負け戦に全力映画『アルキメデスの大戦』感想文

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《推定睡眠時間:60分》

110分ぐらいの映画かなぁと思って上映後に確認すると130分、となると俺の見積もりでは睡眠時間40分だったが最低60分ぐらいは寝ていたんじゃないだろうか。寝たな。ずいぶん寝た。
でも寝ても面白かったのでこの映画はちょっとすごい。その寝ていた箇所というのが舘ひろし演じる山本五十六にスカウトされた元帝大生の天才数学者・菅田将暉が戦艦大和建造計画を阻止しようと奔走するところで…って要するに映画のメインパートですよね。メインパート寝てるんです。

だからそこに出てきたっぽいわりと重要キャストの笑福亭鶴瓶とか小日向文世とか浜辺美波とか見てません。それでも面白いんだからすごいよなと言うと褒めているんだか貶しているんだかわからないが良い意味で言ってるから、あくまで良い意味で。
見ていない個々のシーンに関しては面白かったかつまらなかったか判断しようがないが、つまり全体の構成がとてもよいということ。最初30分くらいとラスト30分くらいしか見ていないのにガツンとやられてしまった。そこしか見ていないが故にという可能性もあるとしても、そこだけでも面白いというのはやはり立派なことなのです。まぁ全部観るのがいちばん良いと思うけどね!

で俺の見た限りでは映画こういうお話でした。時は1933年、そのころ空母赤城艦長の山本五十六は海軍の超大型戦艦建造計画に不満ありあり。いまどき戦艦なんかになけなしの金つぎ込んでもしょうがねぇじゃねぇの。時代は空母よ、航空戦力よ。空母こそはたらくくるまじゃないの。くるまじゃないけれども。
だが山本五十六のそんな進歩的兵器論は艦上いや感情オンリーで動く無知蒙昧な海軍のお偉方にはなかなか受け入れられない。やつらときたら造船中将・平山忠道(田中泯)の持ってきた超大型戦艦の完成模型に超夢中、金持ちの友達の家に置いてある高級ガンプラを眺める貧乏キッズのように目を輝かせるばかりでまったくお話にならない。

このままでは兵器としての実用性よりもカッコよさを選ぶ中年キッズたちによって大日本帝国は崩壊してしまう。国の行く末を憂いた山本五十六は妙案を思い付く。後に大和と呼ばれる件の超大型戦艦の見積書はどうも臭い。明らかにそんな安く仕上がるはずがないのに建造費がやたらと安い。計画案を通す為の見積もり偽装ではないか? だとすれば、その事実をつまびらかにすれば戦艦建造案は撤廃、より実用的な空母建造に予算が回されるはずだ。

超大型戦艦の見積もりを精査する必要がある。かくして数学の天才の異名を取る若手数学者・櫂直、演じるは菅田将暉が空母まさきとして空母あかぎ艦長五十六に呼ばれるのであった。根っからの軍隊嫌いの空母まさきは葛藤を覚えつつもファッキンジャパンの権現たる大和の建設を阻止すべく、数字のみを武器に動き出す…。

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でもそんなお話でどうやって映画引っ張るんだろう、と睡眠に入る前にぼんやり思ったことを覚えている。
というのも映画の冒頭はついに完成・出航した戦艦大和のスペクタクルな撃沈シーン、これがまぁ大迫力で、厨二心をパールハーバーする大和のフリーキーに無骨な外装を舐めるように撮っていくフェティッシュなカメラワーク、容赦の無い人死に描写(甲板を流れる大量の血のおぞましさ!)、コントロールを失った船体のダイナミックな挙動とリバイアサン的な圧巻の存在感…全部最高だったのですが、事実なので仕方が無いとはいえ既に沈没することが分かっている大和の建造を阻止しようとしても無駄じゃんねぇと思ってしまう。その結末を知らずに足掻く人々の徒労感であるとか歴史のブラックユーモアを強調する演出にもなってないし。

ところが違ったわけです。大和の建造を阻止しようとする空母まさきの奮闘というのは一種のミスリードで、映画の核心は別にあったというのがまったく巧い、面白いところで…冒頭の大和沈没スペクタクルというのも実は伏線だったりしたわけです。
いやよくできたどんでん返し系のヒューマンミステリーだ。軍事機密であるから見積もりを精査しようにも海軍は具体的なデータを少しも出してこない。出してこないなら数学知識を駆使して自分の頭でシミュレーションするしかないっていうんで、未だ見ぬ大和の設計図を空母まさきは紙の上で仔細に組み立てていく。

そのうちに空母まさきは大和に憑かれていくというのが映画の大きなポイントだったが、これはVFXを兼任して冒頭のフェティッシュな大和スペクタクルを作り出した山崎貴監督の姿と重なるところがある。敵を深く知ることで逆に敵の魅力に憑かれてしまうアンビバレント。壊さなければいけないものほど魅力的に描いてしまうCG職人の性。
山崎貴が毀誉褒貶の激しい百田尚樹原作の『永遠の0』や『海賊と呼ばれた男』を手掛けていることを思えばこの両義性は興味深いところかもしれない。まぁそれはともかく。

海軍のお偉方の面々、橋爪功とか小林克也とか大和ゾッコン勢のアニメ的なオーバーアクト(全体的に俳優の演技はアニメ的だった)にはバカじゃねぇかと思ってしまったものですがバカでいいんです。こういう方々がバカであることにこの映画の意味があった。
大和建造反対派の山本五十六と大和建造推進派のコンフリクトはともすれば山本五十六の航空主兵主義を採用していれば云々の歴史修正主義的願望に根ざした、その願望を満たしてくれるものに見えるかもしれない。けれどもそれさえラストシーンで空母まさきが出航した戦艦大和を眺めて言う「大和…」の台詞に重い錨を降ろすものだ(※これは記憶違いで菅田将暉は「そうだな…」と呟いたのだった

表面的には大和を作る作らないの話でしかない『アルキメデスの大戦』が抱えるものは存外重い。これは見た目に反して歴史のifに逃げ込んだ軽薄な映画なんかではないからだ。ネタバレのボーダーラインギリギリまで踏み込むと、敗戦と天皇についての寓話なのだ。戦後日本が拠り所としてきた職人信仰とものづくり幻想を通して歴史の必然と敗戦の痛みを現代に突きつける敗戦国ジャパンの屈折した、しかし真摯な戦争映画だったのだ。
そんな風に見えないでしょう。そんな風に見えないからびっくりして超寝たのに超おもしろく見えたんだよ俺には。

【ママー!これ買ってー!】


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そういえば未だに観てない。

↓原作


アルキメデスの大戦(1) (ヤングマガジンコミックス)

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