最強チュートリアル映画『モンスターハンター』感想文

《推定睡眠時間:0分》

種類にもよるだろうが最近のゲームならオープニングムービーとチュートリアルを済ませても即機能が全開ということにはならず序盤のミッションとかイベントをこなしつつショップなんかがフルで使えるようになるまで2時間ぐらいはかかることもまぁ珍しくはないだろうと思うのだがまさか映画でそれをやるとはね。これはある意味タブーに触れた超ネタバレなのだが『モンスターハンター』、チュートリアルです。104分のオープニングムービー+チュートリアル…! まぁでも小島監督ならそれぐらいやるよな小島監督この映画とはなんも関係ないのですが!

いやぁ思い切った作りですよねぇ。そりゃわかりますよこの原作ゲームシリーズぐらいの人気タイトルなら素材も豊富ですしいくらでも続編作れますからこの一本たった104分(今どきの大作アクションとしては例外的な短尺である)で終わらせるわけねぇっていうのは誰だって想像できますよね。とはいえですよ。とはいえ普通は一応単品としても見られるようにそれなりに起承転結をつけてくると思うんですがこの映画は結がないしそもそもチュートリアルで終わってるから転にも行ってるかなぁ? ぐらいな感じありますよ。

これをどう捉えるか。まぁゲーム版のファンの人は確実にモノタリナイ感コレジャナイ感があると思うのだが…ザクザクとモンスターを狩って気ままなハンターライフを楽しむような陽気なノリの映画では基本的にないので…ゲーム版を大してやってない俺からすると、英断。だってさすがにねぇ、二時間程度のランタイムで一般客を楽しませつつ原作ファンも満足させるような映画にするのとか無理でしょ普通に。

なんかハリウッド大作的なポジションの映画として売られてますけどこれいわゆるハリウッド映画ではないですからね。出資してるの日本の東宝とか中国のテンセントとかなので実はそこまで潤沢な予算のある映画ではない。IMDbによれば制作費6000万ドルですけど例を挙げれば『アベンジャーズ:エンドゲーム』が3億5600万ドルで『スターウォーズ:スカイウォーカーの夜明け』が2億7500万ドルなので、そういうハリウッド大作とは制作費のケタが一つ違うわけです。

だからランタイムの問題に加えて金がないっていう根本的な問題もあるんですよね。なんでこんな開放感のないチュートリアル映画になってるかってつまりそういうことなんですよ。原作ゲームの広大な世界を作ろうとしても金ねぇんです。もう身も蓋もなくそんな金ねぇっていう切実な事情があるんですよこの映画には…。

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でもそこはジャンル映画職人ポール・W・S・アンダーソン、いつもお値段以上かどうかは怪しいがお値段相応のオモシロぐらいは最低でも提供してくれるジャンル映画界のニトリですから金のなさを感じさせない堂々たる大作風画作りをしているし、それが上手くいってしまっているから逆に本当に大作なんだと思った人から貶されるという悲劇も発生しているが、ともかく映像的にもシナリオ的にも貧乏をカバーする工夫がいっぱい、104分ちゃーんと飽きない感じになっていてさすがなのであった。

良いところはたくさんあるっていうか俺にとっては良いところしかない映画なのだがやっぱモンスターのガチ感ね、これは最高ですよ。まずでけぇじゃないですか。モンスターでけぇとテンション上がりますよね。あと平気で人間食ったりとかえぐい。えぐいと更にテンション上がります。習性もモンスターごとにハッキリと描き分けられているからこれは単に狩られるだけのオブジェクトじゃなくてこういう生き物なんだなぁってなって怖いんだよ~モンスターが~。リアルに殺るか殺られるかの世界なんだもんな~最高! 血こそ出ないがモンスターを捌いてでろでろの内臓から毒を抽出する場面とか細かい部分の残酷描写に気合いが入っているのも嬉しい。

まぁでもそこはゲーム版の明るさを求める人にはマイナスポイントになる可能性もあるから難しいですよねゲームの映画化。察するにまぁこのシリーズ第一作目はプロローグなわけだからモンスター怖いぞ~ガチで怖いぞ~っていうスリルで押し切る戦術を取っていて、そのためにメインテーマ曲もなにやら悪魔的な戦慄でおどろおどろしくゲーム版の勇壮な感じは皆無なのだが、おそらくこれは怖いぞムードの醸成に加えて続編への布石でもあるんでしょう。一作目はチュートリアルを兼ねたホラー編、で一作目が当たれば二作目は興行的前例があるからもっと予算付くと思うのでこの一作目では出てこない町とか金かけて作れて…何気なく書いちゃったけどそうそうこれ町が出てこないんだよね。町! いやせめて入口までで良いから町は行った方がよかったんじゃないかな!?

