予告編でお腹いっぱい映画『ラプラスの魔女』の感想(ネタバレなし)

本当に毎回ですよ、ほぼ毎回ですよ、ここ数ヶ月というものシネコンに映画見に行くと毎回予告編で見せられるんです『ラプラスの魔女』。
原作:東野圭吾。そうか! 主演:櫻井翔。そうかそうか! 共演:広瀬すずと福士蒼汰。そうかそうかそうか! わかた! 俺はそんなに興味ない!

でもつい昨日のことですが監督が三池崇史だと知ってじゃあ見たいじゃん! 見なきゃいけないじゃん! 態度も予定も急変ですよ三池追っかけとしては。
なんでそれを言ってくれなかったのか。スペースと時間の都合もあろうが予告編にもっと大きく載せてくれても良かったじゃないすか三池の名を。
三池だってミステリー映画の実績ないわけじゃないんだから。ちゃーんと世間に話題を振りまいた『悪の教典』とか『ラプラスの魔女』と同じ東宝配給でしょうが。

まったくしょうがねぇな。まぁ見るまではそう思ってましたが見た後の結論ですが別に三池の名前とか予告編にいらなかったです。三池色べつにねぇ。
いやあえて言えば、あえて言えば、撮影時期の近い『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』とちょっとだけ重なる部分があったのでそこはおおこれは三池の映画だなって感じになりましたね。

なっても得した感が全然ないよ。いや俺が言いたいのは物語を伝えることを最優先にした生真面目が過ぎる堅実な作りが両者で共通してたっていうことですけどだとしても得しないよ。
それ別に三池が監督じゃなくてもいいよ他の人でもできるよ。『ジョジョ』とはラスト周りの画作りが似てるとかそういう共通点もあるがそんなイースターエッグ見つけてもなにも嬉しくないよ…。

でも三池映画っていうの忘れれば普通に面白かったです。いやむしろそれが鑑賞的正規ルートなのだろうが…ともかく、ゴツゴツしたところはあるんですけどこれよく二時間でまとまったなみたいな感じすよね。
なんか雪に埋もれた温泉地で死体が発見されて。解剖の結果、死因は硫化水素中毒で。なんでそんなことになったんだろうっていうのを地球化学の教授らしい櫻井翔が調査してたら、どことなく裏がありそうな刑事・玉木宏が登場。ついでに広瀬すずも登場。

果たして事故か殺人か、他殺か自殺か、それにしても一体どうやって屋外で硫化水素を…でもって広瀬すずは何者か…などなどと櫻井教授が頭を悩ませていると驚愕、なんと別の温泉地でも同様の遺体が発見されたではないか…まぁここまで全部予告編でやってるから驚く人もいないと思います、が。
そこからの急展開に次ぐ急展開がギリのラインで超展開に見えない正統派ミステリーのトーンで語られるので、なんか道具立てはトンデモっぽいのに最後まで緊張感持って見てしまいましたよ。
そこらへんさすがに職人芸って感じはしましたね、やっぱ。

そのトンデモがどんなトンデモかというネタバレは控えたいがただ一つ言えるのはあれだなこれは、豊川悦司が物語的にもトンデモ的にも重要な役柄で出てくるんですけど豊川悦司めっちゃ下手じゃん…。
そこ萎えたよな。いやほんとに萎えましたよ。豊川悦司の役柄は失踪した元天才映画監督で…甘粕才生という役名がどことなく失踪(のち発見)監督の曽根中生っぽさを醸すが…この、天才監督に見えなさが半端ない。

詳細は伏すがそのどこからどう見ても天才っぽくない豊川悦司の物語に与えるダメージめちゃくちゃ大きかったよ個人的に。
ラプラスの魔女を名乗り自然現象を予測できるかのような言動を繰り返す広瀬すずの透明な不思議も良かったし、その広瀬すずが何故か探してるらしい福士蒼汰の倒したらバラバラに崩れそうな空虚な佇まいも良かったし、櫻井翔の使えない三枚目っぷり(本当に使えないので全然謎を解いてくれない)もよくハマっていたし、シリアスなムードにとぼけたユーモアを添えて良いアクセントになっていたが。

そのお芝居の厚みがトンデモを耐震補強してシリアスを保っていた物語世界を豊川悦司が容赦なく破壊して底が抜けたよ。
これは悔やまれる。本当に、本当になんで天才映画監督役が豊川悦司だったんだろういや! 豊川悦司さんには出て欲しい映画だったんですよ内容的には…でも天才映画監督役は絶対違うと思うんだよ…そこだけは違うと思うんだよ俺は…。

広瀬すずを追う謎の男が高嶋政伸でですね、別になにか残虐なことをするわけじゃないんですけどもう立ってるだけで怖いの、出番少ないんですけど異様な存在感で。
それが非常に良かったのであれだな豊川悦司は高嶋政伸の相棒として広瀬すずを追う役とか…あるいはですね玉木宏のどっか怪しい刑事の上司とかそういうのでも良かったんじゃないですかね。
一瞬だけ登場のほぼカメオ出演的な渋川清彦も強烈な印象で…そういうワンポイント起用の方がわぁ豊川悦司だ! ってなって好感度高かったよな絶対いやそれは大人の事情で無理っていうのもわかるんですが…

返す返す残念だ、いやもうそこだけが。そこをクリアしたからといって別に『市民ケーン』になるわけでもないけれども(なんだその喩えは)いい映画観たなぁ! って気分で映画館を後にできたはずなんだ。
実際はどうかと言うと豊川悦司の強烈な天才じゃなさばかりが頭に残って良かったところが上書きされてしまうという滅茶苦茶残念な映画館帰りなのだった。

ゴチャゴチャが度を超して場面場面シュルレアリスムかキュビスムみたいに見える美術とか、凍結した死体の不気味さとか、温泉地の不吉な雪景色とか、三池崇史らしい会話の間とか…あぁ、頑張って思い出せば俳優陣の的確なお芝居の他にも面白い工夫でいっぱいの、派手さはないがよく出来た面白い良い映画なのにトヨエ(略

【ママー!これ買ってー!】


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三池崇史のミステリー路線といえば『逆転裁判』。誰がなんと言おうと『逆転裁判』。原作再現度も高い上にちゃんと正調ミステリーとして成立してるんだからすごいんだぞおもしろいんだぞ。

↓原作

ラプラスの魔女 (角川文庫)

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