アメリカは今日も戦場映画『キャッシュトラック』感想文

《推定睡眠時間:0分》

ガイ・リッチーの名前を知ったのは映画とか雑誌とかではなくペット・ショップ・ボーイズのMV集DVDのコメンタリーでボーカルのニール・テナントが「ジェラシー」のMVを見ながら「(バイオレンス描写が)ガイ・リッチーの映画みたいだな」とか何気なく言ったらボーカルと作詞以外担当の相方クリス・ロウのツボに入っちゃって「おい、ガイ・リッチーを呼んでこい!」とか笑いながらクリスは2回ぐらい言うもののニールはそんな面白いことを言ったつもりはなかったのでとくに何も返さずスルーするみたいな…これ俺の記憶だけを頼りに書いてますから実際の流れは違うかもしれないがだいたいこんなニュアンスのシーンがそのコメンタリーにあって、それでガイ・リッチーっていう映画監督がいるんだなって知ったわけです。

ところでペット・ショップ・ボーイズのMVといえば二人が出てくるMVの時はニールは歌ったりちょっと踊ったりとかするもののクリスはその横にグラサン+無表情で突っ立ってるだけというのが基本パターンで代表曲「ウエスト・エンド・ガールズ」のMVに至っては棒立ちに加えて半透明処理までかけられ幽霊みたいになってしまった! 果たしてそれがどうガイ・リッチーの最新作『キャッシュトラック』と関係するのかといえば『キャッシュトラック』の主人公ジェイソン・ステイサムも幽霊みたいな佇まいの人で表情も言動も死んでおりその向かうところには呪いのように死体の山がという…強引なのはわかってる!

でもある意味で幽霊の映画ではあるんだよな。ガイ・リッチー作品を何本か観たことのある人ならガイ・リッチーの幽霊(的な)映画とか言われてもなかなか想像しにくいと思うが、たとえばこれはガイ・リッチーと同じイギリス人監督のジョン・ブアマンがリー・マーヴィンを主演に迎えてアメリカで撮ったドライなノワール映画『ポイント・ブランク/殺しの分け前』と共通するムードがあって、ロンドンを舞台にした犯罪群像喜劇を多く手掛けてきたガイ・リッチーだが今回はアメリカが舞台だからか従来の軽妙洒脱な作風をほぼほぼ封印しているのだ。

『ポイント・ブランク』のリー・マーヴィンはただ復讐のみを求めて汚れた街をさまよい最後は幽霊のようにフラっと消えてしまうなんだかよくわからんヤバい人だったが、そのキャラクターを『キャッシュトラック』のステイサムが半歩ぐらい踏襲しているように見えるのは、『ポイント・ブランク』の一応の原作となっている『悪党パーカー』シリーズの映画化『PARKER/パーカー』にステイサムもまたタイトルロールで出演していることからすればさもありなん、あながちこじつけとも言えないだろう。

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唐突にも思える作風変化だが考えてみればガイ・リッチーの前作『ジェントルメン』にもその予兆はあり、そこではアメリカ人麻薬王マシュー・マコノヒーの下で一種の人種間抗争が繰り広げられるわけだが、このアメリカ人麻薬王がとにかく人間として全然面白くないし美学も粋も何もない…いや美学はあるようなのだがその美学というのは全てが競争に関するもので、どうやったら合理的に競争に勝てるか以外に何も興味がないように見える。したがってユーモアとかゼロ。そんなつまらない人間の手の平で小粋なロンドンっ子たちが踊らされ人種間抗争が勃発するのが軽妙洒脱だがなんだか切ない『ジェントルメン』であった。

『キャッシュトラック』はその傾向を更に推し進めたガイ・リッチーのアメリカ人論とも捉えることができる。現金輸送車警備を巡って警備員とギャングと強盗などが涙はないが血は吹き飛びまくるぶっ殺し合いと裏切り合戦を繰り広げるわけだが、とにかくまぁここに出てくるアメリカ人たちというのは仁義もなければ人情もなく美学も倫理もユーモアだって当然ないし、いかに自分の力を誇示して相手のマウントを取るかということと、いかに合理的に金儲けをするか、つまりは資本主義の競争に勝つかということにしか興味がない。

ただしその二点の技術に関しては極限まで洗練された、あくまでその二点に関して言えばプロフェッショナルが普通に道ばたに転がってるのがすばらしきおろそしきアメリカで、ガイ・リッチー映画らしく時間軸をいじった群像ミステリーのシナリオであるから誰がそうかは見てのお楽しみだが、元兵士という人が出てくる。でこの元兵士の人はどうも戦場で感覚がおかしくなってしまってアメリカの日常では生きている実感がまるでない。幽霊のようなもので、それでこの人は自分の生きていた日々を取り戻そうとするかのようにアメリカを戦場にしてしまうわけです。

展開も重けりゃ即物的な暴力描写も重く劇伴もいささか過剰なほど重いし戦場を思わせる銃撃効果音も全員何かが麻痺している登場人物の演技までもが重い映画だったが、その重さの背後にはガイ・リッチーのアメリカに対する皮肉が透けて見えるような気がする。ノワールの本質は皮肉にありと古来より決まっているのでおもしろかったなーこれはー、一級品のノワールだったねー。なんとなく『ワイルド・スピード』シリーズの悪気ありまくりのパロディみたいなところもあるしね、ははは!

※構成の都合どの俳優のどこが良いと書くとネタバレになってしまう可能性があり大変に歯がゆいのだが、とりあえずアメリカ勢の芝居はすばらしかったとだけ書いておく。すっかり先輩キャラな『マインドハンター』のホルト・マッキャラニー、まだまだ若造キャラで行くジョシュ・ハートネット、狂犬フェイス全開のスコット・イーストウッド、そしてそして最近は名バイプレーヤーの地位を確立しつつあるジェフリー・ドノヴァンが…! ステイサムも多少ソフト&メジャー路線に寄せていた近年の演技スタイルではなくキャリア初期~中期のアウトロー路線にむしろ以前よりも凄みを増して回帰しており、このへん『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』でステイサムを俳優デビューさせたガイ・リッチーとして「ステイサムならこれだろ!」みたいな思いがあったのかもしれない。

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これもやっぱイギリス監督の目から見たアメリカの姿っていう感じがあるんだよ。

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※『キャッシュトラック』はこれのリメイク作で、オリジナル版はかなり昔に観たことがあったような気がしたのだが他の人の感想を読んだら内容が違ったので『ブルー・リベンジ』と勘違いしてたっぽい。なんかゼロ年代にプチブームになったフレンチ・ノワール・リバイバルの一本みたいです、『ブルー・レクイエム』(でもこれも新橋文化あたりで観たような気はするんだよなぁ)

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2 Comments
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匿名さん
匿名さん
2021年10月11日 9:57 PM

ステイサムがドンパチするんやろと思ってみたら重たい重たい
終始楽しくなさそうに人を撃ってましたね
元兵士たちの描写もすごい良くて、「ラストマン・スタンディング」のセリフも対比が効いてて印象的ですね
結局誰も欲しいものは得ていないという…
お仕事大変、労働意欲減退映画でもありました