ガチヴァン映画『ザ・バウンサー』感想文

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《推定睡眠時間:5分》

どこの国の映画だろうと思ってIMDbの制作国欄を見たらベルギーとフランスに続いてイギリス領ヴァージン諸島と書いてあってどこだよと思ったしイギリス領っつってんのにヴァージン諸島が映画制作に金を出すとイギリス映画と別枠になることがわかった。イギリス領ヴァージン諸島て。映画の制作国として初めて見たよそんなの(実際、IMDbで検索すると他にイギリス領ヴァージン諸島製の長編映画が出てこない)

ということで本邦初公開のイギリス領ヴァージン諸島製映画かもしれない歴史的な一本がジャン=クロード・ヴァン・ダム最新作『ザ・バウンサー』です。どうでしょうこの引っかかりのないタイトル。今回のヴァンダムはクラブとかストリップバーの用心棒なのでこんなタイトルになりましたが身も蓋もないですね。原題ともなればヴァンダム演じる主人公の名前そのままの『LUKAS』なので更に身も蓋もない。

でも考えてみれば『ターミネーター』とか『ランボー』とか今やA級のシリーズでさえ筋肉俳優が主演の映画は観に来る人も脳が筋肉で詩的な気の利いたタイトルにしてもわかんないからと言わんばかりの肩書きとか名前だけのシンプルタイトル。ジャッキー・チェンが英国で新境地に挑んだノワールアクションも『ザ・フォーリナー』といったので『ザ・バウンサー』というのも筋肉映画の伝統に則った正統派タイトルなのかもしれない。紛らわしくてどれを観たかわかんなくなってしまうのでこんな悪しき伝統はさっさと廃れてほしいとは思う。

まそんなことはともかく今回のヴァンダムは用心棒、と聞けばなにやら腕っ節の強いいつもの感じを想像されるかもしれませんがさにあらず、弱いわけではないがこのヴァンダム、極めてそこらへんのオッサン・ヴァンダムなのだった。
フロアから追い出した絡み酔客とちょっと揉めているうちにディープ泥酔状態の絡み酔客が転んで後頭部強打、意識を失った絡み酔客を見てヴァンダムめちゃくちゃうろたえてしまうし、その件で仕事をクビになってしまうくらいそこらへんのしがないオッサンなのだ。

そこらへんのしがない夜勤オッサンなのでヴァンダムには小学生の一人娘がいる。母親は既に他界して頼れる親族もいない(らしい)。学校の先生からは学費を催促される苦しい生活状況の中で仕事を失うわけにはいかないっていうんで、元同僚にストリップクラブの用心棒の仕事を紹介してもらう。
言われた住所にたどり着くと店の男に地下に連れていかれる。そこには野良犬のような男たちが何人も。怪しい。やばい。だがそんなヴァンダムの不安など一切忖度することなく店の男は事も無げに言い放つ。戦って残った一人だけ採用するんで。

束の間よぎった無双の二文字はすぐさまかき消される。地下ファイトに意に反して巻き込まれたヴァンダムは歳のわりには健闘するものの、後ろ回し蹴りも開脚もなくあっさりダウンさせられてしまうのだった。ただごとではない普通のオッサンっぷりである。

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とはいえここで負けたら失業者になってしまう。自分はそれでも構わないが娘を路頭に迷わせるわけにはいかない。娘に幸せになってもらいたい一心でヴァンダムは立ち上がり、命からがらストリップバーの用心棒の職を得るのだった。

以上おおまかな筋ですがどうですかこれは、この悲哀は。寄る辺もなく社会的スキルもない中年ヴァンダムの悲哀は傑作『ユニバーサル・ソルジャー リジェネレーション』でも心が痛くなるほど描かれたとはいえ、『ユニソル』の場合は格闘超人として生きる道があった(戦うことでしか生きられない、というところがまた沁みたが)

けれども今回のヴァンダムにはそれもない。ヴァンダムが持っているものは娘愛だけで、金もなければ権力も当然ない、元軍人を匂わせる描写は一応あるもののあくまで一般人の範疇、意志が強いわけでも根性があるわけでもない、そう見えるとすればそれはなにかしらの辛い過去と苦しい生活の中で心が死んでしまっているからでしかない。

そんなヴァンダムが娘を守るためにヤクザな世界に足を踏み入れて堕ちていく、ということのやるせなさ。娘を想えば想うほど娘を危険に晒してしまう痛切な皮肉。痛い映画でしたなぁこれはぁ。それはヴァンダムだからこその痛さで、凡人ヴァンダムのノワール行脚はヴァンダムなのに虐げられてばかり(※これはある意味いつもそうかもしれないが…)、ヴァンダムなのにナルシシズムの発露がない、という意外性が独特の痛みと緊張感を醸し出していたし、ヴァンダムの悲哀シリーズの口火を切ったセルフパロディ編『その男、ヴァン・ダム』から一切のユーモアを抜き取ったかのようなドライな作風はどこかヴァンダムのリアルを感じさせもして、二重に痛い。

抑制の効いたシリアス編という意味では出演のみならず製作と脚本も兼ねたヴァンダム入魂の『レジョネア 戦場の狼たち』に近い映画だったかもしれない。ただし『ザ・バウンサー』はもっと荒んでいる。決して語られることのないなにかしらの事情を秘めた裏社会の男たち女たちが淡々と「仕事」に従事する。その中で束の間芽生えた信頼や交感は、結局、「仕事」の前で露と消える。裏社会とはそういうもの。

それをわかりつつ、あくまで娘のための汚れ仕事と割り切ろうとしつつ、組織と家族と法の間で揺れ動くヴァンダムの渋演。突発的なバイオレンスや硬派な共演陣も素晴らしい、良いノワール映画だったと思う。

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いわゆるヴァンダミング・アクション的なものも少なくお話も演出も奇をてらわない正攻法なので結果として埋もれた感じになってますがおもしろいので観てください観ろ。

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