映画感想『シュガーラッシュ オンライン』

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《推定睡眠時間:0分》

慣れ親しんだ古ゲームセンターの疑似LAN環境から抜け出せないオッサンゴリラのラルフは刺激と変化と危険でいっぱいのインターネット世界を謳歌する親友ヴァネロペちゃんを些細では済まないやらかしによって超怒らせてしまった。
見てないから知らないがたぶん前作のラストあたりでヴァネロペちゃんから貰ったに違いないマイヒーローペンダントを本人の手で仮想空間の下層空間に捨てられてしまうぐらいなので相当なものだ。

というわけでしょんぼりラルフはレース系オンゲにハマるヴァネロペちゃんと別れて一人AmazonやGoogleの超高層サイトが立ち並ぶインターネット摩天楼の、もはや誰も見に来ないしクローラもその頭上を通過していくスラムのような下層に向かう。
果たしてペンダントはそこに落ちていたが、衝撃。マウスポインタもペンダントと一緒にパラパラと捨てられているではないか。

マウスポインタはもはやゴミ扱いなのか。確かに、アクセス解析なんか見るとこのブログもスマホで見る人が大半でデスクトップユーザーは20%前後とかなので、サイトの種類にもよるかもしれないがネットサーフィンの基本はマウス操作からタッチスクリーンに移行しつつあるんだろう。ネットの世界ではポインタなどもはやゴミ。
いやでもそのネット下層部ダイヤルアップの看板とかも投棄されてるからそこまで前時代の遺物扱いなの?! って風にはなりますよね。と書きながら、そのアクセス解析を俺はスマホで見てるわけですが…。

下層下層と書くとまたややこしいがこの場合のインターネット下層部はレガシー級テクノロジーの掃き溜めといったところで、劇中には出てこないがたぶんあの周辺には耐震構造が確実に前世紀の阿部 寛のホームページとかが建っている。そういうエリア。
これとは別にダークネット横丁というのも出てきて、ネットの下層というとこっちの方をイメージする人が多いんじゃないかと思うので下手な書き方をしたなとちょっと後悔するがもう書いちゃったので振り返らない。

大手サイトが林立するインターネットの上層、それからほとんど人目につかない下層、でもって通常の手段ではアクセスできない(ので、案内人が出てくる)ダークネットの三層が映画の中で描かれるネットの世界で、ラルフとヴァネロペちゃんはその主に上層に位置する大手サイトを色々と巡っていくわけですが-、いやこれこうやって書き出してみるともう『マトリックス』じゃん。
『マトリックス』が頑張って頑張って頑張って知恵を絞って想像力をフル発揮して三部構成にまでして具象化したインターネットのデジタル世界が二時間足らずの全年齢対象ディズニー映画で超わかりやすく現出しちゃってるじゃん。

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俺『マトリックス』全然好きじゃないですけどなんか切なくなったよ。『マトリックス』のウォシャウスキー姉妹、CGレース映画の『スピードレーサー』とかも撮ってるわけだから『シュガーラッシュ』みたいな映画に先鞭をつけたことの意義は揺るがないと思うのですが、こんな易々とその表現を超えられてしまったらさぁ…あれだなマウスポインタの落ちてる横になんかボッロイ小屋とかも建ってるんだろうなこれ、入り口にホコリまみれのアクセスカウンターが置かれていて、日照りと風雨で変色変形したシャドー付きの“マトリックス考察”の貼り紙がある感じの…。

で、よくできているなぁと思うのはこれ単にインターネットの要素を絵本的に具象化・擬人化してるだけじゃなくてやっぱディズニーだから教育映画になってんですよね。
一応ストーリー的なところに少しだけ触れておくと、ヴァネロペちゃんが住むゲーム筐体“シュガーラッシュ”がひょんなことから壊れちゃってゲームセンター内難民になるわけですヴァネロペちゃんらシュガラのキャラが。もうメーカーも潰れて交換パーツ取り寄せられないからっつって。

そこへ交換パーツeBayで売ってる情報が入ってきて、じゃあ俺たちで交換パーツ落札して筐体直そうってことでヴァネロペちゃんとラルフはインターネットの世界に行く。
インターネットの世界は広い。インターネットの世界は凄い。ゲームセンターのローカル環境にないものが全てある。
うわぁって感嘆しながら二人が歩いているとなにやらいかがわしい男が看板を手に近づいてくる。その口上、「ゲームでお小遣い稼ぎ!」ネットでよくあるクリックしたらいかん広告だ!

こういう教訓的なやつがたくさん出てくる。eBayで筐体パーツを落札するには金が必要らしい。ネットで手っ取り早く金を集めるには? YouTuber(的な)だ!
かくしてヴァネロペちゃんのためにVTuberデビューを果たしたラルフはその懐かしキャラがオッサン世代に受けて一躍時のチューバーとなるのだったが、その栄光も長くは続かない。移り気なユーザーはすぐ猫動画なんかに流れてしまう。

対策は一つ。飽きられないように動画を量産しまくるべし。人の動画ネタをパクっては俺のネタとしてひたすらアップしまくるラルフの姿にネットの恐ろしさを垣間見るが、ラルフも方も粗製濫造動画に付いた大量の罵倒コメントに触れてネットの怖さを目の当たりにするのだった。なんという教育映画!

