未体験映画2022感想文『プラネット・オブ・ピッグ/豚の惑星』ほか一本

楽しかったかもしれないし時には苦しかったかもしれない未体験ゾーン2022もこれにて閉幕。正月明けからやってた未体験ゾーンが終わっていよいよ長すぎたおとそ気分もおしまいです。いやぁそれにしても今年の未体験作品は全体的にレベルが高かった! …かどうかは毎年通ってるわけではないので全然わかりませんが観てつまんなかったなぁという作品はなかったし、満席回を叩き出した『スターフィッシュ』はミニシアターとはいえ一般公開も決まったので、きっと粒ぞろいだったに違いありません。というわけでその粒ぞろいのトリを飾る二本の感想をどーぞ。

『クリフハンガー/フォールアウト』

《推定睡眠時間:0分》

クライミング目的で山中のロッジにやってきたヤングウーマン二人組。その一人は恋人を亡くして結構長いあいだ落ち込み中ってわけでもう一人の方は彼女を励ますためにここへと連れてきたのであった。とそこへ見た目まあまあオッサンだが年齢に見合わないイエーイ的なノリを放つ軽薄男四人組登場。こんな奴ら相手にしなけりゃ良かったが親友を励ましたいウーマンは多少無理して山中合コンを開催してしまい、穏やかならざる事態へ発展。一人残された傷心ウーマンの方は男どもの魔手から逃れるべくフリーソロ(道具なしの単独登攀)での岸壁登攀を決意するのであった。

強姦未遂から殺人→死体遺棄&その現場を目撃した主人公の逃走劇までトントン拍子で進んでいく導入部は快作の証。以降は舞台を岸壁の岩棚の上と下に限定した一種の密室劇となるわけだが、主人公たった一人VS男四人の心理戦をメインにその特異な環境を活かした小規模アクションも適宜配してダレ場というものを作らない。フリーソロで逃げるのかよ上に! のツッコミを少なくとも観ている間は許さない密度と強度があったよね(下山を目指せば車持ってる男連中にすぐ追いつかれてしまうのであり得ない判断ではないですが)

面白いのは男四人組が主人公にやられるというよりは自滅していくところで、マウンテンだけにボス猿男は仲間に対するマウンティングに余念が無く、そんなボス猿の横暴に耐えかねて仲間たちも次第に主人公に対してよりもボス猿への敵意を募らせ、犯罪とはいえ一致団結すべきなのにできない。一人では何をする力も持たないからむやみやたらに権力を振りかざすボス猿男とフリーソロで男たちが登って来れない岸壁をよじ登り岩棚の下で過酷環境に一人耐える主人公の対比は鮮やか。本当の強さとは何かと問いかける…というほどカタい映画ではないが、そういうメッセージ性を前面には出さないで表面的にはタイトにまとまった面白いB級アクション&サスペンス、でも主人公とボス猿ズの対決を観ていれば自然とそれが伝わってくるという誠によくできた映画なのだ。

※説明不要でしょうがスタローンの『クリフハンガー』とは関係ないです。

『プラネット・オブ・ピッグ/豚の惑星』

《推定睡眠時間:0分》

所構わずクソを垂れ流す頭が豚で身体と知能が人間の豚人間を豚人間ハンターのやたらめったら女にモテまくるがどう見てもモテる風貌とか性格ではないし伝説の最強ハンターということになっているがそんなに強い感じもない主人公が破壊と荒廃により終末都市と化したどこかの街で撃ち殺したところジェットパックを背負った豚人間兵が比較的雑な合成で空から強襲、前ではガトリングガンを撃ちまくり後ろではジェットパックに格納された爆弾投げマンが爆弾を投げまくる!

冒頭から既にかなり面白いやつなのであったがその面白いの方向が開始10分もおそらくは経たないうちに急旋回、地上を豚人間が支配するようになったために地下に潜った人類のレジスタンス基地(入り口は戦車で偽装されていてメンバーが近づく変形ロボみたいにウィンウィンガシャガシャと戦車が動いて扉が出現する仕組みだが戦車の周りは塀で囲まれていて人類基地みたいな表札が出ているので凝った偽装の意味がまったくない)において新たなる作戦に必要な豚人間情報屋の名前を聞いた主人公が繰り返す。「ベネディクト・アスホール!?」。繰り返すというのは文字通りの意味で同じ「ベネディクト・アスホール!?」の台詞を言う場面がコピーアンドペーストで繰り返されるのである。しかもその後「ベネディクト・アスホール」の名前が出てくるたびに。

たいへんなことになってきた。重要品と思われるビニール包みを主人公たちが開けようとするものの重要品なので結びが固すぎて全然ほどけない、生き残った人類が豚人間兵に追い詰められもはやこれまでと思った瞬間近くの壁の中に人体の右半身だけ人間の仲間が現れ加勢してくれると同時にこれを使えと自動小銃のマガジンを投げ渡すがなぜか追い詰められた人類は装填ではなくスローモーションでマガジンを蹴って豚人間の頭部を破壊する、人類生存もしくは滅亡の鍵を握っていると思しき世界一美しいケツを持つ男として語られる半裸のウェェェェェーブ金髪男のウェェェェェーブ金髪は登場時には必ず側方に置かれたこいつ専用送風機で風になびいている、品はいいがどう見ても生身の人間の老人兵は動くたびにベタなウィンウィンの効果音が付くので説明などは一切ないがロボットらしいのだがロボットのくせに車に乗るときの動作は老人だからやたらとモタつき座って横に帽子を置くときは向きとか角度をかなり気にしてしまって何度も置く位置を直すものの最終的には手で倒してしまう!

松本人志のコントか漫☆画太郎の漫画のようだがトーンはシリアスそのものでいったい何を見ているんだという気分になる。もちろんこれは天然ではなくそういう笑いを狙ったもので、どうしようもなく下らない発想を大真面目にやってのける大胆さと計算され尽くした絶妙な間にこの監督は天才なんじゃないかと錯覚しそうになる。ひたすら汚い映像もすわアレクセイ・ゲルマンか! というほどの作り込みでまたすごく、豚人間の造形も汚ければその一人(例のアスホールだ!)の発声音は全部おならの音、捕らえられた家畜人類は全員裸でクソまみれの上に肉を美味しくするためかやたら肥え太ってその贅肉群が画面いっぱいに広がり、尋常ではないなと思ったのはなんとチンコなめショットにオッパイなめショットが隙あらば入ってくる。

言うまでもなく「なめ」というのは「舐め」ではなく「越し」、カメラの手前側つまり画面左右にサブ被写体を置いて画面中央奥にメイン被写体を置くショットのことで、たとえば二人の人物が会話をしているシーンで人物Aの肩越しに喋っている人物Bを捉えることを「人物Aの肩なめ」というように表現するわけだが、この映画ではチンコなめにオッパイなめであるからもうメイン被写体が全然目に入ってこない、しかもなめショットでは普通メイン被写体にピントが合うがここではチンコとオッパイにピントが合っているのでメイン被写体がボヤけてしまっている!

あまりにもバカバカしい映画でラストのズッコケ感も相当なものだが、ズッコケた先には途方もない切なさがある。ある意味これはもうひとつの『スターフィッシュ』。まさしく未体験の名にふさわしいエログロナンセンス三拍子揃って爆発した驚異的なバカ映画、あるいはこわれものをかき集めた痛ましくも温かい極限ソウルフルな人間ドラマだ。この糞を食らえ!

※ダニー・トレホも3分ぐらい出ます。

【ママー!これ買ってー!】


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糞尿映画の決定版にしてカーニバル映画の決定版。

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