脱臭映画『キングスマン ファースト・エージェント』感想文

《推定睡眠時間:15分》

なんだか最近ハリウッド映画産業がジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』のプロットを借用した『地獄の黙示録』を引用した映画ばかり作るんでそれは例えば『キングコング 髑髏島の巨神』とか『アド・アストラ』とか『デューン』とかなんですがそういうのを揶揄してコンラッド症候群とか真っ暗な部屋の中ふるえる手でスマホを握りしめ不規則な呼吸の合間にヒヒヒと笑い声を上げながらツイッター画面をあたかもそれが世界の全てでもあるかのようにあたかもそこにしか俺の居場所がないかのように凝視しつつその文字列を打ち込んだりしてきたものですがこの『キングスマン:ファースト・エージェント』には半主人公ポジションで色んな国を旅する貴族の子息コンラッドさんというキャラクターが登場し、いやマジでコンラッド症候群じゃねぇかハリウッドなんなんだよお前らのコンラッド傾倒っぷりは!

あれだね未知なる外国を異文化に対するリスペクトを持って冒険する勇敢な白人の象徴としてコンラッドネームが使われてるんですよねたぶんこれは。コロンブスとかだと政治的に問題あるし的な。そんな理由で都合良くコンラッドネームを使うハリウッド人種の倫理的セコさときたら呆れますがまぁそんなことはいいとして! 俺はこの監督マシュー・ヴォーンの作風が厨二チンポ臭くて嫌いだし『キングスマン』シリーズも厨二チンポ臭くて好きではなかったのでそのバイアスは確実にあるのだがそれにしてもちょっとこれは下手なんじゃないかと思ってしまった。

なんか今回前日譚ですけど前日譚だから小さな話とかじゃなくてむしろシリーズ最大のスケール、第一次世界大戦は実は謎の秘密結社によって引き起こされたものでラスプーチンとかマタ・ハリとかレーニン更には…と様々な歴史上の怪人物大人物はこの秘密結社に属する連中であったというユニバース構想でも狙ってそうな風呂敷を広げてくるわけですが、なんなんだそのわりにはこのこじんまりした作りは。

いやだってロシアのシーンとかドイツのシーンとかアメリカのシーンとか宮殿内(回廊みたいな)やら執務室やらで全部済ましちゃうんだよ。そこで国のトップの偉い人が「うぬぬ! 兵を出せ!」「ぐぬぬ! 協定は破棄だ!」とか一言二言言ってるだけのシーンを挿入して大局を説明する構成になっててさ、モンティ・パイソンのコントかよってぐらい金のかかってない安い映画に見えるし、諷刺としてある種コント的に見せる意図もあったのかもしれないですけどそれにしては薄っぺらすぎて少しも笑えないし、だいたい幼稚だよね。ないんだもん捻りとかエスプリとかそういうの。

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歴史の影で暗躍する秘密結社というから権謀術数うずまく…みたいな楽しいやつを想像すればこの秘密結社所属の怪人たちも例の宮殿やら執務室やらで偉い人に進言して素直に聞き入れられるだけで権謀術数もクソもない、あとは主人公たちと室内で戦って成敗される面白みのないパターンで、うぬぅヤツがやられるとは…ならば次はお前が行け、○○!(歴史上の怪人物の名前)って戦隊ものじゃないんだからって思うぞ。ショッカーなんだよこの秘密結社。

この第一次世界大戦は現実のそれではなくてパラレルなというかカリカチュアされたものですけど、それにしたってもう少し入り組んだ構図を空気だけでもいいから見せてくれないとやっぱスケール感を感じられないじゃないですか。スケール感を感じられないから時代の大局とそれに翻弄される主人公たちっていう図式もなんかショボく見えて、戦況を左右する感じの案外シリアス路線なそのバトルの数々もいまひとつ興が乗らない。あちなみにこの主人公たちというのは元祖キングスマンの親子です。

スケール感を演出できないんなら敵の刺客が次々と押し寄せてくるだけの単純な話にしちゃえばいいのになぁ。それこそ厨二チンポってもんでしょう、怪人バトルだけをテンポ良く繋ぐっていうのが。でも今回マシュー・ヴォーン的な厨二チンポ臭なかったです。脱臭しました。今回は女性と黒人男性を尊重し英国的尊大と毒気は捨てます。まぁなんかマシュー・ヴォーン的にも色々反省するところがあったのかもしれないし時流に合わないとかそういう判断もあったのかもしれないなだがしかし!

オタクがオタク装を解いたからといって別にイケメンになるわけではないように厨二チンポが脱臭したところで単に臭いのしない普通のチンポになるだけだ。臭いチンポより臭くないチンポがいいというのは実用性から言えば確かにそうかもしれないが味わいや個性という点で言えば臭いチンポの方がむしろ良いということもある。俺はなんでこんなにチンポの話をしているんだ!

結果、薄い。いろいろ薄かったよ今回の『キングスマン』。個々のバトルは塹壕戦にしてもラスプーチン戦にしてもアツイ感じになっててかなり面白いんですけど、そういう場面場面の面白さと無駄に風呂敷を広げたストーリーが完全に後者のせいでうまく結びつかないっていうのがやっぱダメな気がした。伝奇系アクションとしては実際の怪人物のエピソードをバトルに取り入れたりもしててそう悪くないんだけどなぁ。でもそれも大局を描こうとして一人一人のキャラ描写を表面的にしてるから宝の持ち腐れみたいになっちゃってるし。なんか、厨二チンポが必死にちゃんとしたジェントル大人になろうとしたけどやっぱなれなかったっていう、そういう映画な気がしたよ。

【ママー!これ買ってー!】


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厨二チンポは今も昔も伝奇が大好きなのでロシアの厨二ティムール・ベクマンベトフもきっちり撮っているのであった。

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