ロシアン子ども哀歌『ラブレス』のラブレス感想

《推定睡眠時間:15分》

今度は父も母も子も誰も帰らない『父、帰る』の監督の新しいやつだそうで『父、帰る』といえば公開時に井筒監督がボロクソに貶していた。中身なにもねぇじゃねぇか雰囲気だけじゃねぇかみたいな感じで。
いやまぁ確かにでもそういうとこありますよねヴェネチアで金獅子賞とか取ってるくせにと何のためかわからない一応の同調を示しておくがでもでも雰囲気だけでヴェネチアかっ攫うってすごいじゃないですか…と俺は密かに思っているのだが密かにすることも別にないのだが。
ともかく、『父、帰る』はシナリオ的な部分はまったく感心しないが尋常ならざるミステリアスな雰囲気にはたいへん感銘を受けたのだった。ほぼほぼ雰囲気だけで名だたる審査員・評論家を騙くらかしたという点も含め。

で『ラブレス』ですが雰囲気だよやっぱり雰囲気だよ、完璧なまでの雰囲気映画。もうストーリー禁止。そんなもの有って無いが如し。この店ストーリーやってません。帰ってくださいストーリー欲しい人は!
伝統だな。ちょうど今ロシア雰囲気派(睡眠派)の最高峰アレクサンドル・ソクーロフの特集上映なんぞやっているが、やはりねソ連からロシアに変わろうが冷戦が終わろうが(また緊張が漂ってきてはいるが)西側諸国とは映画の作りが違うんですよ映画の作りがこの国は! とくにシナリオが!
合理主義的・実証主義的な厳密さよりもイメージの連鎖とメタファー、ポエム&情念! でもいいんです! それで映画シナリオなんて成り立つんです案外! ロシアンスーパーヒーロー『ガーディアンズ』を見ればわかるだろ! 見ればわか…わかんなくてもいいんだよ西とは違うんだよ西とは!

でもそれ加味した上でいくらなんでもそれはねぇだろって思いましたけどね『ラブレス』の場合は。井筒監督の自腹批評コーナーがまだ続いてたらこれ配給と戦争になってたよ。あぶねぇ。
いやもう、不条理劇とも言えないし。プロット的なものはあるんですけどそれだけありゃいいやみたいな。ストーリーの枠組みだけ作っといて、あとは絵になる風景を散りばめるだけでドラマとかは基本的に語る気がない(としか思えない)し、それはまぁそれで、そういう作劇を好む人はいっぱいいるんですけど…つらいのはそのプロットの陳腐であって、そのくせ薄っぺらい現代批判の衣を纏う凡庸であって。

えー、なんというかですよ、どうせ枠組みだけでいいんならせめてもっと趣向を凝らした枠組みを…額縁を…それだけでもだいぶ映画立派に見えるから…と思うのだがこれ本当素人みたいな…いいんだけどさぁ雰囲気素晴らしいからぁ!
でもこんなのに賞やるなよ馬鹿とはおもう、2017年カンヌ映画祭審査員賞受賞作です。

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なにが薄っぺらいってこれは崩壊家族のお話なんですけど、その崩壊描写ですよ。子どもの前だろうが夫の前だろうがずっとスマホいじってる妻を画面に出して「はい家庭崩壊でござい!」みたいな。絵本か。
この妻の人は超ロシア的美人なんですど貧乏家庭に育ったから素行と趣味が悪すぎた。教養とかなにもないからエステしてインスタ(的なやつ)見て美容院行って不倫しての毎日なんであるが、なんていうんすかねそれを精神の荒廃のイメージとしてしか描けない硬直した時代錯誤なインテリ性とか俺かなり洞察力ねぇなこの監督って思うんすよね…。

洞察力っていうかだからそのへん崩壊家族の枠組みだけあればよくて、人物を追求する気とかは基本的になかったと思うんですよ。
マイルドヤンキー気質の妻に対して夫はオタク気質という甲斐性がないタイプ(この人はこの人で不倫している)。なんでそんな二人が結婚したかというと、夫の勤務する大安定企業は代表が熱心なクリスチャンだから家族持ちでないと入社させなかったりクビを切ったりする。
そしたらほら、気になるでしょうそれどんな会社なんだとか、こんな契約結婚みたいのがどうやって成立したかとか、それでも幸せな時期もあったのかとか、どういう心の動きがあったんだとかそういうのが…でもやらないんだ殆ど…。

