素直に面白いとは言えないが映画『カポネ』感想文

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , , , , ,

《推定睡眠時間:15分》

低予算POV版『童夢』+『AKIRA』こと『クロニクル』で一躍アメリカ・ジャンル映画界の寵児となり超速でリブート版『ファンタスティック・フォー』の監督に抜擢されるというシンデレラストーリーを歩みつつも『ファンタスティック・フォー』の興行的失敗と現場大混乱のスキャンダルで今度は一気に業界から干されてしまった悲運の俊英ジョシュ・トランクの復帰作は伝説的ギャング、アル・カポネの晩年を描いた意欲作!

と聞けばそれはね、まぁ期待しますけれどもすいません先に言っちゃいますけどぶっちゃけ微妙。わりとつまんない寄りでつまんなくはない映画ですけどグっと来る場面がないのが痛い。唯一これはと思えたのはラスト近くに置かれた老カポネご乱心の乱射シーンでさすが『クロニクル』のジョシュ・トランク、『ファンタスティック・フォー』もそうだったが追い込まれた人間が最期に見せる自暴自棄のエモーショナルなバイオレンスの描写が上手い。

『カポネ』の激情大噴出シーンは前二作に比べれば大人しいものではあるがギャング映画なのに銃撃戦や刃傷沙汰はおろか口論ひとつ起きないストーリーなのでラスト近くで老カポネがようやくトミーガンを手にした時にはついに来たか! と心の中でガタと音を立てて立ち上がってしまう。溜めて溜めて溜めての末に銃を手に敵陣に突っ込むというのはなにやら任侠映画的な美学を感じますね。トランクの映画の場合は討つべき明確な悪が存在しないのでその美学が結局は感情の暴発以外の意味を持たず味方のはずの人まで巻き込んでしまう、という美学の空回り感がまた虚無くてイイのです。

で、そこは良いんですけど…脚本がつまらない。なんかですね一応色んな思惑が交錯する感じではあるんですよ、梅毒由来の認知症で日に日にわけわからんくなっていく老カポネを中心に。カポネどうやら隠し財産があるらしい。隠し子もいるらしい。それでカポネ的にはどうも俺が死んだら隠し子に金やりてぇなとか思ってるっぽくはあるんですが、この隠し財産を家族は当然欲しいだろうし側近も欲しいだろうしあとかかりつけ医も欲しい。

っていうんでカポネ豪邸でのんびり老後を過ごしながらも疑心暗鬼。認知症の妄想とか幻覚も悪化してきて誰もが隠し財産を狙っているように思えてくるし現実と妄想の境もなくなっていくのでもう大変。ずっとFBIに盗聴されている気もするがそれは果たして本当だろうか? 妄想だろうか? どちらでも全然あり得るので老カポネは壊れていく…と書けば面白そうなのだが…!

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実際に見るとこれがこう非常になんというかケレン味に乏しく起伏に乏しくぼやぼやと焦点が定まらずかといって浮遊感とかトリップ感があるわけでもなくわりとかなり淡泊で薄っぺらい感じ。キャラの掘り下げがカポネも含めてみんな浅いんだよね。いや本当浅くてFBI捜査官とか何のために出てきたんだっていうぐらいで。この若い捜査官はカポネが隠し財産がバレないようにわざと認知症を演じてるんだと考えてもう誰も真面目に相手にしなくなったカポネに執着するんです。

そしたらさ、そこからいくらでも妄想が妄想を呼ぶ的なカポネと捜査官のドラマだって展開できますよね? でもそれをやらない。とりあえず入れましたみたいな感じで色んな人がカポネとカポネの隠し財産に翻弄されはするんですけど、キャラ設定としてそうなっているという感じで、それがドラマを生まないんですよね。そりゃ盛り上がらないでしょ。せっかくの殿ご乱心シーンだってそういうドラマをちゃんと布石として置いておかないとカタルシスないですよ。

ストーリーも薄いが画作りも薄い。これはジョシュ・トランクの特徴的なタッチではあるんですけどちょっとこの題材だと普通に合わなくない? って思ったのが、奥行きのないフラットな画作りをしているので画面に重みが足りない。なんかオモチャみたいなんです。1940年代が舞台のギャング映画でこれはないよねー。もちろんこれを好意的に取ることもできるわけで、現実と妄想の境を見失った(ゆえにフラットで超現実的)カポネの内面を表現したものと見ればそこそこ面白く見れる。カポネ邸の庭に置かれたまがい物のギリシア彫刻が印象的に使われていることを考慮すればおそらくそういう意図であえて薄っぺらく撮っている。

でも欲しいじゃない、重さ。ギャング映画だし。カポネだし。重さで言えば残念だったのはトム・ハーディの芝居も軽いんだよな。後半になるとなんかうがーうがー言ってるだけだしね。いやそれはそれですごいんですけど演じてますよー感が強くてちょっと白けるっつーか。そもそも俺この人の悪役芝居はそんなに良いと思ったことないんですよね。こちらでも実在のギャングを演じた『レジェンド』もギャングの怖さよりも演技過剰の白けがやっぱり強かった。まぁカポネと言いましたら過去には演技の鬼ロバート・デ・ニーロも演じてますし俺もデ・ニーロみたいになるぞ本人的には入魂の芝居ではあったんだろうとは想像しますが…そこはもうちょっと監督の権力で抑えた芝居にしてもよかったよなー。結局それも一因となってなんだか締まりのない映画になってしまった気がしますよ。

とはいえ。こんだけボロクソに言っておいてとはいえの余地あるのかよと思いますが…でも不思議と、面白いとは言わないけれどもつまらないわけでもなかったんだよね。なんか空気感がよかった。無常観とか。拍子抜けの幕引きも案外実際のカポネもこんなもんかもな感があったし。ずっとアンニュイな白昼夢を見てるような印象。そこをもっと前に出して幻想映画にしてしまっても良かったんじゃないかと思わなくもないが…夢か現かのギリギリのラインを探った結果がたぶんこれなんでしょう。夢か現か。敵か味方か。悲劇か喜劇か。とまぁそんなような映画。悪くはないと思うな俺は。

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っていうか俺は悪名高いこれも普通に面白かったからね。なんでここまで叩かれなきゃいけないの。いいじゃない青春映画っぽくて。最終決戦がショボすぎるのだけはどうにかせぇよと思うけれども。

2 Comments
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さるこ
2021年3月20日 9:16 AM

こんにちは。
トムハがすごいことになってました…
私は『カポネ』→『あの子は貴族』を連投したので、後者の劇中で麦ちゃんと高良くんの会話で出てきてた〝映画〟は『オズの魔法使い』だと思い込んでました。
来月は〝午前十時の映画祭〟の『アンタッチャブル』でアル・カポネを復讐、もとい、復習しようかなと思います。
あと、そうですね、デ・ニーロよりはゲイリー・オールドマンを想起しました(葉巻繋がりですね)。