極私的2019年映画ベスト10!

2019年も面白い映画ばかりだったので例年そうですが選考難儀、最終的にベストっていうかこれ面白かったけどあんま観られてないっぽいのでもっと観られてくれ的な政治的判断が働き流行語大賞のようになってしまっているが、お金がいっぱい動くアチラと違ってコチラは貧乏個人ブログなんだから別に構わないだろう。流行語大賞は反省しろ。

ベストならざるベストからあぶれたベスト映画には某クイーン映画とは対照的におそらくザ・スミスも含めて本人の楽曲は一曲も使われていなかった元ザ・スミスのモリッシーの静かな静かな伝記映画『イングランド・イズ・マイン』、びっくり二幕構成と16mm撮影のぬくもりとザラつきの同居する映像美が素晴らしい『幸福なラザロ』、スキャンダルの帝王にして元イタリア首相シルヴィオ・ベルルスコーニが下野してカムバックするまでの時期をそれっぽい虚構とフェリーニ風の寓意を織り交ぜて描いた『LORO 欲望のイタリア』、台湾と大陸の間で国家アイデンティティが揺らぎ続けた激動の台湾現代史を貧乏家庭出身の台湾女性の半生を通して描いた『幸福路のチー』、あと単純に大笑いできてそのSF映画愛に大泣きもできる『映画ひつじのショーン UFOフィーバー』、上映時間の7割ぐらい寝てしまったが起きていたシーンの絵作りが凄まじかった『ピータールー マンチェスターの悲劇』などがある。

以上みんな最高だったし全部ベスト10に入れても良かったので結局どれがベストとか選べませんね。じゃあなんでベスト10をわざわざ選ぶのでしょう。やはり、これもやる意味なんてないんじゃないかな、流行語大賞みたいに。
※タイトルのリンクは映画館で観た時の感想のやつです。

『迫り来る嵐』

ノワールベスト。会社から超表彰されたい真面目一徹工場警備員が連続猟奇殺人事件に挑む…という出だしが既に滑稽かつほのかな哀愁を帯びているが、事件の真相が明らかになる終盤ともなると滑稽と哀愁が爆発融合してノワールに潰れた末の純白世界が眼前に。これをどう受け止めたらよいのでしょう。筆舌に尽くしがたい光景だったなあれは。

画作り的にもシナリオ的にもキャラクター的にもポン・ジュノの『殺人の追憶』フォロワーであることは間違いないのだが、パンフレットの監督インタビューを読んでもヒッチコックに影響されたとかは言うものの『殺人の追憶』の名は出てこない。俺は当局の目を意識して反体制色の強い『殺人の追憶』とポン・ジュノにはあえて触れなかったんだと思っているが、そのへんもどう受け取るかはその人次第だろう。ノワールとはそういうもの。ポン・ジュノの新作『パラサイト 半地下の家族』とも共通するところがないとも言えないので、併せ鑑賞推奨。

『クロール ―凶暴領域―』

愚直ベスト。これも嵐が迫り来る映画なのだがいやはやスゴイですよこれは。なにせタイトルが『クロール』、そしてファーストシーンがクロールで泳ぐ競泳女子! 負けたと思ったね。俺そこでこの映画に負けました。そんなにストレートに顔面殴られたらダウンせざるを得ない。こっちもなまじ映画観てないですから知恵が付いてあっちから殴ってくるのかな、こっちから殴ってくるのかな、これはもしかしてフェイントかな? とか考えるじゃないですか。そういう小賢しい連中はみんなワニが食ってしまうんです。バカヤロウ映画なんてこんなもんじゃねぇか! ワニが出たら面白い! ハリケーンが出たら面白い! 主人公が水着着てたら面白いしワニと競泳したら超面白い! その正面突破力、強すぎた。アレクサンドル・アジャの新たな傑作。

『EXIT』

パニックベスト。こっちはハリケーンの代わりに毒ガスが襲ってくるパニック映画なのだが『クロール』とは反対に徹底して理詰め。まぁあよくここまで詰め込んだ、考えた。毒ガスから逃走せよのパニックシチュエーションの中にコリアン超格差社会の風刺あり、荒唐無稽に見えて北朝鮮との休戦状態を背景にしたリアリティあり、ゲーム的要素も名作パニック映画(『ダイ・ハード』含む)オマージュもあり。面白いのは確かな映像力や俳優の演技力に依るところも大きいのだが、それ以上に脚本の完成度に驚かされた一本だった。主人公が就職戦線を離脱した無職というのもナイス。

『ファイナル・スコア』

ちょうどいいB級ベスト。面白いが面白すぎないB級映画の存在がいかに重要か、やれユニバースだリブートだで大騒ぎのハリウッドがすっかり忘れてしまった中で、近年B級アクションの一大供給地と化しつつあるイギリスは『ファイナル・スコア』で世界に知らしめた。
『ファイナル・スコア』。すばらしいとしか言いようがないちょうどいい記憶に残らないタイトルである。ビデオ屋のアクション映画コーナーに並んでいたら絶対にスルーしてしまうに違いない。だがビデオ屋とは! そんな記憶に残らない無数のちょうどいい映画によって支えられているのだ。『スター・ウォーズ』とか『アナと雪の女王』みたいな超おもしろいやつしか並んでないビデオ屋なんて少しも面白くな…いやそれはそれで面白いかもしれないが、味気ないのは間違いない。はず。

