デュフィ風SF人魚姫ヒエロニムス・ボス添え映画『ChaO』感想文

《推定睡眠時間:0分》

昨日まで存在すら知らなかったこの映画なのだがポスターを見るとピンクとか青とか鮮やかな色使いでなんかゴチャゴチャしてて少女漫画的な楽しさがあったのでよくわからんが東映アニメ何十周年記念作品を銘打ちながらも興行的にはメガンテ級に爆死を遂げた非業のオリジナル少女アニメ映画『ポッピンQ』みたいなものかもしれないと仄暗い期待を胸に劇場に突入したところなんかその期待もあながち間違いではないっていうかかなり変な映画だった。

ジャンル的には一応SFファンタジーみたいな感じになるのだろうか。未来の上海では人間族と魚人族が共存していて魚人用ハイパーループ交通システムとかがあるのでなんとなく『マイ・エレメント』あたりを彷彿とさせなくもないのだが、ここが脚本の説明不足により想像になるのだがちょっと前までは人間族と魚人族がこんな風に地上で共存してはいなかったらしい。地上には人間族、海には魚人族がいて、戦争しているわけではないが魚人族は船のスクリューとかに巻き込まれて魚が死んだりすることにご立腹。ところがその関係性を変えた人物がいるというので狂言回しの雑誌記者は取材に行くんである。

この世界を変えた人物、もともとはうだつの上がらない船のとかの設計会社のデザイナー。スクリューは魚を巻き込むので巻き込んでも被害の少ない安全な推進装置を開発しているがそんなん採算取れないじゃんと山里亮太演じるハンプティダンプティみたいな社長に怒られる。ところがどっこい展開が急でどうしてそういうことになったのかようわからんのだがいきなり海から現れた魚人の娘さんがこのうだつの上がらない主人公に求婚してメディア大注目、社長も魚人と魚にやさしい主人公デザインの推進装置が魚人たちに売れるんじゃないかと考え一転して主人公を推しまくる。そんなわけで本人も事情は飲み込めてないが夢の安全推進装置開発のために魚人娘の求婚を受け入れ地上で同棲することにした主人公。しかし当然いろいろとトラブルが二人の愛の新生活を見舞うのであった。

この映画を制作したのはSTUDIO4°Cだそうで世間的には『鉄コン筋クリート』のスタジオかもしれないが個人的には『海獣の子供』のスタジオである。『海獣の子供』、なんかカルティックな映画だったな~。考えてみれば海を題材にした日本のアニメ映画というのは変というか作者のクセが相当強く出ているものばかり。来週金曜ロードショーでやるそうだが宮崎駿の『崖の上のポニョ』も公開時はナンジャコリャと世間を騒然とさせていたし、湯浅政明の『夜明け告げるルーのうた』も湯浅アニメなんか全部クセが強いとはいえ、やはり結構なナンジャコリャっぷりであった。ということでこの『ChaO』もナンジャコリャな映画である。

まずなんつっても美術が独特。鮮やかな水彩のタッチでゴチャゴチャとカラフルに描き込まれた近未来のややサイバーパンク風上海というのは他で見たことのないもの、清新さと猥雑さの入り混じる独特のその風景の魅力がこの映画9割ぐらいじゃないであろーか。俺はラウル・デュフィというフランスの画家が大好きなんですけどタッチが近いのはそれです。画壇的な評価は知らないがデュフィは日本でも結構人気があるようなのでわからん人はデュフィで検索してみれば感じ掴めるのではないでしょうか。ちなみにルフィで検索すると今はルフィを名乗っていたいけな若者どもをかき集めていた振り込め詐欺グループの人の顔とかが出てくるので間違わないで下さい。

でその大変魅力的な風景・美術の上に乗るのがSTUDIO4°Cらしいグロテスクに変形した奇怪なキャラクターたち。クセが強い、これはクセが強いね…色使いは鮮やかだし『人形姫』モチーフの物語であるからして女児などをぜひとも連れて行きたい感じっぽかったがキャラはなんかヒエロニムス・ボスの怪画に出てきそうで悪夢を見そうな強烈さだしこれは上海あるあるなのか知らないがいつもブリーフ一丁で外を歩いている謎のおっさんも頻繁に登場します。つの丸か? 主人公に求婚する魚人娘ちゃんは魚形態の時も人魚形態の時もどっちも可愛いのが救いだが…。

クセは強いとはいえこうした絵とかアニメーションの部分に関してはアーティスティックとも言えるのでシナリオ次第では名作なんじゃないかという気もするのだが、このシナリオが…いや正確にはシナリオが悪いのか、それともシナリオにあったいろんな説明的な部分を監督がオミットしてしまったからなのかはわからないのだが、諸々流れが不自然でだいぶイビツ。もう本筋に入る前の5分くらいで3回くらいなんでそーなるの? が頭に浮かぶわけである。たとえば狂言回しの記者が取材対象であるところの主人公の船に乗り込むシーン。この記者、船倉に入って空の木箱の中に中に入ろうとするのだが、別に密航してるわけじゃないしそのあと普通に出てきて取材してるのでなんで木箱に身を隠そうとしたのかわからない。その取材のシーンではコーヒーを渡された狂言回し記者が主人公の話を聞きながら心ここにあらずで砂糖をコーヒーカップに入れるつもりで何度も床に捨ててしまうのだが、そんな異常行動を取るような話は主人公してないからなんでそうなるのかわからない。

こういう腑に落ちなさが味付け濃いめの美術とか世界観の上に載ってしまうので全編違和感の連続。これを味と取るか「ハァ?」と取るかは観る人次第だろうが、とにかく、ナンジャコリャな映画であることはまぁ間違いがないんじゃないでしょーか。でもトータルでは面白かったよ。変だなぁ変だなぁとは思うことしきりだけれども退屈なシーンは全然なかったから。それにやっぱりデュフィを彷彿とさせるあの色鮮やかなSF風景は唯一無二、あれを網膜に刻むためだけでも観る価値はあると言い切ってしまう。決して巧い映画とは言えないが、きっと観る人みんなの記憶に残る映画には違いない。とにかく変だけれども。

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匿名さん
匿名さん
2025年8月16日 8:31 PM

変なあだ名を付ける趣味で好意の表現だったと明かされながらも聞き手のキャラが直球なセクハラ発言をしているから、どういう層を意識した映画なのかという疑問が浮かぶというか何というか。
「ストーリーが面白ければアニメーションは紙芝居でも良い」って自分は感じてますけど、この場合は「アニメーションが面白ければストーリーは素人小説程度でも良い」って事なのかとスタッフロールで流れるメイキングを見ていて思いました。(法華狼氏みたいな作画オタクというニッチなアニメオタクには面白いのかもしれないけど。いや法華狼氏はセクハラに厳しいからなあ…)
倒叙式のストーリーの割には話の骨子は単純なものですけど、でんじゃらすじーさんの曽山一寿さんが、『シーン(見せ場)を作るのは簡単だが、個々のシーンを「なんやかんやで色々あって」と繋げてストーリーにするのは凄く大変』とツイッターで書いてたけど、この作品もそれで失敗しているように感じました(監督は作画畑で脚本は海獣の子供と火の鳥望郷編リメイクの人ってなら、まあそうなるか)