『ミスミソウ』映画版の感想(原作未読、ネタバレなし)

《推定睡眠時間:0分》

どのへんを舞台としているのか知りませんが夜になってあぁ雪降ってきたな、と思ったら翌日には数センチとか数十センチとか積もってる豪雪地帯なので画が白い。
雪化粧の白、全身包帯の白、物語の終盤である登場人物が身に纏う白、それからエンドロールの地の色が白とかいうこの白色の優遇っぷり。

タイトルとか予告編がえぐい感じのやつばかりなので内藤瑛亮さんという監督の映画はえぐ要素の少なそうな『高速ばぁば』と出世短編の『牛乳王子』しか観たことない。
ばぁばと王子でしょ。わぁなんか可愛い。メルヘン。でも実際観たらえぐ要素それなりに濃かったですよちくしょう騙された。白々しい文章は、ここらへんで止めておく。

『高速ばぁば』の目玉恐怖といえば怨霊ババァに取り憑かれた女子高生だか女子中学生だかの髪が白くなる。止めどなく口から白髪を吐く。
『牛乳王子』はどうか。童貞作(※俺PCにより処女作の語を自主規制)には作家の全てが出ると言うがそんな戯言を信じると作品の豊かさを見失うだけだと思うがでもこの場合はかなり『ミスミソウ』と直結してるだろこれ。
性悪女子たちの凄惨なイジメにより怨霊殺人鬼・牛乳王子と化した男子中学生に見えない男子中学生が、吐く。イジメた女子どもを捕まえては口に含んだ牛乳を、吐きかける! ここでもシロとゲロだ。

嘔吐はたぶん趣味だと思うからまぁいいとして、理由はまったく知らないし探る気も一切ないが内藤監督の中でどうも白色と復讐が結びついているっぽいというのはなんかおもしろいですよね。
純白の世界を過剰な鮮血で染め上げる『ミスミソウ』の雪中殺しの光景から個人的に連想したのはパク・チャヌクの『オールド・ボーイ』とか『親切なクムジャさん』の、復讐行脚の最後に辿り着く雪景色。
豆腐のように真っ白になってやり直そう的な意味合いで韓国には刑務所を出所した人に豆腐を送る習わしがあるらしいので、パク・チャヌクの復讐者たちも一通り殺した後にはちゃんと白くなる(でもパク・チャヌクだからその白に必ず毒と皮肉を混ぜ込むが)

『ミスミソウ』の場合はその逆で世界が白くなると復讐が始まるし、降り続ける雪は次第に登場人物の理性を失わせていく。やたら都合良く雪の中から凶器を拾えたりするから雪は復讐者に味方する。
この世の終わりのような白だ。この監督の人の冥府は白い。ちょうど昨日『ラブレス』でこんな風景を見たばかりなので…世界に絶望した子どもが白に溶けて消えていく…相乗効果でダブルおもしろかったがダブルつらかったので観る時期は選ぶべきだった。あぁ、白い。

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それにしてもイジメの映画のつもりで見に行ったらイジメってレベルじゃねぇんである。映画のかなり最初の方の時点でイジメ女子が被害女子(山田杏奈)に針ぶっ刺したりしているから家裁案件になるかどうかは分からないが証拠動画のひとつでもネット流れりゃ炎上案件だろう。
イジメを知っといてぇの担任教師(森田亜紀)の無気力対応もネットなら炎上間違いなしの火薬庫っぷりであるからついにリアルでも家が炎上してしまった。燃えたのは虐められた方の家だったが。

それが言いたいばかりにインターネットなどほぼ出てこない映画なのに無理矢理ネット炎上を文脈に乗せる感想文はどうなのか。
もう書いちゃったからそのまま続けますがいやでもそういう舐め腐った文章を躊躇うぐらいにはキツイ映画でしたよマジ。
イジメの映画っていうかこれはだから…ここで描かれる中学生たちの関係性と似てるなぁと思ったのはスタンフォード監獄実験をネタにした『es』っていう映画で…なんか集団心理実験みたいなところがすげぇ怖かったですね。