だからそういう設定だけあって、元々ラブレスな関係だから子どもも出来ちゃったけどやがて結婚生活破綻しちゃって、離婚しようとした矢先に両親の不仲を察知した子どもが姿を消して…っていう話なんですけどそれはちょっと人間の見方が直線的で単純すぎるよねぇ。
その単純を社会批評として描き出そうとするもんだからこんなのもう、真面目に考えてもしょうがねぇなっていう感じで。金目的とか社会的地位の獲得とか孤独の埋め合わせとしての自分本位でラブレスな男女関係の不毛を今更見せられてもなぁ。もう手垢で真っ赤でしょその枠組み。

あとテレビニュースでクリミア騒乱をこれ見よがしに流す演出とかですね、なんか現代人の無関心がどうこうとか言いたいんでしょうけどそんなものは言われないでも分かってるんだよって話で…それは芸術の人なんだからもう三工夫ぐらいしたらいいじゃないって思ったよ…。

ダメな妻はダメでダメな夫はダメでダメな妻とダメな夫の板挟みになって可哀想な子どもは可哀想っていう、キャタクターの最初の印象が最後まで見てもマジで全然変わんないっていうのは西側のキャラクター描写とかストーリーテリングに慣れきった目には新鮮に映るが、だからといって面白い新鮮という気はまったくしない。

子どもが失踪する前の不倫場面がやたらやたら長いが、こういう具合だから面白くもなんともなく、俺も心情的にはあの子どもと同化してしまったな…こんな親のとこにいても何にもならねぇやみたいな(つまり、寝た)。

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でも映像は荘重そのものでまったく素晴らしいのだから困る。どこまでも雰囲気映画だとおもうがその雰囲気が素晴らしいから絶対に悪く言えないという映画で…まぁ既に散々悪く言ってはいるがいやでも本当に映像は良いんですよ映像は。

オープニングのあれね。なんか、冠雪した無人の森(失踪した少年が遊び場にしていた森だ)を風景画的なアングルで切り取って何枚も並べていくんですけど、曲がりくねった川の曲線配置とか面白くて…静止画かっていうぐらい静かで動くものが何もない風景の中で唯一カルガモだかアヒルだかがスーっと川を横切っていったりして…結構もうこれだけで脳、痺れてます。

ロケーションがとにかく見事で、廃墟。森の先にはホテルと思しき巨大な廃墟があるんですけどこの廃墟出てきた時には興奮したなぁ。ソ連時代の遺物は強いよ、画力が。
冒頭の森と同じようにこれも1フロアずつ律儀に見せていくから廃墟マニア垂涎。うつくしいが、見ていると画面のどこかに失踪した子どもの死体でも転がってるんじゃないかと胸がざわついてくるからおそろしい場面。

コナプト的集合住宅の不思議な建物照明も印象的だったところ。個々の部屋の照明が蛍光色だったりするのはまぁ別に分からなくもないんですけど、廊下が青い照明になっていて。
その集合住宅を捜索隊が手当たり次第に見て回る場面をカメラは建物の外から俯瞰的に捉えていて、そうすると真っ暗な闇の中に点線上になった廊下の青照明とそれを取り巻くようにして各戸の蛍光照明が浮かび上がるから、これが宇宙船みたいに見えてくる。綺麗な風景でしたねこれは。

木々の間から顔を覗かせる巨大パラボラアンテナ、雪中行軍する兵隊みたいに等間隔に並んで森に入っていく捜索隊というのもまた見事な…だからつまり画と雰囲気は超いいんですよ超超いいんですけど!
でももう少し…もう少しだけで良かったからその映像センスにシナリオが伴っていたらなぁと…思いつつも、人によっては確実に金返せレベルのラストシーンが帯びる冷たい詩情には、失踪した子どものただひたすらに哀れを誘う屈折の表情と相まって、やはり胸を打たれてしまうのだけれど。

【ママー!これ買ってー!】


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ソ連映画とかロシア映画で子どもが幸せそうにしてるの見たことないんですけどなんであんなに子どもに厳しいの。

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