料理の殺人映画『Diner ダイナー』感想文

《推定睡眠時間:10分》

俺はあああぁぁぁぁぁここのおおおぉぉぉぉぉ王だッッッ!!!!! 母親に捨てられ生きる目的を見失ったみなしご玉城ティナa.k.a.大場かな子はひょんが過ぎるひょんなことからメキシコ渡航を思い立つが先立つものがないので無謀にも日当30万の明らかに闇な仕事にネットで応募、その仕事とは強盗のドライバーだったのだがこのカップル強盗がヘボだったのであっさりギャング的なやつらに捕縛、殺される寸前でギャングの温情措置的人身売買により玉城ティナが売り飛ばされた先は賭博船ではなくキング藤原竜也がオーナーシェフの殺し屋専用ダイナーであった。でも個室いっぱいあるからダイナーっていうかあれ洋風料亭だろう。

世界の巨匠・蜷川実花監督最新作『ダイナー』は平山夢明の同名小説を原作に仰ぐストレンジなノワール・コメディ、俺なりにどんな映画か端的に説明してみると宮藤官九郎の映画のスベってるなぁっていうところと堤幸彦の映画のスベってるなぁっていうところと松本人志の映画のスベってるなぁっていうところのみを抽出して煮詰めたような映画であった。あとむかし第一回船堀映画祭で観た殺し屋が集まるバーでの騒動を描いた近隣の映画学校の実習映画にもちょっとテイストが似ている。

うむ、これは、どうしろと…どうしろと言うんだ? 「世界で戦えるものにしたい」(監督談)との意向により金に信頼にものを言わせて著名なアーティスト大招集、和洋折衷でパンクにポストモダンな目が疲れる衣装の数々や絢爛豪華にとっちらかったダイナーの室内美術なんか確かに目を瞠るものがあり、横尾忠則が壁の絵を手掛けたりしている。

なるほど世界で戦えるのは間違いない。ストーリーはやがてダイナーを所有する殺し屋組織連合のトップの事故死に端を発する内部抗争に発展していくが、この殺し屋組織連合のトップとして威厳たっぷりの肖像画に描かれているのは蜷川幸雄であった。すごい! 横尾忠則と蜷川幸雄! いや世界で戦えるってそういうことじゃないだろ。お前もう親の七光りを隠そうともしないで完全に開き直ってるな(追悼かもしれないがそういうのは家でやれ)

せめて玉城ティナの物語ぐらいはちゃんと描いてほしかったとおもうが世界で戦うにそんな細々としたものは無用、圧倒的な美術と金の暴力の前で演技も台詞も料理も残酷描写もストーリーもただただ萎縮してひれ伏すばかり。好悪はともかく見物ではある衣装とかセット以外に(あと有名な人ばかりの俳優陣)どこを観たらいいのか困惑してしまう。
そうか蜷川実花先生の動く個展を見に来たつもりで観ればいいんですね。合点承知の助! う~んこれが蜷川実花の世界かー! 百花繚乱! なんでこっちがそんなに気を遣わないといけないんだ。ダイナーが客に気を遣わせるなよ。

だいたいこのダイナーはあり得ないんですよ。まずきったねぇしね。ケバケバしくシャレオツな内装はそれが殺し屋がダイナーに求めるものかどうかは殺し屋じゃないから知らないんですけど飯が美味そうに見えないし掃除しにくいからホコリすげぇ溜まるじゃん。この店は他にバイト雇ってないから玉城ティナに掃除からフロアから調理補助から全部やらせるんですけど絶対掃除に手回ってないよね。
キング藤原竜也は自分の料理を玉城ティナに差し出して「それは見るものじゃない、食べるものだ」とか言うんですけど嘘つけお前店の見てくればっか考えてるだろ。

機能性を二の次にして食材で糞狭い調理台を飾り付けた見てくれ重視の厨房もまったく調理に適さない上に保健所の検査が確実に通らない最悪の衛生度だが、キング藤原竜也はなんとここに愛犬を入れて一緒に遊んだりするのであった。
ちょっと待てこれが料理に命をかける元殺し屋シェフの居城かよ! あと愛犬普通にフロアに出してるし! 犬はかわいいよそりゃあ! 犬だいすき! でも衛生面を考えろよどうせ客はいつ死んでも構わない殺し屋どもだからいいやってことかもしれないが! 文字通り闇営業だから保健所とか関係ないですしね! 入江さんここなら闇営業オッケーですよ!

