ワニどんと来い映画『クロール ―凶暴領域―』感想文

《推定睡眠時間:10分》

100点だろう! 100点! 100点の映画! いやむしろ0点なのかもしれない! 0点だ! カテゴリー5のハリケーン到来で避難指示が出ている中を警察の制止を振り切って! 父親の安否確認のため実家に向かう主人公! 0点だ! ハリケーンに乗じて近所のワニ園から脱走した大量のワニ軍団が! そこには潜伏していたという極限まで安易な設定! 0点だ! さぁどうする父娘! ワニとハリケーン! 河川の氾濫で道路が冠水しちゃって水位も上がってきちゃって絶体絶命! だが主人公は競泳選手! ワニにだって水泳なら勝てるさと極限状況の中で異種競泳戦! お前は何者だ! さぁ思い出せ! 迷わず泳げよ! 泳げばわかるさ! アリゲター! けしかける父親! 0点! 0点だ! 圧倒的に間違っている!

だが人生とは! そんな間違いの連続ではないだろうか! 確かにこの主人公! この父親! この映画! すべて間違っている! 色んな点で間違っている! 競泳歴十数年の主人公! どんなに頑張ってもいつも二番手に甘んじている彼女! 二番じゃダメなんですか! ダメに決まってるだろう一番じゃないと意味がないんだよ! だから彼女は泳ぐのだ! 今までの競泳人生の全てを懸けてワニと泳ぐ! なぜ! ワニと泳ぐのか! なぜ! それで万年二番手の屈辱が晴らせると思ったのか!

理性的には間違いだろう! 武井壮なら逃げるだろう! 彼はスマートな男だ! 陸上10種競技日本記録もそれならば自分でも獲得できると計算した上での合理的な努力の結果! 百獣の王を目指す男を謳いながら! 武井壮ならワニと泳ぐ道は選ばないはずだ! 黙って家の屋根に登って救助を待つに違いない! 俺もそれが正解だと思う! サバイバルの100点だと思ういや! 100点とまでは言わなくとも! ワニ競泳よりは生存確率が高いのは間違いがないだろう!

負けっぱなしの人生を! ワニ競泳で挽回する! 俺はこの0点行動に100点を与えたい! なぜならそれは間違わずには生きられない! 武井壮のようにスマートには決してなれない! 地を這う(crawl!)ように生きている残念な俺たちの人生の! 力強い肯定だからだ! 主人公は言う! たとえ実家が壊れても! 私たちが一緒にいればそこが実家! 感動的だ! ワニと競泳選手が戦う映画のセリフとは思えない!

大丈夫! やり直せるさ! だから恐れるな! 生きるんだ! ワニと戦え! なんでだよ最後のだけ繋がりがおかしいだろでも! その間違いを全力でやりきったこと! その理性の0点を正面から受け止めたこと! その点において『クロール ―凶暴領域―』! 映画として! 人生として! 100点なのである!

というわけで『クロール ―凶暴領域―』、監督アレクサンドル・アジャのハリウッド進出作『ヒルズ・ハブ・アイズ』がホラーの皮を被った家族の崩壊と再生の物語であったように、バカみたいとしか言いようがない道具立てですが諸々うまくいかなくて捨て鉢になった父娘がワニとの戦いを通じて人生を取り戻そうとする感動作でした。
ワニと格闘しながらのフラッシュバックとか瀕死の重傷を負っているくせに全然死なないで主人公を煽りまくる父親とか笑わずにはいられないが! そのバカバカしさをバカにしないところがグッとくる。バカにはしないがしかしやっぱり笑ってしまうところにもグッとする。そのへんの塩梅が実によい映画なのです。

ホラーとしてもたいへんよくできていたなあ。アジャは空間を生かしたサスペンス醸成が巧い。たとえばワニの巣窟と化した無人の実家に入った主人公が家の中を見て回るくだりで台所からラジオ音楽のようなものが聞こえる、その音を辿るとどうもシンクの奥からで、覗くとそこから家の基礎部分が少しだけ見える。
で主人公は基礎部分の入り口のある車庫に回っていくわけですが、この、静寂の中で人間の居た痕跡とそうではない何かの気配を垣間見せて、その痕跡に遠回りしながら近づいていくことでジワジワジワジワと恐怖を煽りつつ、舞台となる場の構造を自然に観る側に植え付ける語り口はまったく見事だった(この「場」の廃墟アート的な汚美術がまた素晴らしい)

『ハイテンション』とか『ヒルズ・ハブ・アイズ』同様、一旦その何かが姿を現わしてからは怒濤の展開、ワニは襲ってくるわ水は入ってくるわ堤防決壊警報が鳴るわでもう大変だ、家の構造をフルに生かしてノンストップで叫んで逃げて噛まれて叩いて泳いで跳んでぶっ壊してとシリアスなドリフのコントみたいになってしまう。1匹だけかと思ったら『エイリアン2』の如くワニ大量で大盤振る舞い。ちゃんとワニに食べてもらう要因の人もあらからさまに餌投入されるので人食いファンも心配に及ばない。更には引き締まった体つきの競泳女子たちとかわいいワンちゃんまで付いてくるこの過剰サービス!

B級オモシロとB級人生賛歌だけで構成されている上に台風の時に興味本位で避難指示地域に入ったり増水した河川を見に行ったりするとワニに食われるから絶対にやってはいけないというありがたい教訓まで得られるB的に完璧な87分ではないかとおもう。

徳弘正也の描く武闘派女キャラみたいな主人公のカヤ・スコデラリオも瞳に不屈の闘志を宿してかぁっこいいしねぇ。アジャの映画は闘う女ばかり出てくるから良い。デビュー作の乾燥ディストピアSF『フリア』にレジスタンス役で出演したのが売り出し中のマリオン・コティヤールなのだからわかりやすい人です。
わかりやすさ、ストレートさを身上とするアジャだからオープニングは競泳水着に身を包んだカヤ・スコデラリオがクロールで泳ぐ場面です。クロールで泳いでるところで『CRAWL』のタイトルがイン。バカかよ! いやバカじゃない! たとえバカだとしてもこれがアジャの生き様!

こんな下らない駄洒落にさえ本気を感じて襟を正したくなる『クロール ―凶暴領域―』なのだった。でもエンディング曲がビル・ヘイリーの『See You Later Alligator』だったからやっぱふざけてるんだと思います。張り詰めた空気の中で「ワニだ!」爆笑。

【ママー!これ買ってー!】


ピンボール66匹のワニ大行進

こんなゲームを初期のHAL研究所が出していたらしい。なんでも食べるところはカービィもワニも同じですね。なんでも食べないよワニ。

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