なにこれ映画『大怪獣のあとしまつ』感想文

《推定睡眠時間:20分》

六角精児演じる官房長官が報道陣にもみくちゃにされて「やーめーてー! やめてー!」って叫ぶんですけど、あれ横山弁護士だよね? 麻原の弁護士引き受けて憐れにも残酷マスコミの餌食になった。すごくないか。今2022年だよ。2022年の新作映画でさ、しかも全然オウムとか関係ない文脈で急に横山弁護士パロディ来るんだよ。どうするこれ? 困惑でしょ。三十秒ぐらい置いてようやくちょっとだけ呆れ笑いが出るけどそれまでポカーンですよ。

あのねこれはそういうやつ。ポカーンてなるのが面白いやつ。ラストとかもポカーンだった。なんていうか、いやそれはそうかもしれないけどそういう展開になる必然性はあったかもしれないけど、そうかぁそこに落ち着いちゃうのかぁ…って思ってたらエピローグも何も無くそのままエンドロールが始まっちゃって「えっ!」っていう。それでそのあとにネタなんだと思うけど本気かネタか不明な「予算半分で第二弾、乞うご期待!」っていうポストクレジット映像が入ってさ、それもポカーンなんだけどそしたら近くで見てたお姉さんが「期待できね~」って苛立たしげに独り言を言うのがしんと静まりかえった場内に響いて。ちょっと笑ったよ数秒置いて。

まぁそんな反応からも分かるように(?)笑いに時間差がある映画なんだよな。監督・脚本は『時効警察』の三木聡ですからオフビートで。ボケがあって即笑えるみたいなはいここ笑いどころですっていうシーンを意図的に外す。時間差笑いの一例は、岩松了の国防大臣がことある毎に「それは、陰毛で石けんを泡立てるとよく泡立つ、みたいなことだろう?」とかそんな感じのどこがどこにフックしてるのか全然わかんないドヤ顔たとえを繰り出してきてそのたびに場の空気が止まるんですけど、誰もツッコミはしないんだよね。でそのまま素知らぬ顔で次のシーン行く。どんな顔すりゃいいんだよそれはってなるでしょ? そういう困惑ギャグは観終わって数時間経った今思い出すとちょっと面白いですけど、観てる間は脳内が三点リーダですよ。

結構真面目に特撮映画っぽいことやるしね。結構真面目に特撮映画っぽいことをやってるな~大人の人間ドラマも入ってきたな~と思ってたらショッカーのアジトみたいな特撮会議室で西田敏行扮する総理大臣以下豪華キャストの閣僚たちが怪獣処理の責任をなすりつけ合い怪獣の死体が権益拡大に繋がると見るや今度は一転怪獣の死体を奪い合いかと思えば小学生のように戯れ韓国(的な)外相の大怪獣の死体に関する声明を見ては「くっそ~あいつら~」ってなんなんだこれは、ギャグなのか特撮なのかふざけてるのか真剣なのかなんなんだよ!

でも、そのどっちつかずの宙づり感が三木聡の作風だからこれはこういう映画ってことでいいんじゃないでしょーか。ハードとソフトの噛み合わないちぐはぐな空気の中で時折繰り出される風刺は妙に鋭かったりしますしね。原作はおそらく怪獣に福島原発事故を重ねているが(そのため菅直人や蓮舫がネタにされる)映画版では新型コロナ禍も重ね、三木聡の初期作を思わせる冒頭の切れ味鋭いモンタージュはアンクル・サムの徴兵ポスターから小池百合子がぶんどって都庁に飾ったバンクシーの傘ネズミまで無節操な風刺・パロディを矢継ぎ早に重ねつつ新型コロナ禍の日本社会に対する不満を「新しい日常ってなんなんすか?」のエキストラ台詞でストレートにぶつける(※原作とか書いてますがこれオリジナル脚本みたいです。ノベライズを原作と勘違いしてました)

ここらへんはなかなか普通の意味で面白かったのでもっと深堀りしてもらえれば…とは思うが撮影時期的にロケ等々に諸々の制約があったのだろうと思えば致し方ないところかもしれない。緊急事態宣言にもなんか慣れちゃった今の状況を「怪獣後の日常」に見立てて描写したらだいぶ作品に深みも出ましたよねぇ。これ一般市民の出番がほとんどないから怪獣後の日本がどんな世界になってるのかよくわかんねぇんだよな。そこは素直にダメなところだったと思う。自衛隊でやりゃいいのにあえて国防軍にするとかの右翼っぽさも韓国パロディと合わさって掲示板文化的な臭気を放つ(とはいえ悪意があるというよりは良くも悪くも目に入ったものはなんでも無邪気にパロディにしてしまうのが三木聡という人なんだろうと思う。なにせ蓮舫っぽい服装で名前は小池百合子がちょっと入った環境大臣が怪獣の上でズルッとこけて血だまりに転落し『犬神家の一族』のあれになるシーンとかがあるくらいなので)

まぁだからそんな感じで、駄作じゃないし傑作じゃないし愚作でも佳作でもない、人に勧めるかといったら勧めないけどつまらないかと言えばつまらなかったわけではないっていう、とにかく変な映画としか言いようがない、まったく変な映画だったよ。豪華キャストも壮絶に無駄遣い!

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実写版『パトレイバー』のエピソード5&6『大怪獣現る』は押井守が監督した現在のところ唯一の(?)「怪獣映画」なのだが、押井守の実写ものなのでその切り口は怪獣映画批評もしくは怪獣映画ファン批評と随分ひねくれており、そのへん『大怪獣のあとしまつ』とちょっと通じるところがある(ので、それを期待して『大怪獣のあとしまつ』を観に行った俺はそこまでの批評性はなくて少しだけガッカリしたのであった)

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2 Comments
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匿名さん
匿名さん
2022年2月19日 11:26 AM

インターネット大喜利の被害者になってるけどふつーにつまらなくてふつーにそこそこクスッと笑えるいつもの三木聡映画でしたね。