合衆国崩壊映画『フォーエバー・パージ』感想文

《推定睡眠時間:10分》

気付けばシリーズ5作目、しかも間にTVシリーズまで挟んで思わぬ長寿シリーズと化している『パージ』だがその1作目はと言えば一年に一回半日の間どんな犯罪に殺りたい放題デーができましたのドリーム溢れる厨二設定が完璧に設定倒れに終わった単なるホーム・インベージョンもので2作目『パージ:アナーキー』は設定が存分に活かされた快作だったものの以降の作は同じことの縮小再生産、足りない新味は分断の深まるように見えるアメリカ社会の風刺で補おうとしていたがこのシリーズのクリエイターのジェームズ・デモナコはそんなに脳細胞が活発な人ではなかったのでぶっちゃけかなりバカっぽくこんなもん元から真面目に観るものでもないにしてもかなり苦しい完成度で、まぁ新作も惰性で観るけれどもまたどうせ大したことやってねぇんだろ今回もまぁ惰性で観るけれどもあくまでも惰性で…と完全に見下していたのでこの『フォーエバー・パージ』、想像をわりと超えるちゃんとした映画っぷりに動揺してしまった。

いやこれシリーズ最高完成度だろ。荒いところはたくさんあってもシリーズで一番面白かったのは『パージ:アナーキー』なので最高傑作とは言わないがシリーズ5作目にして予算もテンションも下がるどころかむしろ上がっている(ように見える)って何があったんだよ制作陣に。やはりあれですかね2020年米大統領選で選挙結果を受け入れなかったトランプが煽動したアノン陣営の議会襲撃ですかね。今回のパージはパージの12時間が過ぎても「いや、まだやってるっしょ!?」とわけのわからない理屈で犯罪行為を続ける連中が大出現してしまい全米内戦状態に突入のもはやパージでもなんでもない大騒動なのだから穏やかではないわけだが(これまでも穏やかではなかったが)♯フォーエバー・パージを旗印に増殖する「実はパージまだ継続中!」派は「実はトランプが勝ってた!」と信じて暴力で選挙結果を覆そうとした人々と重なる。

トランプにしても抗議は煽っても議会襲撃まで指示したわけではなかったがそれはこの映画のフォーエバー・パージ派も同じで、パージ法を通過させた政府の側がさすがにやりすぎだからと鎮圧のために軍隊を出すとフォーエバー・パージ派はどちらかと言えば自分たちの味方だったはずの軍隊をもパージ対象としてしまう暴走っぷり、こんな与太話シリーズなのに煽動煽動煽動で票を集めたりなんかしているといずれコントロール不能な暴力を生むぞという警鐘は今の世では結構な重みをもつのであった。

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もっともそれはシナリオというよりも画作りの影響が大きくこのシリーズはなんというかわりとのっぺりした画作りを今までやってきてて緊迫感のあるはずのシーンでも今ひとつ迫力がないっていうかむしろちょっとバカっぽく見える…のであったが今回はちゃんとショットにメリハリもケレン味もあって美術とかロケ地も手を抜いてないからパージ下のアメリカがシリーズで一番リアルに迫ってくる。いや興奮しちゃったね、テキサスのメキシコ玄関口エルパソがフォーエバー・パージ派の暴走で銃弾は舞い死体は転がり至る所破壊し尽くされ戦車まで出動する事態になって完全に内戦状態というこの黙示録感!

パージ下のアメリカを俯瞰的に捉えた今回はプリ・アポカリプス映画の趣で、派手な合衆国崩壊シーンも良いのだがその前振りとしての金のない下流移民たちがパージを生き延びるための寄り合い所帯的避難シェルターに集まって来るシーンであるとかカウボーイが牧場主からパージ手当を渡されるシーン等々に漂う崩壊の予感がすばらしい。主人公は国境トンネルでメキシコからアメリカに移り住んできた不法移民なのだが終わらないパージをかなり運悪く非白人だいたいなんとなく嫌いなパージやりそう同僚と逃げ回る羽目になってしまい、その緊張感を帯びたバディならざるバディ関係もなかなか見応えがあった(それが消化不良のまま終わってしまうあたり毎回詰めの甘いデモナコ脚本だ)

パージで割を食うのは貧乏人とかマイノリティってわけで『パージ:アナーキー』からその萌芽はあったが今回はマイノリティの連帯が話の軸になる。といってもこのシリーズのことだから柔い連帯ではなくマイノリティはマイノリティ同士武器を取り合って白人至上主義者どもに抵抗しよう! という誠にアグレッシブかつ燃えるものである。そんなに活かされる場面はないが(詰めの甘いデモナコ脚本だからな!)主人公の妻の銃器さばきはナメてた相手が系のプロ顔負けでカッコイイしメキシコ脱出口に主人公一行を案内するネイティブ居留地の部族長の台詞も最高。「国境に壁のない地帯なんてあるのか?」「あぁ、危険すぎて白人が近づけなかった所さ」

それにしても皮肉ですよねパージがぶっ壊れた今じゃアメリカにいるよりメキシコにいる方が安全だからメキシコに逃げようとするっていうこのあらすじ。今じゃといっても映画の中でのことだが作り手の問題意識はなかなかに切実なものがあるんだろう。ホラー映画は時代を映す鏡と誰かは知らないが誰かは言っているに違いないが、これはまさしくそんな映画だったように思う。

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アメリカ内戦シミュレーション映画といえば最近の当たり作がこれ。各種レビューサイトの評価があんまり芳しくないのはこれがアメリカ社会を風刺した映画だとわかってない人がよく考えもせず低得点をぶん投げてるからだろう。

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