腐敗数珠つなぎ映画『コレクティブ 国家の嘘』感想文

《推定睡眠時間:15分》

コレクティブというのはルーマニアのブカレストにあるライブハウスの名前でこの映画はそのライブハウスで起きた火災からお話が始まるってんで火災発生時に中でライブを撮ってたカメラが火災発生のまさにその瞬間とその後の阿鼻叫喚を捉えた映像が映画の最初の方に入ってきて、これがなかなか衝撃的なのだが(材質の問題か火が回る速度が恐ろしく速く火事の怖さがガチめに学べる)その後の展開は火災映像よりずっと衝撃的だし闇だった。

どうしてライブハウスの火災が「国家の嘘」なのかと言えば火災の方は国の規制と検査の杜撰さ(出入り口が一箇所しかないことで死傷者が多数出てしまった)の問題があるとはいえそこまで大事ではなかったのだが、全身火傷を負って熱傷専門治療の可能な国内唯一の病院に搬送された患者たちが入院して数日後に相次いで亡くなってしまった。でその死因は感染症、どうやら病院で使ってる消毒液が規定濃度を下回っていて適切な消毒ができていなかったかららしい。

じゃなんで規定濃度に達していなかったのかというと納入業者が薄めて出荷してたからっぽいことが新聞社だか雑誌社だかの取材で判明、病院側でもそれを更に薄めて使ってたっぽい疑惑も出てくる、専門病院なのにそんな雑な運営をしている病院なので告発者も続々現れ…と芋づる式にガリガリとルーマニアの医療業界腐敗が掘られていくのであったが、こう書いてもどのへんが国家の嘘なのか観てない人はあんまりピンと来ないのではないでしょーか。

掘ってるうちにこのへんは確かに国家の嘘だなという地点には確かに辿り着くのですがそれだけ見ればそんなに大きな嘘とも思えない。実はというか、そこがこの映画の暴き出すおそろしい国家の嘘で、全方位的に腐敗してるのでどの問題もそれだけ見れば些細な問題に思えるし、些細な問題なのでそれを正すことは簡単なのだが、腐敗ネットワークの中では一時的に正したところで結局また腐ってしまい、その腐りが更に別の腐りを生み出すのだが、国民の目にはその一大腐敗ネットワークはでかすぎて見えない。だから改革の必要性も実感できなければ改革の方法もわからない。

国が認可した熱傷専門治療施設で実際には熱傷の治療ができないとしたらそれはいざ全身火傷を負ったら死ぬのでマイルドな医療崩壊と言うべきだが、その状態が正常であり現在は平時なのだから何の心配もないと国家は国民に思わせる。つまりはそれが国家の嘘で、その嘘に国民の方も現実の崩壊を恐れてしがみつくので救いがない。そんなようなことがコッテリと描かれるのがこの映画で、その構図は実体の無い原子力神話に国民的に縋った結果どえらい事故を起こしてしまった日本在住者なら他人事ではなさすぎるのでグッタリさせられるのでありました。までも一度に何かが大きく変わるとかは基本ないからこういうのはコツコツやっていくしかないね。そう思わないとやってられんわい。

ドキュメンタリー映画としてこれよく撮れたなと思ったのは火災とその後の医療事故的患者死の責任を問われた保健相の更迭を受けて閣僚経験のないっぽいテクノクラートが保健相に就任するんですけど、その新任保健相が執務室に普通にカメラ入れてメディア対策練ってるところとか関係各所と調整してるところを撮らせる。その理由は映画を最後まで観ればなんとなくわかるんですけど、でもこれは理由があったとしても日本だと絶対にない光景だと思うのでびっくりしたなー。そういうことできるっていうのはスゴイよね。もうこの国はおしまいだーぐらいな暗澹トーンで映画は終わりますけど、なんか逆にそこはルーマニア政治の希望を感じてしまったよ。

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ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか (朝日新書)

なんか内部告発マニュアル的なものが世にはきっとたくさん出てるだろうからそれのリンクでも貼るかと思ってアマゾンの本カテゴリーで検索したんですが全然出てこねぇ。出てくるの内部告発に対応する側のマニュアルばっかで告発しようとする人のための本がマジで全然ねぇ。そういうところだろー組織の腐敗不正の温床的なやつー。

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