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チューバーが散々な目に遭う映画に日本語吹き替え版ではHIKAKINがゲスト出演を果たしているというのは皮肉な気もするが、そこは教育的配慮を織り交ぜつつも否定とまではいかない微妙なバランスを保っているので結局、インターネットは適切に使いましょう的な煮え切らない穏当メッセージに着地。

とにかく画面の情報量が膨大なものだから次々に押し寄せる情報の波に圧倒されてつい忘れそうになってしまうが、そういうわけでストーリー自体はかなりざっくり風味というか、子連れ客向けの教育的配慮と協力各社向けの商業的配慮の狭間でなんとも収まりの悪い感じになっていたように思う。

なんかイイ話っぽくはあるんですが。外の世界にどんどん飛び出して行きたい子どものヴァネロペちゃんと今更もう外の世界には馴染めない親代わりのラルフの衝突をインターネット環境とローカル環境を対比させる形でやっていて、でもそれがなんていうか、それだけならイイ話だなぁってなるんですけどeBay出そうとかYouTube(的な)出そうとかやっているうちにどんどんボヤけていって。で、見てるこっちも別にそれで楽しいからいいやってなっちゃって。

だから面白い映画だったんですけどそっかぁみたいな。気持ちスマホ画面風にデザインされたエンドロールに流れる無数の角丸アイコン(そして画面右側にはスクロールバー)を眺めているだけでも気分が高揚するっていうそういう映画ですけど、それって自分の知ってるモノや世界が画面の至る所にずっと映り込んでることに根を持つあるある的な高揚で、これ自分の地元にアド街かモヤさまが来たみたいな感覚に近いんじゃないすかね。

って思ったらちょっとだけ白けたりした。それもうシュガラとかあんま関係ねぇなみたいになっちゃって。
そうして一度白けると超おもしろいはずのディズニーの自社キャラいじりも所詮は商品展開上の都合を物語を蔑ろにしてでも映画内に組み込んだ随分とえげつないものに見えてくる。

加藤幹郎という人は新書「映画館と観客の文化史」の中で、『サイコ』の劇中には登場しない関連グッズ(ベイツ・モーテルで使われてる設定のコップとか)を引き合いに出しつつそれを「映画のリアリティを巧妙に利用しながら映画の立体版(疑似実物)たることを目指すテーマパークの商品戦略」と評していた。

そんな回りくどい論理とオタク臭い言葉遣いをしなくてもグッズと作品世界を無限に展開していくためのセコイ手法とでも書けばよろしかろうと思うが、『シュガーラッシュ オンライン』でのディズニー・プリンセスが普段着に着替えるという二次創作的な(的なというかそういう作品を発表しているアーティストがいる)ジョークを見ると、気乗りはしないが同意したくはなるんであった。

この場合は上の引用からもう一段階進んで、映画の方が観客のリアルを掠め取って自己宣伝と商品展開の拡大に利用するような形になるわけですが。

【ママー!これ買ってー!】


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公開当時かなり酷く言われていた気がするが、ついに『スピードレーサー』の時代が来たな! 俺は見てないけど!

↓前作


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500
よーく

概ね楽しく観劇したけれどあのディズニープリンセスのところはちょいモヤモヤが残ったのも事実です。「映画館と観客の文化史」という著作は寡聞にして存じませんが言いたいことはまぁ分かります。フィクションがその精度を高めるために練りに練られた設定だったり楽しいはずのファンサービスはふとした瞬間にビジネスのとして洗練が見えてしまって白ける、ということはままあるような気もします(全然違うかったらすまない)。最初にプリンセス集合の予告編を見たときはおっさんのくせに心躍ったりしたんだけど予告編の第二弾とかもプリンセス推しだったから不穏な予感はしてたんですよね。これはディズニープリンセス版のアベンジャーズの試金石にでもするつもりなのかなと邪推したりもしちゃいます。
まぁそこは百歩譲ってどうでもいいとして、俺は今作は一つだけノレないというかそれはダメじゃねって明確に思う部分があったんですよね。これ前作を観ていない人は絶対に気付かないんだけど前作では「ゲームのキャラクターが自分のゲーム以外の作品に出ること」はご法度で最大級の禁忌という扱いだったんですよね。その行為は前作のストーリーのコアにもなっているので非常に重要な設定だったと思うんだけど、ヴァネロペちゃんは普通にあのGTAみたいなゲームに出演しちゃってんじゃないの?あまつさえ最終的には引っ越してるよね?という疑念が最後まで消えなくてノレなかったですね。
まぁ今手元に前作のソフトがなくて確認できないから俺が細かい設定を失念してるだけかもしれないけど、うろ覚えだと他のゲームの世界に遊びに行く程度はOKだけど外の世界のプレイヤーと関わるようなことはダメ、て感じだったと思うんですよね。それで行くとヴァネロペちゃんは例のスローターレース内で明らかにプレイヤーと接触してるから前作の基準ならアウトだろう、と。これは続編モノとしてはかなりダメなんじゃね…と思いましたね。別に監督が変わったわけでもないのに何か腑に落ちない感じがします。前作ではダメで今作はOKという説明も特になかったしなぁ。もしかしてラルフのゲーセンだけのローカルルールだったのかな…とか思っちゃいます。
そこ以外はとても素晴らしい出来だっただけに何かちょっと惜しいなぁという思いが残ってしまいました。
ちなみに前作はマジで滅茶苦茶良く出来た脚本だから時間があればお勧めしますよ。

マイブログにリンク&引用、貼らせてもらいました。
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なにとぞ宜しくお願い申し上げます!!