家庭崩壊映画二本立て感想『クローブヒッチ・キラー』『インヘリタンス』

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , ,

同じ映画館で同日封切りの『クローブヒッチ・キラー』と『インヘリタンス』をハシゴ鑑賞したら観てびっくりなんか共通点ありまくり、一言で言えばどちらも家族は犯罪の温床という映画なので元から頭の片隅にあった家族解体すべしの思いが確固たるものになってしまった。たかだか映画を観たぐらいで固まるなんて安い信念っすねw とか思われるかもしれませんがいやこの後に更にハシゴした『ブラックバード 家族が家族であるうちに』も『Mr.ノーバディ』も家族が殺人などの重大犯罪を隠蔽する話だったからね。脳内家庭崩壊デーでしたよこの日は。

というわけで二本続けて観たら随所でもやもやと繋がって面白かったクローブヒッチ・キラー』と『インヘリタンス』の二本立て感想文。単品でも面白いがどうせ観るなら二本立て推奨です。観ればきっとあなたも家族が嫌になる! その惹句で映画観たくなる人とかおらんだろ。

『クローブヒッチ・キラー』

ジャック・ケッチャム原作の『隣の家の少女』は怖そうな映画だな~と思って観ていないのだがこういうものは短いあらすじだけ読んで頭で内容を想像している時が一番怖くて実物を見ると案外そうでもなかったりする。『クローブヒッチ・キラー』もそのパターンでどんなエグい映画なんやと思ってドキドキしながら観に行くとまぁエグいはエグいかもしれないがこんなものかという程度のエグさで、それは直接的な残酷描写や恐怖描写のエグさレベルの話だけではなくストーリー的にもそうなのだった。

しかし見るべきところはそこではない。いや別にそこも見所ですけどそれ以上に衝撃的だったのはほとんどデヴィッド・フィンチャーの未完結Netflixドラマ『マインドハンター』の非公式な外伝的完結編のような映画だったことで…『マインドハンター』はBTK(Bind、Torture​、Killの略)を自称したシリアルキラー、デニス・レイダーを主要登場人物とする犯罪捜査ドラマですけど、2019年のシーズン2でシーズン継続が白紙にされちゃったんでデニス・レイダー絡みのエピソードが宙づりになったまま今日に至っていて、それで『クローブヒッチ・キラー』も監督本人は特定の殺人鬼をモデルにしたわけじゃないとか言ってるんですけど出てくる殺人鬼っぽい人はどう見ても(少なくともキャラ造形の骨格は)デニス・レイダーだろっていう感じの人。

そこだけ被るのならよく知られたシリアルキラーらしいからまぁわかる、演出のトーンもよく似ているような気がするが偶然かもしれない、しかし『マインドハンター』のシーズン1にはデニス・レイダーが家でテレビかなんか見ながら空想に耽って手で紐を結んだり解いたりしているという印象的な場面があり、一方『クローブヒッチ・キラー』では父親をシリアルキラーではと疑う主人公の少年がそのことを考えながらベッドの上で紐を結んだり解いたりという場面があり…『マインドハンター』のシーズン1は配信開始が2017年で『クローブヒッチ・キラー』は2018年の映画ですからこれ絶対観てると思うんだよな、この監督は『マインドハンター』を。それで超おもしれー! って思ったんじゃないですかね、自分で非公式完結編撮りたくなっちゃうぐらいに。

それは邪推だとしても、結果的にそのようにめちゃくちゃ見える映画になっているのは事実なので、いつになるかわからん『マインドハンター』のシーズン3観たい欲が潜伏期間中のシリアルキラーの殺人妄想みたいにグツグツ煮立ってきている人は観るとスッキリするかどうかは知らんが一区切り感は得られるんじゃないでしょーか。これ単体で観るとなんか、アメリカ的な家族神話の崩壊が怖いっていう映画なんでしょうけど、暗黒ジュブナイル・ミステリーとしてはちょっと掘り下げが浅くて物足らない(あの少年は魔女扱いされている少女と瀆神的な緊縛プレイでもすべきなのである)

