スーパー映画感想文『クレイジー・ワールド』『バッド・ブラック』

『アフリカン・カンフー・ナチス』のミニヒットを受けての二匹目のドジョウ企画なのだと思うが『エクストリーム!アフリカン・ムービーフェスティバル』とかいう企画上映が新宿ピカデリーでやっていて三本あるうちの『誰がキャプテン・アレックスを殺したか?』だけ時間の都合で観られなかったが『クレイジー・ワールド』と『バッド・ブラック』は観た。うん、すごかったですね。これはすごいですようーんスーパー!

「アフリカン・ムービーフェスティバル」とかいうビッグワードに反して上映作品はすべてウガンダのスラムを拠点とするスーパー低予算映画制作会社ワカリウッドが製作したすべて同監督(キャストも大体被ってる!)の作品とかいう騙され感や日本の配給会社に作品の宣材を作るお金がなかったらしいのでポスタービジュアルすら存在しないという地下興行感も含めてスーパー面白かったのでスーパー映画にはスーパー感想二本立て! 『誰がキャプテン・アレックスを殺したか?』も行っとけば良かったナァァァァァ! 名画座さん上映を検討してくださいお願いしまーす!

『クレイジー・ワールド』

《推定睡眠時間:マイナス70分》

前にガーナのVシネのクリップとか予告編とかをYouTubeで観てたら頭に他作品のDVD宣伝が入っててそれがなんか編集ソフトのプリセットエフェクトを限界レベルまで活用した目の回るサイケ映像に熱狂系のスポーツ実況みたいな感じでナレーターが作品内容を紹介したりリズミカルにタイトルを連呼したりする音声が載るっていうナニコレーって感じのやつだったんですけど口承文化の名残なのかああいうスタイルはどうもアフリカVシネ界(また広いな)にはわりとあるっぽくてガーナとウガンダだと距離的には開きがありますけどこの『クレイジー・ワールド』もVJエミー(VJといえば日本ではライブなんかで映像を操作する人の意になるだろうがこの場合は映像実況者的な意味らしい)とかいう人の実況が付いていてグルーヴィーかつ適当に状況を説明してくれたりする。しかも全編。

こうなるともはや活弁なので言っていることは極めて適当だがなにかイイ話感が出てしまう。これは俺の想像なのだがアフリカ諸国ってゆーて全体的な識字率とか教育の普及度合いってそんな高くないわけじゃないですか。それでその上にエスニック・グループごとに異なる言語が話されたりして、公用語は一応大体の国で英語とかフランス語とかになってるんでしょうけど、同じ国の中でも全ての人が公用語で流暢なコミュニケーションが取れるわけでもたぶんないですよね。

なんで活弁やねんって最初はむろん良い意味で笑いながら思うんですけどこのVJエミーって悪い奴のアジトのシーンになると「一方こちらタイガー・マフィア!」って説明したりとか、悪者が建物に隠れたヒーロー側の人間を探してたりすると「どこだ~? どこに隠れてるんだ~?」とか台詞にならない心情を補足したりするんで、たぶんこれメタ的なギャグも兼ねてるんでしょうけど教育とか言語の壁を越えて誰でも映画を楽しめるようにっていう配慮っぽくて、それは活弁も元々はそういう目的で導入されたわけだから、なんかね、だからイイ話なんですよ実は。

で、で! そのVJエミーの活弁が載る映画の内容の方はというと、もうですねこれは筆舌に尽くしがたい。めちゃくちゃだよこんなの。なんかヒーロー役の登場人物が出てくるじゃないですか。そしたらVJエミーが「おお! 彼はあのブルース・U!」とか言っていや誰だよって心の中でツッコもうとした矢先画面が切り替わりブルース・Uが出演したワカリウッドの過去作の映像がダイジェスト的に流れその勢いで「ブルース・Uの新作もよろしくな!」って新作の宣伝になるんだよ!

面食らうじゃないですか。で面食らってたらまた急に場面が変わってウガンダのコマンドを名乗る男たちが海賊盤撲滅キャンペーンの一環としてカナダでこの映画の海賊動画を見てる男を抹殺するために段ボールで作ったロボコップを派遣したらそれは間違いで誤って射殺しちゃった後にフランスにロボコップを軍用ヘリで行かせるとフランスの海賊動画ユーザーがDVDを手裏剣みたいに投げて反撃してきてパリが火の海になるんだよ!! それで海賊盤撲滅コマンドの指令本部(屋外)に戻るとウガンダの海賊盤ユーザーを捕らえておく檻の中にこの映画の監督のナブワナIGGがいて「監督まで海賊盤を!」「いや! わ、私は自分の映画を!」「そいつを連れていけええええ!」…って一通り寸劇をやった後に唐突に本筋に戻ってVJエミーが「さて映画に戻ろう」って戻れないよなんだったんだよそれは!!!