まぁまぁでもねこの一作目でモンハン世界はとんでもない世界だぞっていう説明はしたので次はちゃんと町も出てくると思いますしモンスターを仲間と一緒にガリガリ狩ってなんか色々作ったりする(この映画でも罠とか作ってましたが)陽性アクション編になると思います。一作目でさんざん恐怖の対象として描かれたモンスターを二作目では景気よくやっつけてくわけですよ。で例のゲーム版テーマ曲とかパパパパーンと流すわけですよ。そしたらすげぇ盛り上がる感ないですか? まそのへんはポール・W・S・アンダーソンも低予算映画作りにもゲーム映画作りにも慣れてるからよく考えた上での割り切りだと思うんですよね、うん。

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良かったところの二つ目。俳優の演技めっちゃ良い。俳優の演技めっちゃ良い。大事なことなのでつい二回言ってしまったが俳優の演技めっちゃ良い。まさかこんな映画でって読んでる人は思うと思うし俺もこんなに丁寧な芝居演出をあのポール・W・S・アンダーソンが付けるとは思ってなかったので斜め上から来た予想外の美点だったねこれは。

いやもう全員イイんですよ。主人公の米兵ミラ・ジョヴォヴィッチは歴戦の強者感がナチュラルに漂っていてカッコイイし大団長のロン・パールマンも出番こそ少ないが存在感は圧倒的、レジェンダリー映画におけるジン・ディエン枠といえば分かる人にはわかるとしても分からない人には分からないと思うがここでは分からない人はいないこととするとしてその枠の山崎紘菜でさえ、というと語弊があるかもしれないがまぁでも台詞とかない端役ですしね…しかしこの山崎紘菜が見事に「モンハン世界の人」になっているのだ! なんか望遠眼鏡みたいのカチャカチャ動かして辺りを見回してばかりいる人なんですけどそれがいーのよ漫画的な面白さと世界観のリアリティがあってさ。

と端役演出にも手を抜かない映画だがやはり本丸は孤高のハンター、トニー・ジャーです。都合七種類の武器を操るアクションもケレン味に溢れていて面白いがそれと同じくらい目を引いたのはドラマ芝居で、これに関して言えばキャリア最高の芝居だったんじゃないかと思ってしまう。台詞なんぞは少ないんだが逆に言えばだからこそ演技力が求められるわけで、なにやら複雑っぽい過去を秘めていそうな、そのことで心が半分ぐらい死んでしまって命がけのモンスター討伐に身を投じているような、というのをほとんど身振り手振りだけで表現しているし、ひょんなことからと言うにはスケールがでかすぎる強引展開によって人間世界からモンハン世界に飛んできたミラ・ジョヴォヴィッチと共闘する中で感情を取り戻していく(ように見える)過程はちょっとだけ感動的でさえあった。

やはり超絶アクションで注目を浴びた人の宿命で今までトニー・ジャーのドラマ芝居が注目されることは本国タイの出演作を含めてもあまりなかったんじゃないかと思う。ポール・W・S・アンダーソンのゲーム映画で演技開眼…というのは名誉なのだか不名誉なのだかわからないが、ジャーのドラマ芝居をきっちり引き出したアンダーソンはえらい。

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あとあれ面白かったですよ、ミラ・ジョヴォヴィッチとトニー・ジャーが何度も結構長い近接格闘喧嘩をやるところ。あんまりしつこくやるもんだからちょっと笑っちゃうんですけどでもこれもミラとジャーは言葉が通じない設定だから拳で会話をするしかねぇっていう必然性が一応あってさ、拳を通してこの二人はお互いを戦士として認め合うっていう…いやイイ話なんですよこれは! 仮に尺埋めもしくはできるだけ金をかけないでアクション見せ場を追加したい的な不純だが誠実な動機もあったとしても!

やや余談ながら人間世界でミラが率いていた小隊はダークスターと呼ばれていてこれは雑誌のインタビューを受けたポールがジョン・カーペンターの長編初監督作『ダークスター』の引用と語っていたが、カルト的な人気を誇るカーペンター監督作『ゼイリブ』はいつまでも終わらない喧嘩シーンで有名な映画なので、ミラとジャーのしつこい喧嘩もそのオマージュの可能性がないわけではない。そうだとすれば実に細かいところまでネタを盛った映画だと思う。こっちはモンハンが見てぇんだからそんなオマージュいらねぇよと言われればまぁ反論はできないが…。

長くなってきたので良かったところの三つ目と四つ目をまとめてドン。アクションおもしろいガジェットいっぱいでおもしろいあと衣装とか美術も好きだしなんとなくスピルバーグ映画っぽいところも好き。三つ四つではなくなっているがいやだから結局全部イイと思ってるからさこっちは…だってモンスターはでっけぇこえぇのが5種類ぐらい出てきて7種類ぐらい武器使い分けて討伐してくんですよ。それだけでも面白いのに現代兵器でモンスターに挑んだりする。突進してくるモンスターを見て「RPG!」って叫ぶ映画とかある?

まぁ無いとは言えないねあるでしょう探せば他にもたぶんたくさんあるでしょうですがですがじゃあこれはどうですか飛竜VS戦車隊とか軍用機っていうのは! まぁそれも無いとは言えないが何が言いたいかというとそれぐらい予算不相応にオモシロ要素がビッチリ詰め込まれていたということで…とにかく、面白かった!

【ママー!これ買ってー!】


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『モンスターハンター』がつまらないという人はおそらく普段から栄養価の高いおいしいものを食べ過ぎているので押井守による非公式実写版モンハンこと『アサルトガールズ』を観てからもう一度見直していただきたい。まあどっちも面白いですが。

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