ディズニーの大冒険映画『ラーヤと龍の王国』感想文

《推定睡眠時間:0分》

去年公開予定だったディズニー映画2本がコロナ禍とはいえ映画館からかなり一方的に引き上げられディズニープラスでの有料配信にされてしまったことで映画館めっちゃキレてるらしい。まキレてるかどうかは知らないが少なくとも映画館側がディズニーに対して相当の不信感を抱いていることは想像に難くなく、本来ならばTOHOシネマズで字幕吹き替え合わせて1日10回とかやってても別におかしくないこのディズニープリンセス最新作『ラーヤと龍の王国』もなんとTOHOシネマズは上映なしで他のシネコンもミニシアター系小品程度の扱いというかなり異常事態になっているのであった。同じ映画を1日10回とかやってた今までの方が異常っちゃ異常ですが。

ディズニーの近視眼的銭ゲバ的業界エコシステム破壊的自己中心的テメェ興行をナメてんのかよ的経営判断により泥をかぶった『ラーヤと龍の王国』ではあったが内容的には安定のディズニー映画で普通に面白かった。前の『モアナと伝説の海』もその路線だったがまたしてもアドベンチャー編。これからのディズニープリンセスはお城なんかにゃこもってねぇのよというのは21世紀に入ってきてからディズニーが押し進めてきたテーマだが今回はプリンスは不在だし宿敵は同い年のパンキッシュ女戦士、更には古代中国を大枠のモチーフとしたアジアン・ファンタジーということでまた一歩か二歩先に進んだ感じである(といってもそれをイデオロギー的な「進歩」とは個人的にまったく思っておらず、これが良くて前がダメとかそういう話ではない、単なるマーケティングに基づくの商品バリエーションに過ぎないと思っている)

お話はこのようなものだった。龍の伝承が残る古代中国っぽいどこかの地域では龍の魂を封じ込めたガラス玉みたいのを我が物にせんと諸国(それぞれ東南アジアっぽいイメージ)が緊張状態にあった。なんでみんなガラス玉がほしいのかよくわからんがとにかく手に入れたら安泰っぽいです(すごい玉みたいだから外交力は確かに増すだろう)。で文明はでけぇ河があるところに興るっていうのでその地域はドラゴン形状の川沿いに5つぐらいの国があります。主人公ちゃんはその中のガラス玉をこっそり隠し持ってる国の王女ポジ。血気アクティブな性格だからお父さんが他の国の人たちを食事に招待したよと告げるとわお! どう殺すの!? 待ち伏せ!? 毒殺!? みたいな不穏なことをナチュラルに言う。

もちろんお父さんの意図はそこにない。まぁ刃を向け合うのも疲れますからねははは…ということで強者の余裕がバリバリであるが敵対する諸国の王や特使と親睦を深め緊張関係を和らげようとしていたのだった、が。

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敵対関係にあるとはいえお子様同士ってことで主人公ちゃんとさっきまで仲良くしていたはずの他国の戦士系女子が主人公ちゃんがこっそり見せてくれたガラス玉を見て豹変。欲は人間を変えますねぇ。ガラス玉の奪い合いをしているうちにガラス玉がしゃーん! すると龍の力でガラス玉に封じ込められていた「悪」(実体をもたない黒いモヤのようなものなのでそうとしか言いようがない)が蘇っちゃって触れた人々次々石化! かくして諸国はお父さんの目論見とは裏腹に分断と崩壊の一途を辿り、数年後、そんな世界を救うべく主人公ちゃんは旅立つのでした。

今こうやってあらすじを書きながら思ったのだが結構設定がギチギチである。これを冒頭15分ぐらいで一気呵成に見せるがあまり上手いとは言えずかなり強引。俺は強引なぐらいな映画の方が好きですがお子様なんかはこの情報量に対してのこの説明では結構ついていくのが大変かもしれんと誰様目線で心配していたら他の席のお子様ちゃんとギャグシーンとかでは笑っていたからわりと大丈夫そうであった。まぁそれはさておいて。

