スパイ歌舞伎映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』感想文

《推定睡眠時間:35分》

およそ一年半にも及ぶギネス級の超ロング公開延期の末の劇場公開となった『ノー・タイム・トゥ・ダイ』であるが観客の方も東京ではこれまでずっと緊急事態宣言下だったこともあり劇場が久々の人が多かったのか途中トイレ退席が俺カウントで10人以上という珍記録を生み出しており、ステイホーム&リモートワークの普及で人類がいつでもトイレに行ける環境に置かれた結果膀胱に甘えが生じている可能性が出てきたのだが、まぁでも厳しくしたところで良いこともないのでそういうスパルタ精神論はもうやめてちゃんと甘やかしてあげて欲しいよな…みたいなどうでもいいことを考えてしまうぐらいには間延びしたクレイグ・ボンド最終作だった。

でもこの間延びはクレイグ・ボンドなんか『スカイフォール』ぐらいしか観てないしそれも1時間ぐらい寝てる俺にとっては間延びでしたけどちゃんとクレイグ・ボンドを全作観てる人にとってはたぶんそうじゃないんだよな。クレイグ・ボンドのストーリーを完結させるために必要なシーンを全部詰め込んでるから一話完結型のボンド映画みたいにサクサク進まないっていうだけで、これまでずっと観てきたクレイグ・ボンドの終わりを見届けたいんだよっていう人なら2時間半の長丁場もダレ場などなく全てのシーンが見せ場なのでありましょう。

と書けばつまんなかったみたいに思われるかもしれませんがいや面白かったですよ? 全然好き好きむしろこういうの観たかったもん。なんかね、クレイグ・ボンドってこれは完全に偏見でしかないんですけど無駄にシリアスでアート寄せで陰気でアクションはリアル志向で敵もリアル志向っていうかなんか身内とかで怪人っぽいキャラの立った人がいなくて…っていうイメージがあって、それで興味なくしちゃったんだよな。ボンド映画でそれやらなくていいじゃん、それ『ボーン・アイデンティティー』じゃんみたいな。俺のベストボンドは永遠にロジャー・ムーアだしベストボンド映画は『黄金銃を持つ男』なのでそうなりますよそれは。

でも『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は映画が始まるとすぐに能面被ったサフィンという敵役(ラミ・マレック)が出てきて『ハロウィン』のマイケル・マイヤースみたいにゼロ温度で無抵抗な人を殺すのでツカミは抜群。それじゃん! そういう強めのケレン味待ってたじゃん! こいつは幽鬼みたいな(スペクターみたいなと言うべきか)存在なのでインパクトのある登場をしたわりにはあんまりアグレッシブに悪事を成したりはしないんですけど今回よかったのがその「絵」で見せる姿勢だよな。シーン単位の面白さじゃなくてショット単位の面白さを(たぶん)見世物的に重視してて、だからなんか変な絵いっぱいあるんですよ、そういう変な絵がボンド映画の魅力の一つだよね~って感じの。

その一つにして最大のものがサフィンの秘密基地でここは立地条件も(設定だけは)飛ばしているが中身の方もちゃんと変が詰まっていて押し入れにあるレゴブロックの余ってるパーツを総動員したような一貫性のないゴッタ煮具合、しかも秘密基地かくあるべしの間抜けな仕掛けまでちゃんと設置済みでこれは歌舞伎の舞台装置を取り入れたプロダクションデザインなのだろうがその意図に反して見た目ほぼドリフ。なんか笑ってしまうがでもこれは夢だよね!

