原点回帰映画『スパイラル:ソウ オールリセット』感想文

《推定睡眠時間:15分》

シリーズ作をコンプしてない上にちゃんと劇場で観たはずの前作『ジグソウ:ソウ・レガシー』の内容もうろおぼえ(ピタゴラ殺人スイッチがたくさん出てきたのは覚えてる)なのでシリーズのファンなら「この人はあれがああなってこうなったんだよね!」みたいな感じで他のシリーズ作と頭の中でストーリーを繋げて楽しめたりするのだろうがそうではない俺にとってはわりと普通に盛り上がりに欠く淡泊ホラーだった。

のっけから舌を引っこ抜くか電車に轢かれて死ぬかの極限二択(どっちも死ぬだろ)を迫るイヤァな残酷シーンがあったりするぐらいだし個々の残酷シーンはゴア描写にも気合いが入ってかなり悪くない感じなのにどうしてこんなに…と考えたのだがこれはおそらくデスゲーム系ホラーというよりも『羊たちの沈黙』とか『セブン』の系統のサイコサスペンスであった一作目への原点回帰を狙ってダークな刑事ドラマのストーリーになっているせいで、『ジグソウ:ソウ・レガシー』も含めてデスゲーム路線のシリーズ作は被害者目線でストーリーが進行するから死の恐怖を一応は感じたりすることができるし、そこから逃れた時のカタルシスというのもまぁあると言えばあるが、刑事目線で進行しちゃうと殺しの被害者の方々が単に残酷に殺されるだけの駒になってしまって…恐怖がない。なんか全員知らない人だから可哀想にもあんまならないし。

しかも汚職ネタでしょう? 序盤であっさりその話出てくるからネタバレに当たらないと判断して書いてしまいますけど悪徳刑事たち(かどうかは観てのお楽しみだが)が次々殺されたところでそうですかーって感じだよな。犯人もぶっちゃけそんなに意外じゃねぇし。『ジグソウ:ソウ・レガシー』は監督がスピエリッグ兄弟だからミスリードとか結構うまくてミステリーとして面白かったので、まー今回はあれですかね、お話とかはどうでもいいから残酷ソウいや違った残酷ショウを楽しんで下さいネってところですかね。うーむそれならサイコサスペンス原点回帰の意味があんまりないぞ。

ところでその残酷ショウだが描写はゴアでもアイディアはそこまで面白いものではなくピタゴラ性も薄い。いくつかの殺人トラップは過去作で見たような気がするのでシリーズの名殺人トラップを振り返る殺人コンピレーション盤みたいなものなのかもしれない。原題は『SPIRAL: FROM THE BOOK OF SAW』なので(これは多少ネットの映画オタクなどから叩かれても『スパイラル:ソウ世記』のバカ邦題にすべきであった)ジグソウが殺しの手口と思想をオープンソースにしちゃったせいで色んなジグソウもどきが出てきて世の中たいへん! みたいな、なんかそういう世界観を出す狙いがちょっとあったっぽいので、これも時流にだいぶ乗り遅れてユニバース化を目論んでいるのかもしれない。そのわりにはショボイしキャラ立ちも薄いのだが。

タイトル的にもナンバリングタイトルではなく外伝なのだし、変な先入観を抜いて観ればクリス・ロック主演の『セブン』亜流って感じでそこそこ楽しめそうではあるから、たぶんこれはそういう感じで観るのが良いんだろうな。最初の事件現場にクリス・ロックと相棒刑事が妻の愚痴とか言いながら入っていくシーンなんか良かったですよ。現場は地下鉄の下層トンネルなのだが、そこに向かうのに通常運行してる上層の路線のホームを通る。上層ホームには普段通りに人々が行き交っているが封鎖テープをくぐって警官の案内で下層ホームに下りていくと当然ながら人気はなくなりあたりを不気味な沈黙が覆う。

このへん、陽と陰のシームレスな切り替わりに結構ゾクゾクしたので、日常と非日常が地続きになったこのサイコサスペンス的なゾクゾクがずっと持続していればなぁ…とか思う。そういう陰惨ムードをいかにも『ソウ』シリーズ的な「いやそんなの無理だろ」っていうバカバカしい残酷殺人トラップがちょっと壊してしまうところがあるんだよな。そういう意味ではサイコサスペンスとしても中途半端だし、『ソウ』シリーズとしても中途半端だったんじゃないだろうか。

【ママー!これ買ってー!】


ファーザー・ダウン・ザ・スパイ

とくに関係はないがなんか思い出したので。

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