この世界設定でランタイム108分。序盤も強引だがその後の展開も急ぎ足で、面白いは面白いのだが「そこはもっと引き延ばしてじっくり見たいよね~」がわりと渋滞してます。人を石にして増殖するウイルスのような「悪」、それを封じ込めて自らも石になった龍の兄弟たち、そのうち一匹が蘇って主人公に同行するがその能力は砕け散ったガラス玉を集める度に兄弟がそれぞれ持っていた能力を吸収するというロックマン仕様、異なる発展を遂げた5つの王国、それぞれの国の思惑、国を訪れるたびに増えていく仲間、世界崩壊の原因を作った主人公と異国の女戦士の確執、主人公が馬の代わりに用いるがそこに鞍を置いても絶対に馬みたいには乗れないだろと突っ込まざるを得ないお助けアニマルポジションのビッグアルマジロ…ちょっとこれは要素多過ぎ。

とはいえ要素を過剰に詰め込んで情報量の暴力で映画をドライブするというのは昨今のアクション系アニメ映画の作劇トレンドと言って差し支えないように思うのでその意味ではとくに変わった映画ではないのかもしれない。ディズニープリンセス映画といえば展開は起伏に富んでいたとしてもテンポにはどこか余裕があって、それが得も言われぬゴージャス感を醸し出したりしていた(と思うのだがあんまり見てないので知らない)が、今回は『インディー・ジョーンズ』調のアドベンチャー編ということもあってあんまそんな感じはなく、ディズニー映画っぽい洗練されたユーモアが希薄だったのもそのへんに由来するのではないかと思った。そうなんだよね今回あんま笑えないんだよね。まぁ世界も崩壊の危機に瀕してるし。

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しかしそこらへんはさすがディズニー上手いなぁと思ったのはモチーフとの距離の取り方で、この劇中世界は古代中国っぽい世界ではあるんですけど「ぽい」から先には行かないし、龍というのも中国的な(あるいは神話的な)ぶっとい一本の龍ではなくウルトラマンみたいに何人も兄弟がいる、でまたそのデザインも伝統的な龍じゃなくてユニコーンとか半分ぐらい入ってるんすよね。ユニコーンのアニメはここ何年かでアメリカでブームになってミーム化しているらしいがどうしてアメリカ人はそれほどユニコーンが好きなのか…という問題はともかく、その異文化のハイブリットっぷりにはやっぱりすげーって思っちゃう。オークワフィナが声の出演をしている龍もジーニーみたいな奴ですし大胆だよね、やることが。

あと敵の設定、これも考えられてるなーって思った。なんかやっぱ年々こういうのって難しくなってきてるじゃないですか。昔だったらなんかアラブの人とかを悪い奴にしていればよかった、というのは極論だとしてもステレオタイプの悪っていうのは往々にして差別を含んじゃうからグローバルな娯楽としてのディズニーはそこらへんめちゃくちゃ敏感になる。最先端の政治的正しさをセールスポイントにしてもいるから安易な敵キャラってもう全然出せない(出せばいいじゃんって思うけどね)

だからこの映画の敵ってすごい抽象的で不定形のカオナシみたいな奴なんですよ。で、しかも、強いヒロインが仲間と一緒にそいつを倒してハッピーって風にはならないんですよね、結局暴力で解決するんかってことになってしまうから(暴力で解決すりゃいいじゃんと思うけどね!)。そこらへんは思わず唸った。苦し紛れの解決策って感じでもなくてちゃんと腑に落ちるんですよ、そうだよねこういう展開だったらそうしないと敵を倒せないよねみたいな。まぁ設定のご都合主義はひとまず忘れてもらうとして…。

なんか、色々難しいじゃないですか中国って。市場としては大きいからディズニーとしてはそこは絶対に取っておきたいし、あとハリウッド映画産業の中でのアジア系の冷遇はずっと言われて来たので最近アジア系の人で色々やってみようぜっていう企画が結構増えてきてるのでディズニーも遅れを取るまいとそこに乗ってるような感じですけど、そういう中でデイズニー・プリンセスとしてアジアン・ファンタジーをディズニーがやる時に、このモチーフとの距離の取り方とか暴力の取り扱い方って最適解かなぁと思った。

