肛門を引き締めろ映画『戦慄せしめよ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

新型コロナ禍で活動が縮小する映画監督は数多いても逆に活動を活発化される映画監督というのはなかなかいない。その貴重な一人が豊田利晃で、祖父の形見の壊れた拳銃を納屋かなんかに置いといたらしょっ引かれた(のち不起訴)2019年の事件以降はメジャーからインディペンデントに軸足を移したこともあり、比較的寡作だったそれまでとは打って変わって毎年実験的かつ刺激的な新作を劇場に持ってくる。活動してんだかしてないんだかわかんなかったのがブッシュ政権が誕生するやその怒りで急にアルバムを立て続けに三枚ぐらい放ったミニストリーのアル・ジュールゲンゼンのようだが、それにしてもヒューマンドラマの新境地を開拓し世間的にも評判は上々だった監督作『泣き虫しょったんの奇跡』で再ブレイクかと思われた矢先に突然の逮捕、晴れて不起訴処分となってさぁこれからだとギアを上げたら今度はコロナ禍到来、あまりにも運がないが反骨精神で映画を撮る人なのでこの劇的な逆境もむしろ創作のガソリンになったのかもしれない。

で『戦慄せしめよ』はすいませんよく知りませんが音楽家の日野浩志郎という人が佐渡島を拠点とする太鼓芸能集団・鼓童とコラボしてそのパフォーマンスを豊田利晃が佐渡島で撮ったやつ。撮影の具体的な時期は知らんがコロナ真っ盛りの時期に撮影されたとのことで(2020年の冬だろうか)それが作品に特別な力というかなんというか、撮影時期がコロナ禍じゃなかったら仮にまったく同じことをやってもやっぱりちょっと違う印象を受けただろうなっていうのがある。そういう意味でまことに豊田利晃らしい映画になっていたなぁとか思う。

内容としては鼓童と日野浩志郎の様々な演奏・パフォーマンスに佐渡島の主に荒ぶる海の自然風景と全編仮面を被ったままの役名が一応トキ太郎という渋川清彦が佐渡島の自然の中で踊ったり舟を漕いだりする映像が絡むという作り。その絡み方がダサい! ごめんなさいつい感嘆符を付けてしまいました…でもそのダサさが良いんだよね。クライマックスは中から光を放つ巨石のようなハリボテオブジェを囲んで鼓童の面々が太鼓をドンドコやっとるのをカメラがぐるんぐるん回転しながら撮っていく場面だが、これももうダセ~って感じで、だけどダサいからこそものすごい本気感、本気の祈りがそこから伝わってきて、人間の外にあるものへの畏怖と恍惚の入り交じった陶酔感を得られる。すごいよ、だって和太鼓のスピーカー音圧に揺られながらハリボテのはずの巨石オブジェ見てたら仏が顕現したもんね。出た! って思ったよ。宗教体験だなこれは。洗練されたカッコイイ映画じゃ宗教体験なんかできない(だから宗教映画は全部ダサいのだ)

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太鼓芸能集団というが鼓童が叩くのは和太鼓に留まらない。手拍子と足踏み(※音楽知識がないので表現が素朴です)だけで音楽をやることもあるし、詳細不明のなんか竹ブロックみたいなやつ? 升? とかっていうのを重ねて中空になるよう三角形に置いて、それを小さなバチで上から叩いたり中をかき混ぜるように三辺にバチを当ててカラカラカラカラ~って鳴らしたりとかする。このへんの長い静とそこからの爆発的な動、滝の前で褌の太鼓叩きが雄叫びを上げながらでけぇ太鼓をドンドコドコドコやるとか…の対比の面白さ。デッド・カン・ダンスを思わせる神仏あるいは怒れる大自然に捧げる異言スキャットもあって、日本の伝統音楽ってこんなこともできるんだなぁとここは素直に感嘆。和楽器(だけではない)パフォーマンスの映画として、ライブ映画としてたいへん充実していたと思う。

ところでこの映画、豊田利晃のニューエイジ趣味が爆発した2020年の小笠原諸島ドキュメンタリー『プラネティスト』とは姉妹編のようになっていて、そちらでも島に音楽家を招いて自然相手のセッションをやっている、で真夏の島のやさしい自然から受け取ったものを音楽にして返すみたいなコンセプトがあった(ぽい)わけですけど、『戦慄せしめよ』の雪をかぶった佐渡島大自然の方は全然やさしくなくてむしろこわい。脅威。この違いにはやっぱコロナ禍を感じずにはいられない。

人間が普段は舐め腐っている自然が軽く本気を出してきた時に人間にできることはなんだろうっていったらまぁ科学とか医学とかもあるでしょうけれども究極的には祈りぐらいしかないんじゃないかという謙虚さがこの映画にはある。だから鼓童&日野浩志郎のパフォーマンスも「どうだ!」的な見せ方にはなっていなくて、あくまでも佐渡島の環境と調和するように、パフォーマーもパフォーマンスもそこにあるのが当たり前のように撮る。当たり前にあったはずの祈りとしての音楽。そういう音楽観が技巧的に表現された映画というのは珍しくないけれども、肌感覚で音楽の祈りとその力を感じさせてくれる映画は珍しい。あっちもこっちも祈りを忘れて誰か何かを潰せば事態が好転すると思ってるやれやれな昨今ですからこういうのは響きます。

まーパフォーマンスの映画ですしくどくどとわかったような感想を垂れても野暮なだけでしょう。いま劇場で観るべき映画というのはこういう映画なので、行ける人はぜひどうぞ。ただし和太鼓パフォーマンスが中心ゆえ音圧で肛門にダメージがあるかもしれないので肛門ファイターのみなさまは戦慄しつつ肛門保護の方法を事前に検討してください。わたしは痔が多少悪化しました。

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