笑うに笑えない『アメリカン・アニマルズ』感想文

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《推定睡眠時間:10分》

大学図書館に雑警備で展示されている超高額稀覯本を奪っちゃおうぜする浅薄学生たちのお話なわけですがその超高額稀覯本というのがオーデュボンの画集『アメリカの鳥類』で、鳥、そして珍し本の強奪、加えて教壇に立った講師が講義スタイルで狂言回しを演じる斜め上の演出、からアルトマンの怪作ニュ~シネマ『バード★シット』を連想。『バード★シット』にもそういうシーンがあった。ただし鳥糞の主人公バッド・コートが盗むのはオーデュボンではなくダ・ヴィンチの羽ばたき飛行機械の素描であった。

翼の折れた堕天使の助けを得てヒューストンのアストロドーム地下を不法占拠した童貞少年バッド・コートは堕天使の導きのままに羽ばたき飛行機械の制作に打ち込んでいた。いつかはそれで空も飛べるはず。邪魔するやつは鳥能力で皆殺しだ。 堕天使の加護を受けた童貞に敵はない! なんのことやらわからないが実際そういう映画なんだから仕方がない。

まともかく鳥糞は平凡な童貞少年が人力飛行を目論む奇妙奇天烈な謎コメディで、そこには四方八方に禁止禁止禁止の立て札の置かれた監獄みたいな現実を超える自由の物語を希求する70年代アメリカンの精神があった。

ニューシネマの例に漏れず(『バード★シット』をニューシネマと呼ぶかどうかは議論の余地があるがアルトマンはニューシネマの監督なのでということで…)その夢はもろくも崩れるが、なんのせいで崩れるかというと体制とか国家権力とかそういうビッグなもんではなく主人公が童貞を捨てたせいだった。童貞を捨てた主人公は気付くのだ、自分がめっちゃ普通の人であることに。かくして堕天使は去って鳥能力は消えて、翼は永遠に失われたのだった。

『アメリカン・アニマルズ』もその点では同じようなものだったが順序は逆になる。画家志望の美大生バリー・コーガンは入試面接で自分という人間を説明するよう問われてはたと気付いてしまう。俺を説明する物語が俺にはない。絵を描くのは趣味だがなんのために描いているのかはわからない。物語が必要だ。画家としての物語が。

『バード★シット』の主人公は世間との繋がりを絶ってアストロドームの中で一心不乱に飛行機械を作り続ける。自由の希求が逆に自由を奪ってしまう皮肉は、その後アルトマンの代表作『ナッシュビル』でアメリカ的な物語を演じるうちに疲弊してぶっ壊れてしまう人々の崩壊群像に発展することになる。

誰にでも特別な物語があって誰もが特別な誰かで「あらねばならない」。数々の有名映画を真似て杜撰な強盗計画を実行する『アメリカン・アニマルズ』の学生たちが映し出すのはこいつらのバカさではなくアメリカという国の抱える強迫観念だ。で、『バード★シット』もアメリカ映画のパロディが随所に仕込まれたアメリカの幻想についてのアメリカ映画だったんである。

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『バード★シット』は童貞飛行の顛末をおおむねコミカルに描いていくが『アメリカン・アニマルズ』はどこまでもドクソ真面目でびっくりする。だってアメリカ映画こういうのいつも笑い話にしちゃうじゃないですか、間抜けだね~って感じで。

端から見ればこの強盗団もズッコケ必至の間抜けっぷりなのでアハハで済ましたくなるが(エレベーターのところ爆笑)、実際の犯人たちや家族の沈痛なインタビュー映像を織り交ぜ、その証言の食い違いを同じ出来事を描いた別の物語としてメタフィクショナルに並置する『羅生門』的な仕掛けまで出されると全然笑える感じではなくなる。数々のズッコケシーンにも場内は水を打ったように静まりかえりお通夜ムードであった。

まあ実際に何年も臭い飯食ってるわけですからねあの強盗団。そりゃ本人たちにしたら笑える話じゃないよな、と思いつつそれも結局は各々の物語のための自己演出なんじゃないのとも思えてくるあたり懐が深いというか、尻尾を掴ませないというか。なんだかとても不可解な後味を残す。

ズッコケ強盗譚を物語にしないようにってことなんだろうか。ネタ消費される物語の向こうには記号ではないリアルな人間がいるんだから的な。あるいは物語に惑わされるなみたいな。映画みたいな物語を持たない平凡な自分を肯定しろ的な。終わりなき日常を生きよ。

なんだか説教くさいがでもまぁ面白いから良し。強盗団各人の主観に乗っかって眺めるそれぞれの物語はバカっぽいが切なさを帯びて迫ってくる。ものすごいどうでもいい理由でなんとなく強盗計画が出来上がってっていつの間にか誰も引き返せなくなってる感じ、すごく青春。この痛くて情けない青春はちょっと沁みてしまう。バリー・コーガンのつまらないそこらへんの学生感もたいへんよい。

伊集院光のラジオの長寿コーナー「いつまでも絶えることなく友達でいよう」の好きなネタに、二人の仲良し童貞高校生が風俗に行こうとしてその途中でカツアゲに遭遇した後の台詞というのがあって、うろ覚えですが「本当言うと、行けなくなって今は少しホッとしている」。
風俗と強盗じゃあだいぶ開きがありますが『アメリカン・アニマルズ』、この感じだったなぁ。

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これで映画デビューのシェリー・デュバルが鬼のように初々しい。

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