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『インヘリタンス』

『クローブヒッチ・キラー』もある意味では父からの負の遺産の継承を描いた物語であったが『インヘリタンス』はある意味と言葉を濁すことなく直球の負の遺産でどのぐらい負の遺産かというと突然死した父親の秘密のビデオメッセージを聞いた主人公の有能女性地方検事がウサギに導かれるように森の中へと入っていくとそこにはシェルターだか倉庫だかを改造したものと思しき謎監獄があって中にはレクター博士みたいな謎の男が監禁されていたのでした。これが私からお前への遺産…っていやそんなの殺してから死ねよ! 残すなよ後に! 遺産相続って大変なんですね(違う)

突然の展開に動揺した主人公はさっさと警察に通報すればいいものの自分のキャリアもあり選挙が近い代議士候補の弟のことなどもありというわけで富豪一家である身内の都合ばかり考えて通報を見送ってしまう。臭い物には蓋をしないでさっさと通報してればこんなことには…的な泥沼展開を見せるのは『クローブヒッチ・キラー』と同じといえば同じである。家庭という聖域を守るために都合の悪いことにはガンガン目をつぶってきた結果、目をつぶりきれなるほど都合の悪いことが肥大してしまって聖域はその重みで潰れてしまうのであった。

隠し事がまた別の隠し事を生み些細な罪は積み重なって重罪になる終わりのない悪循環はブラックユーモア的でもありテンポの良さもあってそれなりに面白いが、なんか思ったより終盤が跳ねない。そりゃ言いたいことはわかりますけれども(罪の継承的な)展開もキャラクターも理知的に過ぎるんじゃないですかね。色々めんどうくさくなった主人公が親父の部屋から狩り用のライフルとか持ってきて臭い物は消毒だ~! とばかりに嘘で汚れた一族郎党皆殺しにしてしまえば面白いしなんとなくイイ話っぽくなったのに。それ多治見要蔵! 『八つ墓村』の多治見要蔵だねそれは! そんな風には突き抜けきれないのが欧米映画の弱点かもしれないし、家族を壊すことができないその弱さが主題の映画ではあったのだが。

サイモン・ペッグのレクター博士(風)芝居はミスキャスティングに思えて案外ハマっておりこの人の芸域の広さが窺える。ところでレクター博士風なのはサイモン・ペッグのキャラだけではなく、激しいカットバックがカッコいいオープニング・シークエンスで主人公リリー・コリンズがランニングをしている、というのもたぶん『羊たちの沈黙』のオープニングのオマージュである。『羊たちの沈黙』といえば少なくとも一作目はシリアルキラーの映画であったわけだから『インヘリタンス』と『クローブヒッチ・キラー』、そんなところでも繋がるのだ。

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家族のしがらみが人を犯罪行為に向かわせる映画として『万引き家族』と『全員死刑』は二本立てで観たいところです。

4 Comments
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booby
2021年6月22日 11:30 PM

「インヘリタンス」の方しか見てないんですが…割と杜撰なサスペンスでしたね。途中で「何も今すぐこの人どうこうしなくても、弟の選挙が終わるまでほっといてもいいんじゃないか?」って気付いてからはちょっと覚めてしまいました。ラストのどんでん返しを入れたせいで問題がすり替わってしまって、家族テーマが台無しになった感があります。と言ってあのままサイモン・ペッグが立ち去ったままと言うのもなァ…と思っていたのですが、娘逆上展開は面白そうですね。

さるこ
2021年7月22日 7:48 PM

こんにちは。
「クローブヒッチ・キラー」の方だけを見た者です(^_^;)
 こういう、アメリカのフツーの人たち(たぶん一番多い層)の間で起こる猟奇的事件はいつも怖い…
 〝ヒモ〟が怖かった映画あったよな…と記憶をヒモ解いてみましたら、『デビルズ・ノット』!
http://devilsknot.jp/info/?page_id=12

オススメ、とは言い難いですが…
コリン・ファース、好きでしたので見てました。