全部悪魔が悪い映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』感想文

《推定睡眠時間:10分》

まさか人間が当たり前のように空中浮遊したり当たり前のように関節が反転して怪我もなく元に戻ったり殺人人形が当たり前のように人間を襲って回るようなホラー映画のシリーズを「実話に基づく」のテロップを文字通り受け取って実話として認識する観客もそうそういないだろうとは思うのだが、とはいえ今回は実際に起きた殺人事件をネタにしておりその殺人犯(現在は刑期を終えてシャバ暮らし)の「悪魔がやらせた」という無罪主張を原形を留めないほど肉付けしつつ正当化する内容なのでそれはなんというか大丈夫なのか、倫理的に。

白石晃士の傑作モキュメンタリーホラー『カルト』のようなストーリーだがいくら白石晃士がモキュメンタリーホラーの名手でも加害者が存命の実在事件をネタにしてはそれやらんだろ。やはりアメリカは怖い国だ。何が怖いってびっくらかし満載のホラー演出も怖いが主要登場人物の全員が悪魔とか超自然パワーを信じているのが怖いよな。お馴染みの悪魔ゼッタイ許さない夫婦が今回はどっかの田舎町に子供の悪魔祓いに行くのだが、なんとかお祓い済んだかナァ? と思いきやその数日後、悪魔祓いの場に同席した青年が「悪魔の命令で」知り合いをぶっ殺してしまう。

…それはもしかして、これはあくまでももしかしてなのだが、もしかして夫婦の悪魔祓いの心理的悪影響じゃない? お前らがあんまり悪魔悪魔言うからこの青年も悪魔の実在を確信してしまってそれで人殺しちゃったんじゃない…? 実話と言いつつ実話の部分なんかプロットの導入部ぐらいな映画ではあるが(でもその後に巻き起こるスーパーナチュラル怪異も超もしかしたら全部実話かもしれないが!)殺人犯が事件前に夫婦の悪魔祓いに同席したのは実話らしく、エンドロールでは恒例の悪魔祓い録音テープなども流れつつ夫婦がなんか武勇伝的っぽく事件を語るのであったが、いや事件の性質から言ってお前らにも少なからず殺人の責任ありますよね?

怖いわー。アメリカこえー。殺人の責任を多少なりとも負うべき人たちが全部悪魔のせいということにして責任を負わないばかりかむしろ私たちは命がけで悪魔と戦いましたけどね的に開き直って武勇伝にしてるー。あと知り合いの腹を20回ぐらい刺した殺人犯の犯行現場は恋人の経営してるケンネルだったんですがケンネルて! 日本在住者的には異常殺人とケンネルと特殊技能夫婦の組み合わせに埼玉愛犬家連続殺人事件を想起しないわけにはいかないのでなんかまた違う種類の怖さもあるよ!

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までもトータルではとても楽しい映画で俺『死霊館』シリーズの本伝はやたら辛気くさくてエモーショナルにスピリチュアルで好きじゃなかったんですけど今回はシリーズ中もっとも際どい実話ネタにも関わらず、というか際どい実話ネタだからあえてそうすることで「…信じないでね?」と言外に言っているのかもしれないが、エンタメ性盛りまくり、オカルト映画ネタも盛りまくりでかなり好感の持てる感じだった。

アヴァンタイトルの派手な悪魔祓いシーンで早くも『エクソシスト ディレクターズカット版』のスパイダーウォークを引用したり『エクソシスト』のメインビジュアルになってる家の前に神父到着の図を再現したりの大盤振る舞い、医療刑務所に入れられた殺人犯と神父の悪魔祓いバトルは『エクソシスト3』みたいだし引っ越し先の家にあった悪いものに憑かれて家族がおかしくなったりその悪いものの場所を探るくだりは『悪魔の棲む家』みたい、シャワーから大量の血が噴き出してくるのは『ゴースト/血のシャワー』かもしれないし、みんな大好き霊視捜査にやっぱり出てくるモルグの霊(全裸)に事件の裏で暗躍する謎の魔女との呪い送りバトルなどなどを挟んで最終的に狂信夫婦『シャイニング』化! 実話だとか実話じゃないとかっていう以前に問題の殺人事件が実にどうでもよくなってくる怒濤のオカルトエンタメっぷりである(悪魔のせいなら無罪のわけないので実際そこはどうでもいい)

全裸の肥え男性の霊などは出てくるだけでとりあえず怖いわけだがそういう即物的な怖さとは別に現実崩壊の怖さっていうのが今回はあって面白かった。悪魔に取り憑かれると現実じゃない現実に連れて行かれて家族とか友達とかが悪魔や魔女に見えてしまうのでそれで例の殺人犯も人を殺めてしまったわけですね。うん病気たぶんそれは精神の病気かドラッグ使用のたぐい。しかしお化けとか悪魔が襲ってくるよりもそっちの方が(本人も周りの人も)現実的には怖いし、人は飛び風は舞いポルターガイスト現象で部屋中の小物は全部壊れのハッタリ全開オカルト描写であるとか、シャワーのカーテンレールに見える悪魔の手や壁に空いた謎の穴とかの幽霊映画的な不気味さの演出に加えて現実崩壊の恐怖まであるのだから緩急自在先読み不能、心を休めるタイミングがない。

こういうシャレにならん実話ネタの映画で最後はやっぱり愛が勝つ的なイイ話に着地するところは(も)どうなのかと思うがまぁでもいいんだよ殺人も精神病も問題ありげな家庭環境も全部悪魔のせいだからな。悪魔に勝てるのは教会推奨の異性愛と家族愛だけ! それもまた怖いので怖さが映画の内にも外にも何重にも重なるとってもこわいホラー映画なのであった。狂信夫婦の愛の記憶だって本当は悪魔が作り出した幻覚なのかもしれませんしね…ふふふ…おめーらの方が悪魔より怖えーよ!

【ママー!これ買ってー!】


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悪魔崇拝がおそろしい「実話」ホラーということで。

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