ムーアVSトランプ時代映画『華氏119』感想文

《推定睡眠時間:0分》

蛇の道は蛇っていうんでマイケル・ムーアみたいな超偏向型の煽り系ドキュメンタリストがトランプみたいなデマゴーグを撮ったら糞おもしれぇに決まっているし、主要メディアがどうせヒラリー勝つっしょ的なムードでゆるゆるしている中でもムーアは大統領選のトランプ勝利を確信していたとかいう誠に胡散臭い自画自賛エピソードもまたそのことに拍車をかけるのだった。

でもそれ胡散臭いけど嘘ではないんだろうなぁたぶん。実は実はこの『華氏119』トランプ全然出てこない、いや出てくるはくるのですがメイン被写体じゃないっていうか、ムーアの批判対象そこじゃないっていうか、あんなん単なる道化っすよはい終わりみたいな感じで名誉毀損レベルの下絡みトランプゴシップを一通りえげつなく展開した後はさっさと俺(ムーア)の主張を聞けタイムに入ってしまう。

まるでトランプのような傲慢&不誠実なやり方。自分がトランプならそりゃあ勝利予測当たり前よね。予測っていうか負の願望みたいなものかもしれませんが。
うん、やっぱおもしろかったわ。糞おもしろくはなかったですけど前作の『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』みたいな老いぼれ左翼の腑抜けた戯言とは全然違いましたよ。

ムーアはトランプみたいに道化として自分を演出するし恐怖と怒りがない交ぜになった嘲弄で客を煽動する。
それはトランプ時代のアメリカを客観的に映し出すことは全然ないけれど、その不誠実な主観はトランプ時代のアメリカ人の目としてどんなに誠実で知的な映画作家よりも正確にトランプ時代のアメリカの一側面を映し出すのだ。

ムーアの攻撃はトランプよりもむしろ出番的にはそれほど多くはないヒラリーとかオバマみたいな民主党のエスタブリッシュメントに向けられる。お前ら立ち回りは上手いが大局を重視するあまり足下で喘ぐ底辺庶民を蔑ろにしてるじゃねぇかというのがムーアの主張。
他方でトランプの真逆バージョンみたいなバーニー・サンダースはベタ褒め。なんかめちゃくちゃ分かりやすい人である。

問題はトランプじゃねぇとムーアは吠える。右だろうが左だろうが労働者層が政治家を信頼できなくなってることが問題で、アメリカ独特の選挙制度の問題もあるが結局、政治不信の白けムードから(トランプ大統領を生んだ)大統領選の投票率が50%を割ってるような状況は民主主義が機能していると言えるのか、機能していないとすればそれがトランプ現象の根幹なんじゃないか、という話なのだ。

そのことを極私的に論証するべくムーアは水道民営化による水質汚染に揺れる(揺れていた)故郷ミシガン州フリントの取材映像を映画に組み込んで、ここからトランプへの道を読み取ろうとするのですがいやそれにしても他国の話とは思えんね、なんだか。ほら水道法改正案というのもありますし…。

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その水質汚染を報じた当時のBBCニュースオンライン版の翻訳記事にマイケル・ムーアの映った動画が引用されていた。
プレ・トランプ時代からフリントの水質汚染を撮っていたということか。映画にはどこで起きたものだか知らないが、どこでも起きているような気もするが、スクール・シューティングとそれを受けて盛り上がった高校生主体の銃規制運動も取り上げられていた(これもBBCオンライン版の記事があるのでリンク)

こうなってくるともうトランプとかわりとどうでもよくムーアが今まで取り組んできた題材の総集編みたいな観がある。
というか、反トランプにしてトランプの鏡像異性体の如しムーアの軌跡を辿っていくと畢竟トランプに辿りつくって感じなのかもしれない。

ムーアもそのことに自覚的なのか、映画の最初の方にはトランプ陣営とムーアのメンタリティがいかに近いか半ば自虐的に映し出される。
トランプ陣営の真のラスボスとして一部に絶大な人気を誇る元首席戦略官スティーブ・バノンがムーアに言及する下りは最高だった。

だってあのバノンが言うんですよ、俺の師はムーアだって。悪名高きブライトバードニュースの設立者で映画屋でもあるバノンが映画作りはムーアから学んだって言うんですよ! そんなのゾクゾクするほどおもしろいよ。

プレ・トランプ時代の2016年に始まったフリントの公害事件にアメリカ式民主主義の崩壊と市民的解決の可能性を見たムーアは、トランプ後に巻き起こった件の高校生銃規制運動”Never Again”とほか様々な小規模ムーブメントに草の根民主主義の復活を見る。

今回も例によって信頼の置けない粗雑なデータ捌きでアメリカは左派の国だと(トランプがアメリカは白人の国だと言うように)豪語するムーアなのでその分かりやすい希望のストーリーは額面通り受け取ってもしょうがないと思うが、あたかもトランプが風穴を開けたからこそ民主主義が活性化されたかのように見えてしまう逆説は、皮肉でもあるがちょっとだけ感動的でもあった。

その逆説には堕ちても堕ちても堕ちきれない、堕ちすら楽しみに変えてしまうようなアメリカ的楽観主義の力強さを感じたような気がするし、それになんというかまぁアホみたいな話で笑ってしまうが下に引用した記事みたいな映画的奇跡が起こってしまうのも、ムーアの捩れと企まぬ逆説があればこそだと思うのだ。

ムーア監督には、別の点でも注目が集まった。『華氏119』撮影で、このセヨク容疑者の様子をたまたまカメラに収めていたのだ。ムーア監督の公式サイトによると、2017年のトランプ大統領就任から約1カ月後、早くも2020年の再選を呼びかける集会がフロリダで開かれた。盛り上がる支持者たちが「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」というトランプ大統領のスローガンを熱狂的に唱えるのに続き、「CNN最低(CNN sucks)!」と繰り返す声が上がった。その中の一人がセヨク容疑者で、前列で仁王立ちになって叫んでいた。
マイケル・ムーアのカメラに偶然写っていた小包爆弾容疑者 『華氏119』-globe.asahi.com

※フリントの公害事件はWIREDの記事が詳しかった。

【ママー!これ買ってー!】


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これもなんでトランプみたいな人が大統領になったんだろうっていうの考える好材料だと思うんすよねぇ。南部のカントリーフェスで巻き起こるプチ混乱プチ衝突の連鎖と、庶民から見た大統領予備選。

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