XVIDEOS怪談映画『VIDEOPHOBIA』感想文

《推定睡眠時間:0分》

XVIDEOS怖い話であるが個人的なXVIDEOS怖体験といえば10年ぐらい前のことではないかと思うが何気なくクリックした動画が拷問ポルノだったことがあった。拷問ポルノと書けば女の人を拘束してあんなところにこんなものを浴びせ続けたりあんなところにそんなものを無理矢理突っ込んだりとかなんかそういうイメージが湧くかもしれませんがさにあらずで、両手を鎖で繋がれた女の人がプールの中でもがく…というか、この文脈でこのたとえが適切かどうかはわからないが、電撃ネットワークのダンスを腕を下方向に向けて水中でずっとやってる感じである。

酸素ボンベなどは見当たらないが見たところカメラはワンカットでその様子を撮り続けているようであるから10分ぐらいはあろうかという動画で鎖の女の息がもつはずもない、しばらく見ていると鎖の女は水面に顔を出す。するとそこには黒ゴーグルを着けて表情がよく分らない男と女が待ち構えていて、息継ぎしようとする鎖の女を強引に水中に沈める。鎖の女はまたダウナーな電撃ネットワークを始める。やがて、鎖の女は動きを止めてプールの底に倒れ、そこで動画は終わる。

今こうやって書きながらもちょっと変な汗が出てしまう。こんな変化が実際に起こるんだなぁと思ったものだが動画を見て数日間は感情鈍麻に陥ってしまったし何をしても楽しめなかった。あの動画が目に焼き付いて離れない。俺がおそろしかったのは、いくらXVIDEOSといえどそんなもんサイト側のチェックをパスできるわけないだろとは思いつつ、更に言えば鎖の女が水面に上がるタイミングでカメラも水面に上がって水しぶきなどで画面が一瞬乱れるので、そのタイミングでワンカットに見せつつカットを割っているんだろう、ぐらいは理性で分っていても、もしかしてスナッフビデオを見てしまったのだろうか…というのもあるが、もう少し抽象的なところだった。

この鎖の女は見た目がエロい人ではなかったし最後まで露出度低めの水着を着ていたからポルノの基本的なここ見てポイントは画面に一切出てこなかったのである。つまりオッパイとヴァッギーナ、それからオナニーや手コキ等々を含む広義の性行為ですね。そういうものは出てこない。それナシで興奮できるやつが広い世界にはいるからこういうマニアックなビデオも出来るのであろう。しかし、じゃあ拷問ビデオとして興奮できるかというと、俺は拷問で興奮する体質ではないのでなんとも言えないが、水上に上がる時以外は鎖の女が水中で例の電撃ネットワークを延々続けているだけである。苦しそうな表情すら浮かべない。これは実は俺が一番ゾッとしたところだが、この鎖の女の表情からは恐怖も苦痛もあるいは倒錯した快楽も、何ひとつ読み取ることができなかったのである。

そこにあるのは虚無だけで、果たしてこんなものをポルノとして求める人間がいるのだろうか? と思うと、それはちょっと俺には理解の及ばぬ世界で、好奇心は猫を殺すと言うが、何気ない好奇心からのワンクリックで、なんだか深淵に突き落とされたような気がその当時の俺にはしたのである。もしこれを求める人間がいるならそれはそれで怖いが、誰も求めていないのに、意味もなく作られたのだとしたらと考えるともっと怖い。そんなものはポルノでもなんでもないのである。じゃあ何かと言われても答えようがない。ま、実際はマニアックなポルノなのでありましょうが…。

その動画は数日後にはサイトから削除されてしまったはずである。削除されていなかったとしてもURLを覚えていないので再見することはほぼほぼ不可能だろう。タイトルもcained girlとか無味乾燥なもの。グーグルで検索するとボカロ動画が出てくる始末。俺の頭の中にしか存在の証拠がないので今となっては本当にそんなものを見たのかどうかもわからない。オチなどないが、これが俺のXVIDEOS怖い話で、ふと、『VIDEOPHOBIA』を観て思い出したのであった。

『VIDEOPHOBIA』の方はあえてジャンル分けをするならサイコサスペンスというかクローネンバーグ風の不条理ホラーというかではあるがそんな別に怖いものではなかった。どちらかと言えば楽しい映画である。なんか姉妹でわちゃわちゃしてるところとか。あと大阪の町並みがたくさん出てくる。遊園地に行ったりボートで川下って川沿いの工場とかカメラに収める。あっはっは、『劇パト2』じゃないんだから。なんか観光感があってよかったですね。大阪行ったことないのでこれが大阪かーって感じでした。

でも大阪を撮っているのに全然大阪だった気がしない。ひとつ混乱したシーンがあって、それは主人公の出戻り女が電車に乗って車窓から外の風景を眺めている場面なのだが、社内アナウンスで次は京橋~京橋~って言う。東京在住の俺にとって京橋といえば国立フィルムアーカイブのある(そして以前には映画美学校があった)あそこである。銀座の一個となり。あれ、大阪の話じゃなかったの…? でもたぶん大阪にも京橋というところがあるんだろう…しかし次のアナウンスは東西線にお乗り換えの方は~である。東西線…大阪の人ならすぐにJR東西線とわかるだろうが、大阪の土地勘のない俺にとって東西線とくれば東京メトロ東西線である。京橋に続いて東西線が来てしまったら東京か? ってなる。