内容は一言、『サドン・デス』の現代アップデート版。それ以上でも以下でもないが確実にちょうどよく面白いと保証するのでみんな観てください。

『トリプル・スレット』

肉弾ベスト。いや参ったなこれは。出演:トニー・ジャー、イコ・ウワイス、ジージャー・ヤーニン、マイケル・ビスピン、マイケル・ジェイ・ホワイト、ドミニク・ヴァンデンバーグそしてスコット・アドキンス。これもう『エクスペンダブルズ4』じゃん。ナンバリングタイトルは言い過ぎだとしても『エクスペンダブルズ外伝:トリプル・スレット』ぐらいは言ってもいいよね。もうね、すごいですよ。拳の競艶、技の共鳴、餓狼の矜持。説明なんかいらない。闘いあるのみ! 全国のシネコンの全スクリーンで1日10回ずつ上映すべきだと思う。

『風をつかまえた少年』

世界の名作ベスト。『それでは夜は明ける』などで知られるイギリスの名優キウェテル・イジョフォーが監督・脚本・出演の三役を務めた入魂の一作で、空前の飢饉にあえぐマラウイの貧村を知力と努力と科学力で救おうとした少年の実話モノ。やーこれは(も)素晴らしかったなぁ。堂々たる名作の風格。演技も美術も撮影も脚本もシンプルな中にたいへんな力強さを感じた。なんでも文科省選定映画だそうで、映画としてトータルでというより主題とか題材の部分での選定なのでしょうが、これを選定作品にするんなら文科省も捨てたもんじゃないなと去年はあいちトリエンナーレの件でだいぶ下がった文科省の株が多少は上がる。

『500年の航海』(監督パフォーマンス付き上映)

豊かさベスト。パフォーマンス込みでのベスト選定はずるいような気もしたが、かといって実際ベスト級に面白かったわけだから入れないわけにもいかない。ドキュメンタリー映画っていうかビデオアートですねこれは。35年前に撮影中断した映画の続きを現代で撮って、出演者のその後をモキュメンタリー的に追って、そこに35年の間の監督キドラット・タヒミックの軌跡を重ねたり、タヒミックが世界を旅しながらグローバル資本主義と帝国主義であるとか、民族やナショナリズムについてユーモアを織り交ぜながら考えてみたり…映画館に来てた(前の席で途中何度もスマホ落としながら観てた)タヒミック、着古した民族衣装に身を包んで仙人みたいな感じでしたけど、この人大学で経済学かなんか学んでUCLAかどっかで教鞭執ってたインテリなんですよね。だからヘッポコなようで結構狙った前衛で、ブリコラージュというものをたぶん実践している。タヒミックの世界に余すところは一つとしてない。使える素材はなんでも使う、素材がなかったら自分で作る、作る過程もカメラに撮って映画に組み込んでしまう。自由闊達、奇想天外。ひじょうに豊かな映画でしたね。

『虚空門 GATE』

びっくりしたベスト。これはとんでもないものを観てしまったという感じだ。内容については書けない。書いたらきっと黒い服の男たちが証拠隠滅のためにやって来るだろう。だが面白いのは間違いないから鑑賞チャンスがあったら逃す手はない。いやもうびっくりしたね。本当びっくりしましたよ。宇宙は不思議だし人間も不思議だ。びっくりしたし感動的だった。あと爆笑もした。

『都市投影劇画 ホライズンブルー』(カナザワ映画祭2019版)

魂こもってるベスト。『二度と目覚めぬ子守歌』とかアニメ映画版『少女椿』で知られるアングラアニメの巨匠・原田浩の最新作で、『500年の航海』は完成までに35年かかってるがこちら『ホライズンブルー』も制作開始が1995年ということで24年かかっており、これがアテレコとかを除いて自分できる作業はだいたい自分でやってしまう原田アニメの平常運転(現在制作中の『座敷牢』は2030年完成予定だそうです)らしいが、それにしても尋常ならざる気迫というか、なんとしてでも世に出したいという想いが強烈に伝わってくる。
観客としては色々つらいこともあっただろうけれどもそこまでして世に出してくれてありがとうと言うほかない。児童虐待とか機能不全家族が一応の題材ではあるが、もっと広く生きにくさについての物語と受け取ったので、こういう世の中ですし『この世界の片隅に』ばりに多くの人に観てもらいたいなぁ。呪詛と祈りとぬくもりとつめたさの渾然一体となった妙な色気の漂う絵もすばらしい。

『バースデー・ワンダーランド』

旅行行きたいベスト。『500年の航海』も『虚空門 GATE』も『都市投影劇画 ホライズンブルー』もわりと近くにあるけどよくは知らない世界を漂う映像体験というところがあるのだが、『バースデー・ワンダーランド』もやはりそういうところがあり、公開時とにかくけちょんけちょんに叩かれていたが俺に言わせればそれは映画の見方を間違っているとしか思えない。
アート映画の『500年の航海』に『パイレーツ・オブ・カリビアン』の大冒険を求めても得られるわけがないのだし、UFOジャンルだからとドキュメンタリーの『虚空門 GATE』に『メン・イン・ブラック』みたいなファンタジーを求めてもしょうがない。俺には『バースデー・ワンダーランド』は冒険映画でもファンタジー映画でもないように見えた。あえてジャンルを定めるとすれば紀行映画。自分を冒険者ではなく映画で旅する旅行者の立場に置いて、紀行映画として観たときにはじめて劇中のうつくしい風景やそこに生きる人々の生活、その匂いや息づかいが生き生きと立ち上ってくるのではないかと思うのだ。俺はその抑制と滋味にいたく感じ入ってしまったんである。

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詩情豊かな風景も生活疲れの刻印されたモブの表情もドラマがあって素晴らしい。イリヤ・クブシノブのキャラデザインも良い仕事。原恵一は押井守に匹敵する紀行映画作家なのにこの叩かれっぷりは絶対おかしいですよ。世間は押井守も紀行映画作家として見ていない可能性もあるが!

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