《推定睡眠時間:0分》
気になって夜も眠れないというのは人間は寝ないと死ぬのだから嘘に決まっているがそれでもかなり気になることは間違いないので知っている人がいたらこっそりとコメント欄で教えてほしいのだが劇中に中学生ぐらいの女の子が出てきて男子中学生とクイズに買ったらお金あげます負けたら服脱ぎゲームとかいうカスの性欲ゲームをやるのだがそのときにこの女子中学生の着てるTシャツにモザイクがかかってて最初これは乳首が浮き上がっていて児童ポルノに厳しい昨今だから自主規制的にモザイクをかけたのだろうと思ったが(以前『太陽と桃の歌』という映画でそういう処理がされていた)どうも映像を見るに乳首ではなくTシャツにプリントされた絵柄自体にモザイクがかかっているようで、これがなんでなのだかわからない。
気になったのでネットで検索しても答えは見つからず、一応「版権ものなのではないか」という説が上がっていたが、一般的に考えて映画の中で役者が着ている服が版権ものだったとしてもモザイクなんか普通かけないし、それで訴えられるということもまず考えられないんじゃないだろうかということで、ブレインフォッグは晴れないままだ。いっそ配給にメールでもしてやろうか。「映画の中で女子中学生のTシャツにモザイクがかかっていて最初乳首対策のモザイクかと思ったのですがどうも乳首にしてはモザイク範囲が広く」変態と思われるだけだからやめておこう。
そんな『メルト』は宣伝によると後味最悪の胸糞ムービーだそうで仄めかし上手な予告編を見るに少女が性的暴行を受けることは間違いないだろうと思われたためえーそんな憂鬱になる映画観たくないよーと二の足を踏んでいたがちょうど観たい映画までの間に時間が空いちゃったしということで公開数週目にしておそるおそる劇場に入ったらさすがに胸糞ハードルを上げすぎたのかなんかわりとそんな厭でもないっていうか、いやまぁ厭は厭なんだけれども観客を厭な気分にさせるにはいささかキレイに整いすぎている映画なので、胸糞映画というよりは『柔らかい殻』のような暗黒ジュブナイルのテイストだった。
お話はこんなようなもんである。あるところに性的な事柄に対して忌避感の強い女性(主人公)がおった。この人のところへかつての幼なじみからフェイスブックで「新店オープンパーティやるぜ! 着てくれよな!」のメッセージが故意にか送り間違いか知らんが届いてしまう。ネコ顔の主人公はその知らせにウウッ! と身を震わせつつ「あの頃」のことを回想する。娯楽のない田舎町、どこの家庭もなんらかの問題を抱えている。主人公かっこ少女時代は両親の不仲から家に居場所を見出せず同い年の二人の男の子とばかり遊んでいた。ところがその内の一人が学校の男子ネットワークで例のカスなエロ遊びを覚えてしまった。このエロ遊びのガキも家庭に問題があり兄が死んだこともあり半ば自暴自棄で、他の二人を巻き込んでエロ遊びをするようになるのだが、そこへ都会から金持ち気味のマセた少女が越してきて…結果、なんらかの事件が起こり主人公は大人になっても心を閉ざしたまま。だが主人公かっこ大人はなぜかデカい氷を車のトランクに積み込んで故郷へと向かう。いったい主人公の目的はなんだろうか? そして少女時代の主人公を見舞った忌まわしい事件とは。
暗黒ジュブナイルとしては語り口が流暢だし映像も美麗で面白いのだが、しかし思うのは、この主人公少女時代にエロ事件(+それに対する大人どものヒドい仕打ち)に巻き込まれたため大人になっても常に傷心状態という描写で、記号的というか紋切り型というか。そのへん物語が暗黒ジュブナイルとしてキレイに整っているという所以なのだが、エロ事件の被害を受けたからっていつまでもメンタルが死んだままの人なんか現実には基本的にいないよね。氷がキーアイテムになってる性暴力関係の映画ということで頭に浮かんだのは石井隆の『フリーズ・ミー』という映画なのだが、これなんかは高校ぐらいの頃に幼なじみと仲間達から強姦された少女が地元を出て大人になり、平凡な会社員として恋人もいるしそれなりに毎日楽しくやっているという設定で、そこに出所してきた例の強姦幼なじみがやってきたことから悲劇が始まるのだが、被害者本人はあくまでもカスな過去を克服しようしているというのがこの映画のキモで、強姦被害者は一生心が死んだままで決して幸せにはなれないというフィクションが作り出した負のレッテルを引っぺがしたところに『フリーズ・ミー』という映画の立派さはあるのであった。
胸糞悪さを感じさせるための道具として強姦ないしエロ事件を使うというのもいささか安易で軽薄だが、それに加えて被害者像も陳腐なので、胸糞悪さを感じるとすれば内容よりも作り手の創作姿勢に対してであろうか。その意味でわりあい安っぽく想像力に欠くところのある映画だし、胸糞胸糞とそう持ち上げるようなものでもないだろう。ただ子役たちの縁起と思春期突入の複雑な関係性は繊細に描写されていたので、そういうところはよかったです。