そういうシナリオ的なディティールの徹底的こだわらなさが本当ダメだなと思ったんですがしかし見方を変えよう、これはお伽噺だ。なぜなら店で働くことになった玉城ティナはキング藤原竜也の趣味により風俗のスペシャルデーみたいなエロい白雪姫カラーのウェイトレス服を着させられて小人殺し屋に襲われるから(わかりやすいな!)

ダークな『白雪姫』としての『ダイナー』。あくまで殺し屋界隈でのみ最高の料理人の誉れ高いキング藤原竜也の作る創作料理は園山真希絵作品を思わせてどれも毒々しく少しも美味そうに見えないし奴隷労働の褒美としてキングに与えられた真心料理を食った玉城ティナの反応もまったく感情が入っていなかったが、いいんですあれは食べてはいけない毒リンゴ。30万の高額報酬に釣られて地獄に堕ちた憐れで愚かな少女が白馬のキングさまの手を借りずに棺から飛び出すまでのお話だったんですなこれはぁぁぁぁぁ!

いや意図はわかるがそれで別に映画面白くならないから。この前ソフィア・コッポラもダークお伽噺の映画撮ってましたけどなんでお前ら世襲監督はそういうのばっかりやりたがるんだ。いいけど一足飛びに奇を衒った世界を作る前にまず普通の人間ドラマを普通に一本演出してみろっつーの。
玉城ティナのみなしご演技はよかったですけど空間演出に頼りすぎて逆にその良さが見えなくなってるじゃないですか。直截的なバイオレンス描写がほとんどなくてドタバタギャグになっているのはレイティングの都合上ある程度は仕方が無いとしても組織の内部抗争が書割にしかなってないのは単純にダメじゃないですか。いいけど。ネタ的におもしろかったからいいけれども!

「これを食うために生きてる」みたいな台詞が二回も出てくる映画にも関わらずその料理が少しも魅力的に映らない。半年続いた無職期間を役所からもらった住宅確保給付金でとりあえずアパートから追い出されないようにしながら白米+ふりかけもしくはスパゲティ+たらこソースのローテーションで凌いだ後に再就業後はじめての給与で食ったサイゼのハンバーグで泣いた俺としては(蜷川実花先生にはそのような経験はないでしょうが!)食に伴う人間の感情の揺れをもっと丁寧に描いてほしかったが、何度心の中の蜷川幸雄がスクリーンに灰皿を投げつけようとしたかわからないぐらいネタ映画的な完成度は高かった。

まあこういう映画もたまにはいいよね。こういうのばっか食ってると死にますけどたまに食う劇薬は珍味。音楽もかっこいいしね。いいんじゃないですか? いいでしょ? いいだろうがあああぁぁぁぁぁ俺はあああぁぁぁぁぁここのおおおぉぉぉぉぉ王だッッッ!!!!! テンションだけで乗り切ろうとするな。

補足:
映画版『東京喰種』の新作で変態レストランに招待される窪田正孝が『ダイナー』でもキング達也レストランに来店、蜷川幸雄をモノマネメイクで演じるのは井手らっきょ、などツッコませどころが盛りだくさん。ぼくたちが勝手に無駄に意識が高いくせに美意識は小学生な世界の巨匠()と勘違いしているだけで蜷川実花先生、実はサービス精神旺盛なバラエティ番組の構成作家みたいな人なのではないだろうか? ぜひとも次作は鈴木おさむ脚本で吉本芸人大量起用みたいなやつでお願いします。

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食とバイオレンスの融合ってこういう面白い映画を想像するじゃないですか。するじゃないですか。

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2 Comments
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匿名さん
匿名さん
2019年7月19日 1:57 PM

> 俺なりにどんな映画か端的に説明してみると宮藤官九郎の映画のスベってるなぁっていうところと堤幸彦の映画のスベってるなぁっていうところと松本人志の映画のスベってるなぁっていうところのみを抽出して煮詰めたような映画であった。

この部分が最高に共感できたので、思わずコメントしました!
今後もブログの更新を楽しみにしてます。