こういう雪に閉ざされた片田舎の閉鎖的な環境でさぁ、経済的な事情だったり家庭の事情だったりでそこから出ることが不可能な(少なくともそう思い込んだ)状況に置かれたらさぁ、どんなに開放環境ではマトモな人間でも状況に適応するために権力と差別と暴力が剥き出しになったセクト的な関係を築いてしまうんだろうみたいな。
それでその関係を正当化しながら維持するために共犯的な、儀式めいた異物排除の行動に出てしまったりとか。ゴールディングの『蠅の王』で無人島に辿り着いた少年たちが徐々に分派・部族化しながら独自の宗教を作り上げていったような感じで。

いやもうそういうのキツイっすわ。それがまた複眼的に描かれるもんだから中々映画との距離の取り方が難しいっつーか。イジメ加害者全員殺しちまえやって気分に持ってければいいんですけど、結局こいつらは環境と関係と状況に雁字搦めにされて誰も自分では自分の行動を制御できなっちゃったんだなっていうのをあえて見せる映画だったから、復讐劇ですけどスプラッター映画みたいに殺してスッキリとか全然しないっすよねぇ。
あぁこん中に俺もいるんだろうなって思えてしまうわけだから。殺す側か殺される側かは知りませんけど。

殺しの場面のゴア描写は血量も多く強烈も、関係性の恐怖の前では霞むというかなんか逆に和んじゃった。こんな物語をリアルに撮られても心が荒むだけなので漫画的ゴアに救われた。
バランスがいいよね。すげぇ厭な映画ですけど血飛沫の愉しい嘘くささのお陰でなんとか見ていられる。これはでも善し悪しかもしれませんけど。

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個人的に印象に残ったのはたぶん出てくるイジメ中学生の中で一番どうでもよくて一番クズ度が高い、ボウガンと改造ガスガンで武装した動物虐待二人組。
このイジメ中学生たちっていうのは都会志向のイジメリーダー(大谷凜香)に自身の脱出願望を託すようにして群がってるんですけど、動物虐待二人組だけはちょっと群がる目的が違うんですよね。

こいつらはもう脱出を完全に諦めていて、進学先から就職先から墓まで全部決まった人生を絶望も感じないくらいに叩き込まれちゃってるから、犯罪的なことに躊躇いがない。
絶望はないけど退屈だけはあるから、それで捕まろうが死のうが暇つぶしになれば別にいいやぐらいな感じで、半ば自滅的にイジメ軍団に加わる。だから仲良しゲームもしないし誰も仲間だと思ってない。

悪の魅力というにはあまりにも情けないんですけど、手酷いイジメを加えながらも責任転嫁と保身に余念が無い他の連中と違って自分たちの行為に一切言い訳を作ろうとしないアッパレなクズっぷりが、かえってその痛みの深さを感じさせてちょっと忘れ難いキャラクターになってたなぁって思いましたね。

あとはもうあれです、なんか言うとネタバレになりそうなので無駄口無用。まぁ、みんな可哀想でしたよ。みんな可哀想。みんな加害者でみんな被害者でみんな可哀想っていう感想すね、親とか、フレームに入ってこない町の人間も含めて。
イジメに虐待、都市部との経済格差と情報格差、ラブレスと無関心か。少し気を緩めると『ラブレス』と世界が繋がってしまうなこれは、どこまでも続く雪の上で。

二段構え三段構えの重層的な展開は2時間以内に納めるには忙しすぎたような気もするが、これも原作同様にして完全版とか出ないすかね3時間ぐらいの。出ないよな。まぁしょうがない。
ちなみに少しだけ不満だったのは担任教師はもうちょっと主人公の逞しさを見倣って頑張れよっていう…いや何を頑張って欲しかったっていうとあれなんですけど…。

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本当にこれ嫌いなんですけど一つこの映画を想起させる、せざるを得ないような場面が『ミスミソウ』にあったので。

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