと思ったよな。こういうところは本当にハリウッド映画ダメである。
まぁそういう会社の都合とか大人の都合で台無し路線変更をキメる映画というのはロクなもんではありませんので実は案外期待して観に行ったのだが(予告編を見たら恐竜がたくさん人を襲ってて楽しそうだった)シリーズで一番下の面白さだった。『ジュラシック・ワールド』はかなり面白かったとはいえその後に続く二作のガッカリ感は相当なものだったからそれを下回ることはないだろうと思いきやである。どうダメかといったら今回は『ジュラシック・パーク/ロストワールド』と『ジュラシック・パークⅢ』の合体リメイク版みたいな感じのストーリーだったのでむかし恐竜をたくさん作ってて今は野生恐竜の楽園となっている島に特定恐竜のDNA採取目的でハンターチームが入りそこに恐竜海難事故で漂流中のファミリーが合流するのだが、そのドラマ部分がとにかく長い。
いやこれが本当に長ぇんである。ずっとアメリカの人が喋っててぜんぜんでっかい恐竜が出てこないから眠くなっちゃってハッと目を覚ましたらまだみんな恐竜島に入ってなかったからどれぐらい寝てたのだろうと暗闇の中で腕時計を見たら上映開始から約1時間が経過していてエエエッ! それはいくらなんでも長すぎるだろう。こっちからしたら人間なんかどうせ恐竜のエサでしかないんだからお前らが何を考えていようがそんなことはどうでもいいのになんで人間ドラマを1時間もやっているのだ。
そりゃたしかにまったく恐竜が出てこないわけではないよ。ゆったら映画開始直後にもたぶんゴールデンゲートブリッジだと思うがその付近で病気のブロントザウルスかなんかが倒れてて交通渋滞が発生しているという愉快ワクワクなシーンだってちゃんとあるのだ。がしかし、恐竜原因で交通渋滞が発生するドリーミンな人間恐竜共存世界の描写はほぼそこだけである。恐竜原因で交通渋滞が発生する世界なんて設定を立てたらいくらでも面白いSF展開が作れそうな気が素人としてはするのだが、それをガン無視して登場人物たちの性格とか来歴とか心情とかアメリカ的なジョーク会話とかそういうのをずっとぐだぐだ1時間。映画を観る目のないゲームファンからボロクソに叩かれた実写版『モンスターハンター』なんか開始10分も経たずにミラ・ジョヴォヴィッチがモンスター世界に放り込まれて手に汗握る決死のサバイバルを繰り広げて上映時間90分とB級モンスターパニック映画のお手本のような見事な作品だったのだから見習って欲しいところだとこれは俺が実写版『モンスターハンター』大好き人間なので宣伝です。みんな観てネ!
で島に入ってからもこいつらずっと緊張感なく喋ってやがっていやもう勘弁である。たしかに演出も良くないがこれはシナリオが悪いだろう。恐竜が売りの映画のはずなのにどう考えてもセリフが無駄に多すぎるというのもそうだが、物語を牽引する強いプロット、強い目的がないんである。たとえば1作目の『ジュラシック・パーク』だったら恐竜島から脱出せよというシンプルで強い目的があるわけで、それを核としてプロットが組まれているが、この『復活の大地』はハンターチームは恐竜DNA採取が目的でファミリーチームは恐竜島からの脱出が目的。この二つのチームを主従の序列をつけず等価のものとして描いているために物語の目的がブレてしまい、目的がブレているのでプロットが散漫になって牽引力の弱いものとなり、その結果として映画からドライブ感が失われているんである。主人公のただ一つの強い目的を作るというのは映画やドラマの脚本を書く時にかなり重要な初歩的テクニックなのでシナリオライターを目指すみなさんは覚えておくように(私は挫折しましたが)
監督ギャレス・エドワーズがハリウッド以前に手掛けて出世作となった『モンスターズ/地球外生命体』という映画が俺は好きで、これは人喰いエイリアンが外来種として定着したメキシコを舞台にしたドキュメンタリー風のロードムービーだが、低予算ながら良く出来ていたと思う。ロードムービーの都合さほど強いプロットがあるわけではないので前言に反してしまうが、強いプロットがない代わりに人喰いエイリアンの存在が当たり前になった世界の、現実世界と地続きなのだけれども現実世界とは決定的に異なる様々な風景をシミュレートしていて、その豊かなSF想像力が魅力的だったんである。
このifの世界の想像力というのはギャレス・エドワーズという映画監督のおそらく最大の強みなのだが、『モンスターズ』や『ザ・クリエイター/創造者』といったエドワーズの個性が強く発揮された作品とは異なり今回は脚本がスピルバーグとのタッグで知られるハリウッド大味派のデヴィッド・コープ。コープは初代『ジュラシック・パーク』と続編『ロスト・ワールド』の脚本家とはいえ、想像力や繊細さにはだいぶ欠ける人なので、資質の点でエドワーズとは合わなかっただろうし、合わないけれどもキャリア的にはエドワーズの何段も上なのでエドワーズとしては文句も言えずみたいな、まぁなんかそういう感じだったんじゃねぇの知らねぇけど。
とにかくそんな次第だから、もうこれで潔くシリーズ終わりにしたら良いと思います。せっかく蘇った恐竜も今や絶滅危機ということですので無駄に活とか入れずこのまま『ジュラシック』シリーズにも安らかに永眠してもらおうではありませんか…。