郊外ドリーム粉砕映画『サバービコン』の感想(途中からネタバレ気味)

《推定睡眠時間:5分》

冒頭が見れなかったのでコーエン兄弟脚本に気付くのはエンドロールに入ってからなんですがいかにもコーエン然としたストーリー展開にうわぁジョージ・クルーニーだせぇ社会派気取ってコーエン兄弟パクってやんのとか思いながら見ていたことは心の中で謝っておきたい。ごめんジョークル。なんか一人ですげぇ恥ずかしい感じになりましたよ…。

っていうぐらいのコーエン濃度。平凡人のマヌケでチンケな犯罪行為があれよあれよと大惨事に転がって行くろくでなし群像劇は『ファーゴ』とか『バーン・アフター・リーディング』みたいなっていうか大体のコーエン兄弟映画それだろう。
『バーバー』とかもこんな感じではなかったですか、時代背景含め。『XYZマーダーズ』の極悪コンビ(っぽい人)までリサイクルしているっておい。セルフパロディなんだろうか。

コーエン総集編みたいなシナリオをジョークルが監督したのはジョークルもバカの一人で出演した『バーン・アフター・リーディング』の縁かもしれないが、フィフティーズの理想化された郊外住宅地で顕在化する黒人差別の諸相に現代に続くアメリカの病根が云々というあたりがジョークルの社会正義アンテナに引っかかったんだろうと想像。

やっぱそっちに関心あったんだろうと思われるのはこのサバービコンという郊外住宅地に越してきた全米黒人地位向上協会メンバーの黒人一家を襲う連日の黒人引っ越せデモ(ほかにやることはないのか)が酸鼻を極めるスペクタクルに発展してしまうところで、最後の方なんてもう『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』みたいで怖かったですよ。そこ、力入ってたな。

映画はこの黒人一家受難と、そのおうちに隣接する意識も給与も高めのホワイトカラーのリベラル白人一家(人種差別なんてとんでもない!)を襲うまた別種のコーエン的悲喜劇を平行して…というかストーリー的にはこっちの一家がメインだったが、ふたつあわせて挟み撃ち的に郊外ドリームを粉砕する趣向。

経済的発展と軌を一にする人口過密により住環境が悪くなるばかりの大都市から逃れたそれなりに金のある白人どもの避難先が郊外住宅地だったと物の本には書いてあるが、その結果として空洞化した都市部のインフラ整備が後回しになってしまい都市部には取り残された人たちの貧民街が出現、ますます金持ちの郊外逃れも加速する悪循環の傾向が顕著になったのが50年代というから、現代アメリカの分断はこのときから既に用意されていたんであるとかそういうことがジョークル的には言いたかったんだろう、たぶん。

※以下ネタバレが入っているかもしれないので注意

郊外住宅地からお仕事に行くなりお買い物に行くなりするにはお車が必要ということでモータリゼーションが郊外暮らしを可能とした一方、都市部の特にダウンタウンの大気汚染や交通渋滞や事故の多発等々の環境悪化にも一役買っていたというわけで、自動車社会の正の側面と負の側面が両輪となって郊外ドリームを推進したともいう。
それを踏まえれば暴徒化したアンチ黒人の白人デモ連中が『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』さながらに黒人一家の車に火を放つ、という場面もなにやら示唆的に映らなくもない。

それはともかくブラックユーモアにまみれた典型的コーエン譚な白人一家の悲喜劇とジョークル的生真面目に貫かれたブラックではあるがユーモアはゼロの隣家の悲劇がほぼほぼまったく交わらない、というのがとても奇妙な映画の分裂。
交わらないどころではないよな。クライマックス近くで白人一家の家がしっちゃかめっちゃかになってる時にその裏手では警官消防総動員(総ではなく中ぐらいだったかもしれない)の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』的大騒動になっているわけですが完全にシーンが分裂しているので、絶対に聞こえているはずのその騒音は白人一家の場面には入ってこないのだ。

これは白人一家メインのシナリオだからそうなるのだろうけれどもシナリオ上の白黒を逆転させてみれば、白人一家ハウスから漂うふんぷんたる不穏もまた黒人一家には届かなかっただろう。アンチ黒人の白人デモ連中に取り囲まれてそれどころじゃないので。
と、いうのが分断ですとそんなようなメッセージが映画の中核だったんではないですかね。みんな自分のことでいっぱいいっぱいだから人になんか構ってられないよみたいな。
醜悪な人種差別を生むのは悪意でも無関心でも不寛容でもなく経済的もしくは精神的なギリギリ生活からの逃避願望(または、警官の無配慮な「あんたユダヤ人?」に見られる無教養)なのだとそのようなジョークル的現代アメリカ批評なんだと感じましたね。

素晴らしい。いやでも映画は面白いか面白くないかだからな…なにかしら社会的なメッセージを映画で発信することの大切さもわからないでもないのですけれどもジョークル真面目すぎるからコーエン的感性で撮ってたら絶対それ爆笑じゃん的なバカどもの死に様が全然笑えなくて単に子どもたちが可哀想なやるせない系の映画になってしまった気がしてだな…白黒平行線のストーリーも笑えるところと笑えないところの対比が明確ではないのであんま奏功してる感がなくつまりジョークルそのへん真面目で融通利かないので!

マット・デイモンのダメ中年っぷりとかジュリアン・ムーアのアホっぷりとかオスカー・アイザックのあの食えない…そういうのおもしろかったからもっと肩の力抜いたら良いのにねぇ。生真面目は時として毒だ。

※後から多少書き直してます

【ママー!これ買ってー!】


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あの極悪コンビの活躍もっと見たかったのにぃ! ってなったので『XYZマーダーズ』見ます。

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