タイトル読めない映画『由宇子の天秤』感想文

《推定睡眠時間:0分》

日本映画の壁を突き破る的な気概をアピールしてくる系のミニシアター系邦画とかを観ていて思うのは、最近だとこれとか『岬の兄妹』とかですけど、なんか、やたら悲惨なシチュエーションを作る。で、悲惨なものを観たら人は「悲惨だな~!」って感情動くじゃないですか。かつ、悲惨なものを悲惨さを強調する演出で見せたら「悲惨だな~!!!」ぐらいにエモ度がレベルアップするじゃないですか。それってそんなに褒められたものではないんじゃないって思うんですよね。ポルノじゃんみたいな。

ポルノならポルノで別にいいと思いますけど社会派でっせ的な感じを出されるとさぁ。社会ねぇ。この映画に社会ありますかねぇ。それはつまり社会があってその上にシチュエーションがあるという順番じゃなくてシチュエーションが先にあってそのシチュエーションを成立させるために登場人物たちとその背景が織りなす社会なるものが用意されて、っていう映画に俺には見えたんで、色んな社会問題が絡み合う映画ですけど、なんかわりと空虚な気がした。描かれるどの社会問題にもその核心には切り込んではいかないので表面的なんですよね。

そういう意図なのかもしれないですけど。現実の社会問題はそう簡単には解決しないわけだからそれをあえて総花的に表面だけ見せて問題提起するんですみたいなさ。この居心地の悪さをみなさんちゃんと味わって下さいねこれが我々の生きる日本社会ですからね! みたいなさ。いや俺は(そうだとしたら)それはそれで不誠実な作りっていうか、だったら場面場面のネガティブエモはある程度犠牲にしてでももっと俯瞰して物語を見せたらいいじゃんとか思いますけどね。

結局そこしか残らないんだよ。ネガティブエモ駆動の映画だから場面場面は頭に残りますけど、これを観たのは2週間ぐらい前で、それを今こうやって映画の内容を思い出しながら感想を書いていて、出てこないもんねマスメディアのモラルがどうとか公立校と教育委員会の隠蔽体質がどうとか貧困一人親家庭がどうとかそういうところは。そういう感じの物語だったなぐらいは思い出せますけどそれはあくまでもネガティブにエモかったあれこれのシチュエーションの背景としてで、それ自体ではないんだよな。

複数のドラマの起承転結の転を転転転々転って感じでくっつけてどれも結まで行かないところでブツっとエンドロールに入るのはスタイリッシュでカッコよろしいけれどもカッコのための社会派ドラマでいいんだろうか。でも別に社会派ドラマとかよく考えたら誰も言ってないしな。言ってる人はいないわけではないと思うが宣伝でそれを推していたわけでもなかったと思うし(※このへんはちょっと怪しい)

じゃあ結局なにかと言えば、だから、ポルノなんだよ。感情を勃起させることを主目的にした映画としか思えないし、主人公のテレビディレクターのハードボイルド的な佇まいにしても、流行りのダルデンヌ兄弟風のドキュメンタリータッチの演出とカメラにしても、行動や発言の一貫しなさを「人は自分で思ってるほど自分をコントロールできないし、それに人は嘘をつくものだから」みたいなオッサン的一般論の免罪符で正当化するキャラクター造形にしても、観客の感情を勃起させるだけで、映画が扱う社会問題とは何も関係しない。

なんだったんですかあの人の最後のあの行為は。そのための下準備としてこの人はこういう性格ですみたいなシーンが2箇所あったと思うが、その行為の重さからすれば2箇所下準備を入れたぐらいでなるほどね~ってなるものでもないだろう。それは他のキャラクターにも言えて、まぁとにかく人の気が変わりまくる映画なのだが、そんな簡単に人の気って変わるかなぁと俺としては思う。変節に至る心理過程を仔細に追ってしまったらショッキングなシチュエーションを作れないんで、この映画は人間を誠実に撮ることよりもシチュエーションとエモを取ったんでしょう。

最近のミニシアター的衝撃作は云々とか腐しましたけどよく考えたらこういうのってミニシアター向けの邦画以外にも結構ある。その頂点に立つのが黒沢清で下に深田晃司とか吉田恵輔とか吉田大八とかがいる。奇しくも田の連発。この人たちはみんな単線のその分掘り下げの深いドラマじゃなくて、社会問題を盛り込みつつ群像劇的に複数のドラマをあくまで表面的に絡ませて、その絡み合ったところでそれぞれの事情と感情が火花を散らしてたいへんエモくなるとまぁこのような映画作りをする。流行ってるのかな。ぶっちゃけ食傷気味です。面白いけど。

なんかだからそういう邦画が最近多くて、それで「またかぁ」って感じになっちゃったのかもしれない。マスコミのモラルがどうのとか何回最近の邦画で見たかなって思うし、これはこの映画だけではないが露悪的な形でマスコミの問題を見せるんですけどなんでそういう現状があるのかっていう本質的なところには本当に全然食い込んでいかないからこっちとしては食い足りないですよ、やっぱ。

まぁでも刺さる人には刺さる映画だろうから別にこれでいいんでしょうよ…とふてくされ気味に大人の結びに入りかけたところででもそれはやっぱおかしいだろっていうところがあったので最後に挙げておきたいんですが、「血筋」って小学生は言わないだろっていうか、いやそれはどういうシチュエーションを想定しての台詞なのそれは。親の話を聞いてたガキが言葉だけ覚えて言ったとしても今の小学生の親で「血筋」ってナチュラルに出るかね普通。おじいちゃんおばあちゃんの言葉かもしれないけれども。教師が言ったのかもしれないけれども。そりゃ作ろうとすればいくらでもその台詞の背景は作れるわけですけど、そういうインパクト至上主義的なところがなー、なんかやっぱ感じ悪い映画だと思うなこれはー。

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こっちは主人公一人に焦点を絞ってるんですけど設定からしてあくまっでシチュエーション先行のインパクト至上主義はインパクト至上主義なのでやっぱこれもそんなに良い映画とは思えずなんかもう基本的に邦画の突破口開けたるで系映画わりと全部合わない(ただしドキュメンタリー映画は別)

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