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俺が秘密基地作るときも絶対に「いやできることはできますけど実用性で言ったらぶっちゃけ皆無ですからね?」っていう設計士さんの半笑いの忠告を悪の力で押し切ってその仕掛け組み込んでもらうし秘密基地の中心部にはあんまり意味もなくああいう空間作ってもらうからな。その空間も「いやできるはできますけどメンテナンス性は最悪ですし美意識もなにもあったもんじゃないですしあと花も枯れますよぶっちゃけ?」みたいな設計士さんの半笑いを超えて本笑いの忠告が入るんだろうが…でもいいんだよ! ここは俺の城だから俺の作りたいように作るの! あの秘密基地、レゴブロックのテーマセットで売ってほしいよな。

あと変といえば悪人刑務所(極秘の捕虜収容所みたいなポジションかもしれない)の税金の無駄遣いも甚だしい意味もなく可動性が高くしかも不便なデザインにも痺れた。これも歌舞伎の舞台装置を意識したのだろうが…この薄っぺらい見栄至上主義ですよね。007に限らず最近のスパイ系アクション映画は『キングスマン』のようなコミック路線のものでも室内空間をアクションを面白く見せるために設計しようとする傾向にあるじゃないですか。空間はあくまでもアクションの背景ないし舞台装置っていう考え方ですけど、でも『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は違ってこれは空間そのものを見せるために空間を作ってるんですよね。インスタレーション的な設計になっていてあまりアクションやストーリー上の都合は重視されない。

だから秘密基地での最終対決とかはデザインの面白さに反してぶっちゃけあんまりアクションとかサスペンスは盛り上がらないし、絵面はアホっぽいのにストーリーはビリー・アイリッシュが歌うメランコリックな主題歌からしてやたらと重く内省的なので、なんか全体的なバランスはすごく悪い。でもそのバランスの悪さがむしろ…とか言うと逆張りっぽくなりますけど、でもさ、007て元々そんなに端正な映画シリーズではないじゃないですか。生々しいところはやたら生々しくてバカっぽいところはやたらバカっぽくて、ダサいところはどう見てもダサいんだけどでもカッコイイところはやっぱりカッコよくて、ストーリーは古典的だけれども流行りものも表面的に節操なく取り入れて、みたいな。

そういうバランスの悪さを許容する大らかな見世物精神があったから007は毎回違うことを試せてこんな長寿シリーズになったんだと思ってるし、なのでこういうなんともチグハグでしっくりこない映画がクレイグ・ボンドの最後に観れてちょっとグッと来たよな。色々あったけど007に戻ってきたんだなーみたいなさ。面白かったですよ『ノー・タイム・トゥ・ダイ』。一年半も待って観るほどのものじゃないっていう下らなさも含めて。

※ところで今回の敵はウイルス型のナノマシンを武器に使う人ということで一年半寝かせてる間になにやらアクチュアルなネタっぽくなってしまった。終盤の展開も新コロ時代の寓意の趣で、結果的になのだがこういうことがあるから007面白いっすよねって感じになる。ちなみにクレイグ・ボンドのすべてに一切の思い入れがない俺にとってこの映画のMVPは生物兵器研究所で働いてた技能は有能でも性格は無能な使えない研究員オッサンでした。あいつしょうもなくて最高。

【ママー!これ買ってー!】


レゴ(LEGO) アイデア セサミストリート 123番地 21324

みんなもレゴブロックで自分だけの秘密基地を作ろう! 作品が違うがどうせ好き勝手にブロック組むから大丈夫だ!

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さるこ
さるこ
2021年10月11日 11:56 PM

こんばんは。やっと祭りに参加できて嬉しいです。
家人も「私のボンドはロジャー・ムーア」といっています。
私は『カジノロワイヤル』と『慰めの報酬』で予習(復習)しましたがありがたい時代ですね。
んで、とっても王道でドラマティックで楽しかったんですけど、ん?これならジョン・ル・カレの方が面白いやん…と、古き良きMI6を懐古してしまったかな(ジョージ・スマイリーも引退してから何度呼び出されたことか)。マイノリティへの気遣いは今風だけど結局〝子を残せ〟ってか…?
しかし何より、CIAのフェリックスが早々に死んでしまいえええっ!彼には『テネット』のニールを重ねていましたよ…