近づきすぎず離れすぎず、暴力とは違う形で「悪」を倒すことで非暴力を訴える、あとこれはかなり微妙な…たぶん能動的に映画を読もうとしないとあんま意識されないところかなぁと思うんですけど、強国の横暴と資源に乏しい中で抵抗を試みる小国っていうのも一応物語の下地にはなっていて、それは物語の中で前景化されることはないんですけど、仄めかしの形でとくに東南アジアに対する現代中国の帝国主義的行動に対する批判にはなってるのかなとか…まぁそういうのもある。

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中国市場にアピールしたいからと媚びた感じにはなっていなくて、かといって欧米の価値観で中国的な価値観を一方的に裁いたり、いわゆる「文化の盗用」的に中国文化とか東南アジア文化を装飾的にサンプリングしてるだけではなくて、という。またポリコレかいとポリコレ嫌いの人には文句を言われそうな映画ですけどポリコレをかなり極端まで推し進めていることで作り手が政治的な問題と対峙せざるを得なくなっていて、ちょっと他のディズニー映画には見られないような種類の緊張感を孕んでいるというのが俺には面白かった。

まぁそんな穿った見方をしないでも単純に『インディージョーンズ』とか『トゥームレイダー』とかあとなに『ロマンシング・ストーン』とか? そのへんのアドベンチャー映画のノリで動きまくるアジア系のディズニー・プリンセスっていうのは新鮮で面白いし、あとオークワフィナのラップ姉ちゃん的な龍ねー、俺はオークワフィナの声が聞けるっていうんでこれ観に行ってますからね。よかったですよオークワフィナの龍。龍なんだけど屈託のない(落ち着きもない)子供でオークワフィナのハスキーボイスも相まって親しみやすさがあって、でも人間を超越したものとしての存在感もちゃんとあって。これは多様性の尊重をテーマにする上であえてやってるんだと思うんですけど今回主人公が案外影薄いからね。オークワフィナの龍を初めとしてわりと脇キャラの方に魅力がある感じだったな。

あ! そうでしたこの映画最大のポイントを忘れてました…女戦士のナマーリね。ディズニーさん作りませんかナマーリのスピンオフ。いやーもうナマーリ最高。オークワフィナも最高だけどナマーリも最高。ビッグ猫を駆って主人公を追う姿も兵士に毅然と命令を下す姿も超かっけー。弱小国家の覇権を確立するために隙を見ては自ら兵を率いて他国の侵略に赴く冷酷無比な愛国者っぷりにクシャナ姫の後裔を見た!

中国とか東南アジア諸国が意匠の面ではメインのサンプリングネタではあるが、キャラクター造形であるとか哲学の面では宮崎駿の影響はやはり感じるし、上田文人のアート系アクションゲーム『ICO』『ワンダと巨像』の影響なんかもあるんじゃないだろうか。生意気なキッズ船長はあれ『インディージョーンズ 魔宮の伝説』に出てきた子役のオマージュでしょたぶん。そういう元ネタ探しも最近のポップなエンタメ映画ならとくに珍しいことではないとはいえちょっと面白いところ。総じて良い映画だったと思うのでみんな映画館で観ろディズプラなんかで観るんじゃない!(さもなくばそのうち劇場公開されなくなってしまうぞ)

※この敵の設定ですが考えれば考えるほどウイルスっていうか疫病の概念を形にしたものに思えてくるので、疫病が世界中に相互不信をもたらした…という新コロ世界の風刺を意図したのだとしたらすごいと思う。偶然だとしたらそれはそれですごいが。

【ママー!これ買ってー!】


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漫画版ナウシカの最後に出てくるナウシカの選択に対して俺はどちらかと言えば否定的な見解を持っているのだが、さすがにそこまで意図したわけではないだろうが『ラーヤ』はある意味でナウシカの選択に対するアンチテーゼになっていて、宮崎駿がこれを観たらどう思うんだろうとはちょっと思った。

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