映画感想文『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』

《推定睡眠時間:10分》

『ウッドストック』なんかと並んでフェス映画の金字塔的一本らしい『真夏の夜のジャズ』でトリかと思った大御所ルイ・アームストロングを押しのけてマヘリア・ジャクソンがステージに上がった時には完全に「誰?」でその歌を聴いてもすごい歌声だなーとかジャズフェスでも最後はゴスペルっていうのがアメリカらしいっすねーぐらいなことしか思わなかったのだが、ウッドストックと同年1969年にニューヨークのハーレムで開催されたハーレム・カルチュラル・フェスティバルの模様を捉えたこのドキュメンタリー映画『サマー・オブ・ソウル』で再びマヘリア・ジャクソンのステージを観たらいやいやそんな雑評価はねぇだろ…とかつての自分とマヘリア・ジャクソンの異常才能にドン引きしてしまった。

なんか音周りのどっかの器官のリミッターがギャグ曽根の胃みたいな感じで外れてしまっているのではないのか。ゴスペル歌唱の巧拙に関してはゴスペルとか聴かないし知らないが歌の基礎体力がものすごいことになっているじゃあないですかマヘリア・ジャクソン。名前を忘れてしまった別の歌手(パンフレットで確認したかったが納品が遅れているとのこと)とシャウト合戦みたいのをやってたがマヘリアの歌声が無尽蔵すぎて途中からちょっと引いた感じでいやもう無理っすわそれは別階級っすわみたいな顔してたぞ相手の歌手。いかんな『真夏の夜のジャズ』は。あれはマヘリアのヤバさを引き出し切れてないですよ。己の審美眼(耳?)を棚に上げて映画のせいにするんじゃない。

それにしてもこういう映画を観るとちょっと難しくなってしまうなぁと思ったのが『真夏の夜のジャズ』のポジションで、『真夏の夜のジャズ』は確かに素晴らしい音楽映画ではあるが1958年ニューポート・ジャズ・フェスティバルの記録映画というより(監督した)写真家バート・スターンの作品と言った方が的確だし、そっちがヨーロッパの偉い映画賞とか取ってアメリカ国立フィルム登録簿に登録されるまでになったのにこっちはちゃんとテレビ局が一部始終を撮っていたにも関わらずウン十年も一本の作品として形を成すことなく放置されていた、というのはパフォーマンスの質的にもフェスの盛り上がり的にも決して劣るわけではないのだから(ジャンルも時代も違うのでストレートに比較できるものではありませんが)不公平に感じてしまう。

歴史的価値を持ち出したところでマヘリア・ジャクソンとスライ&ザ・ファミリー・ストーンとスティーヴィー・ワンダーとニーナ・シモンほかetcが同じステージに立ったブラック・ミュージックの祭典が1958年ニューポートよりも価値がないってことはないでしょ、少なくとも今日の目からすれば。それがこれほど長い間『ウッドストック』と『真夏の夜のジャズ』の下に埋まっていたとすればそれはやっぱり黒人文化の軽視があったんじゃないのって思うし、『真夏の夜のジャズ』が評価されたのだって結局あれが白人写真家が撮った映画だったからで、黒人アーティストも多数出演しているのに公民権運動など影も形もない白人にとって安全な映画だったからなんじゃないのって思いますよ。

なんか、『サマー・オブ・ソウル』の後に観る『真夏の夜のジャズ』は檻の中のフェスっていう気がどうしてもしてしまうなー。檻の中でも面白いもんは面白いんだけど!

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あと『ウッドストック』も『サマー・オブ・ソウル』を経ては無邪気には観れないよねぇ。『ウッドストック』は作品自体に政治性とか批評性があるのでそもそも無邪気には観てないですけど、結局ヒッピームーブメントって金に余裕のある暇な白人の遊びでしょ? って感じになるもんな。映画にはあんま映ってないですけど当初予定の最終日が一日押して月曜までフェス続いちゃってそこでジミヘンがステージに立った時には客の大半もう帰ってたっていうウッドストックのレジャー感ていうかさ。お前ら学校だの会社だの行っとるやないかみたいな。いや別に学校も会社も行っていいですけどそれは良いことですけど切実さがないじゃん、音楽でも聴かなきゃやってらんねぇよみたいな。

この映画がそういう風に編集されてるっていうのもありますけどハーレム・カルチュラル・フェスティバルはやっぱ多幸感の中に切実さありますよ。だって1969年のハーレムのど真ん中で入場料無料でしょ。学も職もないやつも来てるんですよこっちは。警備に呼んだ警察がどうせ黒人のやることだろ的な感じで来ないかもしれないからブラックパンサー党に別に警備を依頼とかいう切実な物々しさ! ま警察はあんまりやる気のない感じでちゃんと来てくれたみたいですがニーナ・シモンなんかステージの上で静かにブチキレこれからみんなの声を読むぜっつって政府のビルを爆破しろだの火を放てだのと観衆に語りかけるので客がギラギラならパフォーマーもギラギラですよ。マヘリアだって『真夏の夜のジャズ』で見せた1958年ニューポートもあれはあれで完成されたパフォーマンスとして素晴らしいがこっちの弾けっぷりを観ると活き活きしてるなー! ってなる。やったるぜ感がすごい。

いいですね、その合間合間に入ってくる現在のインタビューとかも著名人(もいるけど)インタビューみたいな権威主義じゃなくて当時観客として来てた人に語ってもらう民主主義で。本当はみんな有名な人なのかもしれませんけどまぁそこは知らない。テロップに出るのは観客とだけ。そういう視点で構成されている映画なのでフェスの最中にアポロ11号の月面着陸が! というビッグニュースに対する会場の反応が入ってきたりして面白い。観客がテレビの「月面着陸すごくないですか?」の街頭インタビューに「その金があるなら貧困対策をしてほしい」と身も蓋もなく答えれば、誰だか失念してしまったがステージの上のパフォーマーも月面着陸をぶった斬る。「アタシもアポロに乗せてもらったよ! ボルチモアで降ろしてもらった!」観客爆笑。

フェスってこうじゃないとダメってことはないでしょうけどいやでもやっぱこういう諸々ひっくるめて渾然一体となった盛り上がりがフェスの醍醐味って感じあるよねぇ。音楽あり政治あり笑いありカラフルな色彩ありトラブルありでも最終的にはパフォーマーと観客が一体化してステージを作り上げて大団円(たぶん)。ジャンルも黒人が演ってる音楽ならなんでもいいだろのごった煮天国。雨が降ったってそんなの全然気にしない(でも裏方はきっと大慌て)

最後に出てきたニーナ・シモンはかっこよかったなー。この人のライブ映像を観たのは初めてだったが当時の観客の一人が言うアフリカの女王のようだったというのは言い得て妙であの毅然としたアジテーショナルなパフォーマンスは真似できんよねぇ。それだけでも観る価値はあるが当然それだけではないまったく最高な、そしてフェス映画史(また狭いな)の再考も迫られる実にアツいフェス映画でしたね~これは~。

【ママー!これ買ってー!】


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こちらも最近リバイバルされたばかりということで何か因縁を感じます。もしくは異議申し立て。

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