その誤解はすぐにコリアンタウンとかが出てきて解けるわけだが、とはいえそんなことを言ったら東京の新大久保だってコリアンタウンである。大阪の街と東京の街に違いなんかあるのだろうか。少なくとも機能の面では大阪東京どころか都市なんてだいたいどこも同じような感じでしかなさそうである。大阪の街を撮るというがカメラが切り取るのは街そのものというより都市の機能が要請する街の構造という感じである。マンションとか、電車とか、工場とか、遊園地とか。

シムシティで人口を増やすための街作りをしていると最終的にはどんなシティも似通った形になってしまうのと同じで、こんなものはどこにでもあるし、神奈川に住んでいた主人公が姉妹から神奈川なんてほぼ東京やろ的なツッコミを食らう場面があるが、実際神奈川も東京もさしたる違いはないのである。いや、超違うのはわかって書いてますからね、一応…。

モノクロの映像が強調するのはそんなような都市の匿名性とか相同性というべきものだったように思うが、そこでは人もまた俺ジナルな存在ではいられないというわけで、この街に住む人々は誰もが誰でもないのであった。誰でもないから誰かを演じる。主人公は在日コリアンで韓国名と日本名を使い分けるというか、その場に応じて異なる名で呼ばれるが、その上にこの人は大阪の人からは東京の人と見られ、おそらく東京の人からは大阪の人と見られており、加えて女優志望であるから複数のペルソナを演じ分けることを余儀なくされているわけで、そんな状況で謎のハメ撮りビデオが再生数150回ぐらいでXVIDEOS(的な)に流出してしまうのでアイディンティティの分裂っぷりは比較的深刻である。

たぶん作った人はちゃんとした学校を出た頭のいい人なので(※貧しい表現)映画自体もカメラが切り取る大阪同様に高度に記号化・構造化されていて、記号と構造があればいいじゃんそれで意味わかるだろみたいな、わかんなかったら自分で考えりゃいいじゃんみたいな、要は、理詰めの映画なのでバカにでもわかる俗っぽい感情表現とか人間ドラマを撮らない。俺はシンプルな映画が好きなので主人公の心情はもっと丁寧に描いてほしかった。

展開が早く変な画を見せることを優先するのでネットに流出した自分のハメ撮りビデオ? に追い詰められる恐怖とかはぶっちゃけ全然感じられず、したがってその顛末も身が入らず、違うんですよこれは現代の寓話なんですよとかはぐらかされればあぁそうですかと言うほかないが、とはいえ(男が撮った)ビデオに追い詰められる女のノワールといえば大巨匠・石井隆が『天使のはらわた 赤い閃光』とか『フリーズ・ミー』とか、あとそうですね『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』とか、あぁ『人が人を愛することのどうしようもなさ』もそうか…でやっていたし、『赤い閃光』は習作的なところがあるのでちょっと怪しいが、どれも現役バリバリで通用する批評性と娯楽性を兼ね備えた映画であった。

別にそれに倣う必要はないにしても、石井隆はたいへん超頭脳明晰な知性派映画監督なのに決して頭の良さをひけらかすことはしないで俗っぽい見せ場をざくざく入れていたのだから(そのおかげで作品の含意をなかなか読み取ってもらえない不幸もあるけどさ)、謎ビデオに追い詰められる女っていう面白いストーリーはテツガク趣味に逃げないでちゃんと怖いサスペンスドラマとして観たかった、と思うのである。

これではなんだかシネフィル御用達映画のインデックスのようで…オマージュというか、あの映画が好きなんだろうなぁみたいな場面が山ほどあるので、まさしく引用の織物とでも言うべき、この映画自体が劇中のマンションのように作者の署名のない匿名の構築物のように見えてしまう。それさえ狙ってやっている疑惑もあるが、つまらない現代アートがキャプションの解説を読んだからと急に面白くなることがないのと同じで、狙ったからといって別にどうなるものでもない。

面白かったけれどもなんだか空虚な映画であったな。都市は空虚で人も空虚、映画だって空虚。安部公房の『他人の顔』は「顔」モチーフの映画であるから参照しているだろうが、安部公房で言うなら俺としては『燃えつきた地図』のエピグラフが頭に浮かんだ。このエピグラフがもう大好きで大好きで縁起でもないが座右の銘にしたいぐらいなので最後に引用しておこう。俺にはこのエピグラフが『VIDEOPHOBIA』とその作り手に対する回答のように思えるのだ。

都会——閉ざされた無限。けっして迷うことのない迷路。すべての区画に、そっくり同じ番地がふられた、君だけの地図。だから君は、道を見失っても、迷うことは出来ないのだ。

※あと一番おもしろかったところは演劇ワークショップで演技の出来ないやつが講師にブチ切れたところです。最悪な場の空気に笑いました。講師の含み笑いが『働くおっさん劇場』の松本人志みたいだったのも良し。

【ママー!これ買ってー!】


人が人を愛することのどうしようもなさ [DVD]

エロくて泣けてタイトルがかっこいい石井隆の『インランド・エンパイア』。

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