足りないどころではない予算を有り余るDIY精神だけでここまで面白くされてはただ単に最高としか言えないのだがお話の内容としてはめちゃくちゃアホでも児童誘拐がテーマなので海賊盤の云々とか警察がさっぱり役に立たないところも含めてウガンダのスラムの現実が反映されてもいるわけで、なにか映画の持つ力とか可能性っていうのをルドヴィコ療法ばりに無理矢理感じさせられたりする。悪い奴はみんなカンフーでぶっ倒してスーパー粗エフェクトでアジトとか爆破して強制的に勧善懲悪ハッピーエンド。近所の子供たちっぽいキッズ出演者も楽しそうでたいへんよい。あれだな往年の香港コメディを彷彿とさせる至福の映画体験でしたね。『Mr.Boo』とか『コイサンマン、キョンシーアフリカへ行く』とかの。

『バッド・ブラック』

《推定睡眠時間:300分》

製作されたのは『クレイジー・ワールド』より前なので『クレイジー・ワールド』にはスラムの犯罪組織の頭目であるこの女性主人公バッド・ブラックがゲスト出演したりするが、娯楽性ではバカギャグやりたい放題の『クレイジー・ワールド』が勝るとしても完成度は『バッド・ブラック』の方が高い。児童誘拐テーマの『クレイジー・ワールド』に対してこちらはもっと広くスラムのストリート・チルドレン問題を扱った映画になっていて、虐待とか労働とか様々な理由で家を飛び出して悪徳コマンドの下で窃盗とかの軽犯罪に従事させられている子供たちがスラムの真っ暗な夜の中、陽気な曲調で「全ての家族に絆があるわけじゃない」とか歌ってお互いを慰めるシーンとか少しだけ泣きそうになる迫真っぷりでびっくりする。スラムで映画作ってる人たちだからそこらへんは身近な問題なんでしょうね。上から問題を取り上げるんじゃなくて当事者と同じ目線で問題を見ているからこその迫真性なんだろうと思う。

展開が先読み不能なのは『クレイジー・ワールド』も同じだがこちらはもっと破綻のないというか周到な先読みのできなさで、VJエミーが「ウガンダのシュワルツェネッガー!」と呼ぶランボー者が壮絶な銃撃戦を繰り広げるアヴァンタイトルにいやそれ全然本筋と関係ないだろと思っていたところ実はこれがちゃんとバッド・ブラックの物語に繋がっていて、全ての糸が意外なところで一点に結ばれたかと思った瞬間、えー、なんというか、それまでのすべてをひっくり返すメタ的などんでん返しがあるんだよね。いやこれは社会問題の取り扱いも含めてストーリーが本当よくできていたな。

だが「よくできた」などワカリウッドにとってあまり褒め言葉とは響かないに違いない。映像面で『クレイジー・ワールド』にあった海賊盤撲滅コマンドの茶番などの飛び道具的ギャグが少ない分VJエミーの活弁はノリノリにハネており、カーチェイスのシーンでスバル車が映れば「スバルスバルスバルゥゥゥゥ! ブルンブルンブルゥゥゥンン!」(いきなりなんだ!)、カンフーバトルでキックが決まれば「座頭市キックだぁ!」(絶対違う!)、アメリカからやってきたボランティアの白人医師の助手を務める現地の少年には「彼の名はウェズリー・スナイプス」(ゴリ押しの加減!)、スラムの荒んだ日常をカメラが切り取れば「これが貧富の格差だ…大坂の新世界も同じだよな」(それはわりとそうかもしれない!)ともうなんかすごいことになっている。緊迫したアクションシーンで怖いぞ怖いぞムードを醸し出す強そうな悪役に対してはこうですよ。「彼はまるでシュワルツェネッガー…ブルース・ウィリス…ヴァンダム…ビル・マーレイ…」いや一人だけ違うの混ざってるなそれは! 最高。

あと忘れてならない面白ポイントとしてはこれは他のアフリカ系Vシネでも感じることだがそこらへんの一般人になんとなくの口約束で出てもらったようにしか見えない出演者ばかりなのに異常なレベルで全員カンフーが巧くてやばい。振り付けとかは本場みたいに洗練されてないですけど手数と正確さが尋常じゃないしそれをちょっとパルクール的なアクションも入れて集団乱闘でやったりするからすごい臨場感と迫力で、このへんはネタではなくてアクション映画としてガチも大ガチの超見物。

銃撃戦のシーンもまた凄まじいものでエフェクトは金がないのでショボの極みだがでけぇ発砲音を被せ気味に流しまくって誰がどこでどうなってるんだか全然わからない超高速編集を施していくから独特のグルーヴ感があって、なにがなんやらわからないまま人がバシバシ撃たれて死んでいくそのカオス状況をVJエミーが「ウフェフェーイ! シュワルツェネッガー撃つ! コマンド逃げる! スバルが追ってきた!」と説明していく。マイケル・マン以来の銃撃戦演出革命ではないのかこれは。これもすごかったなー。

ボランティアで来たはずのアメリカ人医師がドッグタグをスラムの犯罪集団に盗まれたことでブチ切れて機関銃でスラムの住民をぶっ殺しに来るとかの鋭い風刺ギャグが機関銃の如く放たれる一方、カンフー修行(?)で使ったキャベツを修行している後ろにいた牛が食べちゃうのをズームで撮るなどのアクシデント的ギャグも多数で退屈する隙がない。スーパー忍者! スーパーアクション! スーパーウォリアー! スーパーベイビー! スーパーゴジラ! …と何に対してもとりあえずスーパー(※ワカリウッドの公式サイトとかを見ると公式的にはsupaらしいです)を付ければいいと思ってるVJエミーに倣って、スーパー超低予算映画だったと言って感想を終えよう。そこにスーパーを付けてしまうとちょっと意味が違ってきてしまうような気もするが。

【ママー!これ買ってー!】


Wakaliwood Supa Action 1: Who Killed Captain Alex + Bad Black [Blu-ray]

アマゾンでもきっちり取り扱いのあるワカリウッド映画ですが公式サイトで買ってあげた方がお金が多く入ると思うので興味の沸いた人はワカリウッドのスーパーサイトを覗いてみるといいんじゃないかと思います。ちなみに公式サイトにはこのソフトに15時間の特典映像が入ってると書いてあるが本当かよ!?

https://www.wakaliwood.com/
https://supastore.wakaliwood.com/

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