大韓混沌映画『悪の偶像』感想文(ネタバレ基本なし)

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , , , , ,

《推定睡眠時間:0分》

「私は息子の射精を手伝いました」とかいうオッサンの衝撃モノローグから始まる映画が面白くないわけはないのですがそのわけはなさが予想したそばから横滑りしていくので最終的には確かに面白いがなにが面白いのか全然わからないという謎の境地に辿り着く。先読みできない展開はコリアン・ノワールのお家芸とはいえ…この場合の「できない」は比喩とか修辞のたぐいではなくそのままの意味なので、ここまで来ると一昔前だったら映画秘宝の広告欄によく載ってた中野の中古DVD屋でプレミアが付くカルト映画である。

なにがなんだかわからんが面白い韓国映画といえば最近(4年前だが…)『哭声 コクソン』が話題になったがぶっちゃけ『哭声 コクソン』なんか敵ではない。『悪の偶像』を観ればいかにあの『哭声 コクソン』が一見謎映画のようでいてその実周到に計算された正統オカルト娯楽作だったかがわかる。すごいのは、『哭声 コクソン』はあらすじを読むと腑に落ちないことだらけで、一方『悪の偶像』はオカルト要素もなくあらすじに書かれたすべてが腑に落ちるのだが、その腑に落ちる要素をコリアン・エンタメ的サービス精神でもって全乗せのマシマシにした結果、次郎系ラーメンの如く元型の崩壊した理解不能な何かになってしまったところだろう…。

反原発運動の旗手にして人権派リベラルの次期知事選最有力候補ク・ミョンフェには権力の甘い汁を求める虫ケラ政治屋どもが来る日も来る日も寄ってくる。ミュンフェは高邁な理想を持つ高潔な政治家。虫ケラどもの甘言などには耳を貸さずにあくまで人々のためになる政治を為すべくいざ知事選へ…息子のヨハンが飲酒運転で轢いた男を轢き逃げならぬ自宅に持ち逃げしてきたのはその矢先であった。

ヨハンが轢いたのはそのいい歳して髪を金髪に染め上げた(韓国映画の金髪オッサンには信頼できるダメ人間しかいない)前科持ちの親父(韓国映画の主人公格の前科持ち率は高すぎる)ユ・ジュンシクが語るところでは4歳で知能の成長が止まってしまった系の人。事故は彼の新婚旅行中に起こったということでなんともやりきれ…新婚旅行? ありえないことだと思うが事故判明後しばらくしてからそのことを知ったミョンフェは劇的に焦る。じゃあ妻の方はどこいった?

その頃、ジュンシクもまた姿を消したヨハンの妻・リョナを捜し求めていた。オナニー介助までしていた最愛の息子を失ったジュンシクにとって今やリョナは息子の記憶を現世に留めてくれる唯一の存在。しかも妊娠していたらしいとあってはなんとしてでも彼女を保護するのが義父の責任。
かくして一件の轢き逃げ事件をきっかけにその被害者・加害者の父親二人は競うように謎の女リョナの追跡を開始するが、その先に待ち受けていたのはただただ混沌であった…。

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公式あらすじから出ない範囲で書けるのはせいぜいこのぐらいだが144分と長い上にオモシロ要素をマシにマシた映画なのでストーリー的にはこれで1/10も説明していない。したがってネタバレをしないと感想を書くことがきわめて難しいのだが、映画史上屈指の(そもそも類例が少なすぎるが)蛸姦映画として名高いズラウスキーの崩壊作『ポゼッション』をネタバレしながらここがこう面白かったと言っても映画の面白エッセンスが伝わる気は少しもしないので…とその記述から映画好きならどれだけ『悪の偶像』がどうかしているか察すると思うが、そういう映画でした。

ジャンル、混ぜすぎ。社会問題、ぶち込みすぎ。闇鍋。パク・チャヌク的なコリアン・リベンジ&異形のファム・ファタールを下地にノワールとコメディとポリティカル・サスペンスとホラーを乗せただけなら独特の味わいの映画ですねで済むが障害者の性に性産業の闇に移民の現実に経済格差に政治腐敗に女性差別に風味付け程度とはいえ原発被害に原発利権に…ともう盛る盛る。これでもネタバレにならないよう制限して書いているので実際はもっと多い。

物語の大枠になっているのは大きな理想のために足元の小さな現実を犠牲にしていいのだろうかという古典的な問いかけなのだが、コリアン現代社会の諸相を盛れるだけ盛るので事故によって自己を見失っていくドリーム政治家ミョンフェ同様に観ているこっちまで大きな理想とはなんなのか途中からわからなくなるというのは狙ったのなら相当な大仕掛け、企まぬ結果なら交通事故どころではない。

その常に予想の斜め上を行き続けて最終的に元の角度に戻ってしまう荒唐無稽かつ支離滅裂で超強引な展開には唖然とさせられるばかりだが…でも「私は息子の射精を手伝いました」から始まる映画がそんな素直に展開してくれるはずもない。とにかく観客にショックや謎を与えて一秒たりとも飽きさせないこと。その至上命令に従って映画のすべては組織されているので登場人物や状況の説明に必要な繋ぎのシーンを省略することに躊躇いなんぞない。結果、いつのまにか画面に死体が積み上がり魑魅魍魎が跋扈していた。

混沌の間隙を縫って放たれる真顔の人でなしジョークに脱力ジョーク。謎に多いハゲ頭とその存在感。民間人ごときに捜査を教わるハイパー無能警察と無駄にやる気を出してしまって事件解決のためリビアに飛ぶ熱血空転探偵。そんな伏線があっていいのかというかそれは伏線として機能しているのかと思わずにはいられない奇怪な伏線。もはや理性などなく意味も目的も失って暴走する崩壊人間模様。ザンバラ髪に眉剃りとかいう最強ヤンキースタイルで乱入のビースト系女子には頭で困惑しつつもM股間はギン勃ちである。

そして偶然にも2020年7月1日現在の現実とシンクロしてしまった銅像破壊…ハングルは知らないが英語題は『IDOL』だから「偶像」だが、理想的な政治家が堕ちていくストーリーを持つ「偶像」というタイトルの映画で銅像破壊シーンがクライマックス的な感じで出てくるのだからバカなのか素直なのかわからないが、すごいとしか言いようがない。

なんだったんだ。これはいったいなんだったのだ…わからないが、リョナ役のチョン・ウヒは最高だったので結婚してください。

【ママー!これ買ってー!】


ポゼッション デジタルニューマスター版

サム・ニール、『ジュラシック・パーク』があるからハリウッド的良識人の役のイメージがありますが、こういう狂った映画にもわりと出てるんすよね。

2 Comments
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booby
2020年7月7日 3:57 午後

こんにちは。こちらの文章読んで、「今、そういうの見たい気分!」とその気になってみてきました。見れて良かったです。最後に泣き崩れるおっさんにそりゃあもう泣くしかないよなぁ、と妙な感慨に浸りましたが、それで終わらせてくれない(むしろそこから再び始まる)しつこさにマジか?となりつつ最後まで振り切ってて良かったなァ。紹介ありがとうございました。